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1 - 6.『Inquirer - I』

1-6.『お尋ね者 1』

 僕がこの王都に来て、数日が経過した。ここのところ、毎朝王都近くの森に行っては魔法の鍛錬、帰ってきて夕食を宿で食べて寝る、という暮らしを続けている。暇人だ。


 近頃、王都近くの森の奥で危険な魔法を使う者がいるというから気をつけないといけない。僕は子供だから、捕まっちゃうかも……。


 いつもの如く起きると、下の階に降りた。


「おはよう、ロムス!」


 女将さんが声を掛ける。名前を覚えていてくれたらしい。


「おはようございます!」


 挨拶は会話の第一歩という。案の定、女将さんが僕に話しかける。


「今日も森に行くのかい?」


「はい、そのつもりです!」


「最近物騒な噂もあるからね……森の奥には行かないようにしなよ?」


「分かってます!」


 分かってます、しっかりと森の奥で魔法の鍛錬を積みます!一つの席に座ると、数日前に隣の席だったマントの女性が座っていた。ちびちびと水を飲んでいる。可愛い。


 向こうから見れば、七歳児が何だと言われるかもしれないが、これでも僕は小さな時から大人びてるわね~とおばさま達に言われたものだ。お世辞なんて言葉は知らない。


「今日も美味しいです!」


 朝食を食べ終わると、身支度を整える。よし準備完了。宿を出る。女将さんに見送られながら、朝の喧騒の中に紛れる。


「曇ってる……。明日は雨かな。鍛錬も休みにしようかな。」


 独り言を呟きながら王都の外壁へ向かっていると、誰かが話しているのを小耳に挟んだ。


「おい、騎士様だ……」


 後ろを向くと、騎士の軍勢が道の中央を闊歩していた。いつもの喧騒も今は静かとなっている。国民にとって、騎士とは恐ろしい存在なのだ。風紀の取り締まりも行う騎士は、自然と権力を握ることで横暴をしているものが大半だ。国民からの信頼は薄い。


「まさかあれって……セルヴィアーダ家か?」


 誰かがそう言ったのが聞こえる。騎士の軍列の間に挟まれるようにして走っている馬車には、僕も幾度となく目にした、セルヴィアーダ家の家紋が描かれている。そして、馬車の中からは見た事のある顔が窓の外を覗いていた。


 自然と僕もそちらを向いてしまう。目が合う。二人の間に沈黙が訪れる。だが、それも一瞬のことだった。通り過ぎると同時に父さんは目を背ける。僕も目を背けた。


「僕はもう違う」


 自分に言い聞かせるようにそう言った。弱い僕が悪いんだ。だから魔道学院で絶対に強くなって帰ってくる。そう決心することにした。


 王都の外壁に近付くと、そこは混んでいた。父さんの馬車が原因だろう。総出で動いているようだ。何か面倒な申請でもあったのか。僕には関係ないことだから待っておく。


 しかし、それがいけなかった。僕は街の景色を見ていると、背後から近付いた気配に気付かなった。声が掛けられる。


「ロムス」


 慌てて後ろを向く。そこには馬車の中にいたはずの父さんがいた。


「どうして……馬車に乗っていたじゃないですか。」


「申請が上手くいってなかったようでな。使えない門番だ。今、慌てて王宮に確認に行ってる。その間の時間でこうしてお前に会いに来てやったのだ。」


「ありがとうございます……」


 どうして僕なんかにかまうのか分からないけど、生みの親である父さんに逆らうことなんて出来ない。生みの親という点を無視しても、相手は公爵だ。逆らう余地などどこにもなかった。


「どうだ、魔道学院は受かったのか?」


「はい……どうにか。」


「そうか。クラスは?」


「……」


 馬鹿にされることは分かっている。だから自分のクラスは言いたくなかった。それも無駄な足掻きでしかなかったが。


「早く言え。お前の価値など分かっている。」


「……〈J-20〉です」


「やはりな、恥さらしが……。お前には成長というものが見られないのだな。」


 僕は強い衝動に駆られる。だがそれを抑える。見つかってはいけない。握り締めた手を緩める。それでも父さんには気付かれていたようだ。


「どうした?別に私を殴ってもいいが、既に勘当されたお前は死罪となるだけだ。……その掌どうした?」


 目敏く父さんは僕の掌の紋章に気付いた。僕の腕を引っ張る。


「痛っ」


「少し黙れ!これは何だ!」


 無理に開かれた掌には、龍の紋章が刻まれている。明らかに父さんの表情はおかしかった。動揺している……?


「父さん、これが何か知ってるの……?」


 僕がそう尋ねると、途端に父さんの表情が固まる。聞かれたくないことなのだろうか。


「……あ、痣か何かじゃないのか?」


「そう……なんだ。」


「どうやら申請が終わったようだ。私は戻ることにする。」


 そう言って父さんは去っていった。その後、馬車は王都を出ていき、門に並ぶ人の列も段々と減っていった。だが、僕には先程の父さんの表情がどうにも忘れることが出来なかった。

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