表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
55/109

3 - 8.『Departure』

3-8.『出発』

 その日、僕は中央都市の外壁の上から下に集まる冒険者達を見ていた。見た感じで正確な数は分からないが、凡そ5000人。昨日、大広場に集まっていた人数よりも更に増えている。どうやら羊主が再募集を掛けたようなのだ。


「どうかしら。これなら勝てると思う?」


 僕の隣には討伐隊の隊長がいた。勿論、羊主である。下にいる冒険者達は気付かない。下に集まる前に羊主に呼ばれたのだ。


「まあ……無理ですね。実際、何百人冒険者(アドベラー)が集まった所で厄災(カラミティ)を倒す近道にはなりません。」

「じゃあどうすれば良いの?」

「量より質です。」

「切り札は貴方……って事?」

「それはお楽しみです。」


 羊主は首を傾げる。それもそうだろう。昨日の戦いでも見せていない切り札をまだいくつか持っている。それを披露する時が来るかどうかは分からないが、持っていると持っていないのでは全く違うのだ。


「……まあ、良いわ。それよりみんな待ってるから行きましょ。」

「そうですね。待たせても良いことは無いです。」


 僕と羊主は外壁から飛び降りる。同時に落下の威力を軽減する為に紋章式魔法を魔力で描く。僕は札を持っていたが、羊主から2人分描いてくれた。優しい。


「おおっ!」


 降りてきた僕達に気付いた冒険者達が声を上げる。そのどよめきは段々と広がり、いつの間にか歓声に変わっていた。これだけの数が揃うと、まるで魔物の轟きのようにも聞こえてくる。人もまた魔物である、という古人の名言がふと頭に浮かんだ。


「さて、行きましょう。敵は5キロメトル先の古城を根城にしている!その古城を魔法で破壊した時、戦闘を開始する!それまでに根城近くに待機し、各自いつでも戦えるようにしておけ!」

「おうっ!」


 正直、僕はこの冒険者達に期待できるとは思っていないが、それでも数が集まれば勝てるのではないか、と思ってしまう。この中の何人が生き残るのかは分からないが……。


「それでは1時間後、根城近くの拠点で会いましょう!」


 羊主は宣言と同時に【転移の陣】を発動。一足先に拠点へ向かった。根城の近くにある街が今回の拠点だ。住民は全員避難している。冒険者達は我先にとあらゆる方法で拠点へと向かっていた。


「ロムス!」


 呼ばれる声に気付いて、振り向くとシーナとサグルがいた。


「僕達も行きましょう。」

「そうだね。行く方法はどうするの?」

「僕の【転移の陣】を使います。こういう時の紋章式魔法ですから。」


 すぐさま屈んで僕は魔力を人差し指に集めると、地面に魔方陣を描く。最初にこの魔方陣を見た時は、なんとも複雑で難解な模様だと思ったものだが、今ではそれも何も見ずに描く事が出来る。


「……はい、終わりました。この上に立って下さい。」

「これを3年間で使えるようになった、ロムスが信じれないよ……」

「それもこれもモリスさんとリーリアさんのお陰です。」

「そこで誇らないロムスは流石だね。」


 そうサグルは褒めてくれるが、僕は間違いなくあの2人のスパルタ修行によって、僕が紋章式魔法を使えるようになったと思っている。流石にここまで終わらないと飲食禁止、なんて言われたりすれば意地でも頑張ろうとするだろう。


「はい、行きますよ。魔方陣の中にしっかり入って下さいね。」


 3人が入っても隙間があるぐらいに大きな魔方陣を描いている。周囲の冒険者が見ているが入れるつもりは無い。関係ない人は走って行けば良いのだ。頑張れば、まあ……間に合うと思うし。


 僕は魔方陣に魔力を篭める。魔方陣が光を放つと【転移の陣】が発動した。僕達の姿が光となって消える。次に見えるのは僕達を待つ羊主の姿だった。


「待ってたわよ。」

「わざわざ待ってたんですか。」

「なんでそんなに嫌そうに言うのよ。」


 不貞腐れる羊主は無視だ。性格に難アリなのはセルヴィアーダ家の特徴であるのだから。僕の父親なんかその良い例だ。反面教師にしないと。


「まだ冒険者(アトベラー)達が来るまで時間があるわよ。」

「僕達は一度、厄災(カラミティ)の根城を見に行きます。」

「近くには行かないでね? 意外と探索能力も優れているみたいなの。」

「分かりました。あくまでも街からは出ないようにします。」


 僕達は拠点にしている街の広場から離れて、根城が見える高台に移動する事にした。幸か不幸か、この街は昔からあまり戦いに巻き込まれなかったようで、外壁は低めに建てられている。


 それぞれが出店の屋根から低い家の屋根、高い家の屋根へと飛び上がっていく。それから屋根伝いに外壁を目指した。


「久しぶりに走った気がする。」

「そうだね……前に走ったのはこの世界に来た時か。」


 狼に追い掛けられたのも今となっては良い思い出である。それも3年前の事。向こうの世界はどんな風になっているだろうか。時間の流れ方も良く分からないが、もしかしたらこの世界より何十倍も早かったりすれば、僕の存在なんて誰も知らない、なんて事も有り得るのだ。


「おっと、あれが外壁か。」


 僕は軽く【兎足】を発動して、一気に外壁へ飛び乗った。後からサグル、シーナと続いた。確かに古城が見える。あれが厄災(カラミティ)の根城。


「大きな城……」

「かつての羊主(エンペラー)の離宮だったとか言う話だね。初代の羊主(エンペラー)は一夫多妻でこんな離宮が世界各地にあるんだって。」


 羊主から聞いた話だが、初代の羊主は〈墓場の世界〉でかなりのハーレムを築いていたらしい。それだけ聞くとよくある話である。


「その1つに厄災(カラミティ)が住んでいると。聞けば聞くほど人みたいな性格をしているんだなあ……」


 怪物にしては類まれな危機対処能力を持っている。それに根城を作って暮らしている。まさに怪物であるが、どうにもその行動が人のようだ、とサグルは言っていた事がある。


「ロムス……あれは何?」


 シーナが指さした先を見ると、根城から出てくる影が見えた。


「人……?」

「人みたいだね。」

「なんで根城に人が住んでいるんだ?」


 僕達はしばらく根城を見ていたが、それから何も進展が無かった為、一度羊主の元に戻り、報告をする事にするのだった。







ポイント評価、ブックマーク登録お願いします!!!!

それらは執筆活動の大きな励みになります!!!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ