3 - 7.『Eve』
3-7.『前夜』
途中で寝落ちしてバックキー押しててかなり話が消えてました。泣く泣く思い出しながら書きました。
討伐隊が結成され、怪物に〈厄災〉という呼称が付けられ、僕が副隊長になった日の夜。
討伐隊の皆が参加する、前夜祭のような士気を高める為の会が開かれた。僕達が泊まっている宿の客も沢山討伐隊に参加した為、宿の食堂は臨時休業となった。その為、僕達も参加する事にした。
「すごい活気だね……」
サグルの言うように〈セントロトーレ〉から見下ろされるこの大広場は、沢山の冒険者の喧騒によって活気に満ち溢れている。
「この全員が迷い人なのも驚きだけど、更に冒険者以外にもいるから、この数十倍は〈墓場の世界〉に迷い人は居ることになるのか……」
僕が何気に呟いた一言は、改めて考えてみると衝撃的な値とも言える。百や千と言った単位では無いのだ。数万、数十万もの迷い人がこの世界には訪れている。
そして、それを束ねているのが賑わいの中心から少し離れた所で飲んでいる羊主だ。そう言えば、羊主とは畏怖される存在ではあっても、仲が良いという関係にはならないのだ。羊主の短所と言えば短所だろうが、あの羊主はぁり気にしていないだろう。
「サグルとシーナは先に食べてて下さい。僕はちょっと用事を終わらせます。」
「ロムス……あの人?」
シーナが見る先は勿論、羊主。僕は頷いた。あれでも僕の意外と近しい親戚だ。無碍にする事は出来ない。……と言っても、それは僕の自己満足なのかもしれないけど。
2人が先に立ち去るのを待って、僕は羊主の元に行った。近くまで行くと、気配に気付いたのか、少し顔の赤い羊主は僕の方を向いた。
「うっ……酒臭いですよ。」
「女の人に臭いって言わないで頂戴。」
「やけ酒ですか?」
「子供のくせに貴方は生意気ね。」
「それは褒め言葉と受け取っておきます。」
僕は近くの葡萄酒を取った。〈墓場の世界〉がどうかは分からないが、僕の世界では子供でも酒を嗜む。あまり量を飲むのは、身体の成長に良くない為、あくまでも嗜むぐらいだ。
「マセガキね。」
「もう10歳ですけど。」
「……確かに身長は伸びてるわね。」
「年齢も実力も上がってます。」
「はいはい。」
今日の羊主との戦いでは、途中で羊主が降参して勝負がついた。だが、羊主は恐らく本気を出していない。あの改変や魔法連撃からも分かる通り、僕が3年前戦った時よりも断然強くなっていた。
「なんで降参したんですか。」
「勝てないからよ。」
「それが嘘な事ぐらい分かってます。」
「……はぁ。ホントに嫌な子ね。」
「それはどうも。」
「あの荒くれ者達に分からせるにはそれしか無かったの。」
「まあ、確かに冒険者を見てたら、実力が無いと納得しそうにないですね。」
「そうでしょ? だからこうする他無かったの。」
僕は戦いたい冒険者を募集してその人に勝てば良いのではないか、とも思ったが、それでは強い冒険者が負傷し、その先の関係性にも響かねない。
そう考えると、やはり羊主の策が考える限りは最善であったのだ。この人が羊主になる所以が少し分かった気がした。
「私も聞きたい事があったわ。」
「答えませんよ?」
「殺すわよ。」
「どうぞ、殺せるものなら。」
「貴方は息をするように煽るの辞めてくれない?」
「僕の特技を潰さないで下さい。」
「悲しい特技ね。」
価値のない問答ばかりが続いていた。遠くから心配そうにこちらを見るサグルとシーナが見えた。僕は手を振っておく。2人は小さく振り返してくれた。
「……貴方は良い友達を持ったわね。」
「はい。貴方とは違いますね。」
「そうね。私はこの世界では常に孤独だったわ。」
「孤高であり孤独。紙一重とはこの事です。」
「言い得て妙ね。私には身に染みてそれが分かるわ。」
そう呟く羊主は少し寂しげであった。なんとも言えない心に渦巻く感情に疑問を覚えながら僕は聞いた。
「それで質問ってなんですか?」
「ああ……答えてくれるのね。」
「10秒以内なら。10……9……」
「貴方は剣客と会ったの? 最終的には帰るんでしょ?」
「はい、セーフです。……そうですね。はい、会いましたよ。」
「会ったの?」
「ええ。一度だけですが。」
僕はモリスさんの所で修行をしている時、一度だけ訪問者が来た時があった。但し、たまに家宅侵入しようとしていた都主は除くものとする。
それが剣客であった。不思議な格好をしていて、髪を後ろで纏めているような男だった。無精髭が似合わなかった。そんな剣客は、モリスさんとしばらく談笑していた。2人の関係は謎だった。
2人の話が終わると、剣客は僕に気付いたのだろう。声を掛けてきた。
『坊主は何なんだ?』
『何なんだ……とは?』
『ああ……えーっとな……論理的に話すのは苦手なんだ。モリス代わりに頼む。』
『はいよ。この子は私の弟子だよ。正確に言うと私の姪のだけどね。』
『あの頑固者のモリスが弟子を取ったのか?』
『この子が特別なんだ。私は普通は弟子を取らないよ。』
『モリスがな……ん? その左手の……まさか〈龍の紋章〉か!?』
剣客は僕の左手を強く握り、〈龍の紋章〉を凝視した。1歩引こうとするが、僕の手を握る剣客の力は強く、僕は抜け出せなかった。
『辞めな。ロムスに迷惑じゃないか。』
『……ああ、すまん。』
そう言う剣客は徐々に後ろに下がっていた。
『俺はな……その紋章を持つ奴には良い思い出が無くてな……』
『知ってますよ。羊主ですよね?』
『そう言えば今はそんな名前だったな。……もう終わった事だけどな。それよりもモリス。俺は用事が出来た。じゃあな。』
剣客は慌てて広く開いた袖から札を取り出した。
『あんたに用事なんてないだろうが。まだ説明してないのかい。』
『ああ、伝えられじまいだ。 』
『何がですか?』
『坊主には関係ない事だ。じゃあな。』
そう言うと剣客は去っていったのだった。それを僕は所々略しながら伝えた。聞いていた羊主は無言で頷くばかりだった。
「そんな事があったのね。あの事……まだ引き摺ってるの?」
何やら羊主も剣客と色々あるようだ。モリスさんと剣客もだが、羊主と剣客も結局よく分からないままである。
「なんかあの男の事を考えると、腹が立ってきた。」
「そ、そうですか……」
「貴方も明日に備えて準備しなさい。厄災は一筋縄ではいかないでしょうし。」
「勿論ですよ。それではまた明日会いましょう。」
「ええ。」
僕は羊主の元から離れ、サグルとシーナの所へ行った。それから僕達はしばらく食べたり話したりして、その後に宿に帰るのだった。
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