3 - 5.『Central Park』
3-5.『大広場』
その日の午後。僕はシーナとサグルとは別に大広場に向かった。2人は先に大広場で待っている、と言っていたから後で合流すれば良いだろう。
大広場に集まっている冒険者は1000人に上るのではないだろうか。それほどに多くの人々で賑わっていた。僕はその中に紛れる。どうやら人狼局の局員によるチェックなどはないようだ。安心して作戦会議が始まるのを待つことにした。
「怪物って本当に強いのか?」
「少なくとも羊主は負けたって言ってなかったか?」
「それは本当なのか?」
男三人組がそんな話をしていた。僕は耳を傾ける。
「本当らしいぞ。受付の奴が教えてくれた。」
「俺も人狼局の奴が言ってたのを聞いたなあ。」
「って事は本当なんだな。信じられないぜ。あの羊主がな……」
「いや羊主って言うよりもその怪物とやらがつよいんじゃねえのか?」
「俺ら生きて帰れるのか?」
「この仕事を始めて時点でそんな事はとっくに覚悟してるだろうが。」
「まあ、そうだけどな……」
どうやら人狼局の局員の話が本当であれば、羊主が敗北したのは本当らしい。だが、それすらも羊主による情報操作という可能性がある。わざと敗北したという情報を流す意味も分からないけど……。考えれば考えるほどドツボにはまるような気分だ。無駄な思考は辞めておこう。
しばらく待っていると、1人の男が冒険者達の前に現れた。
「これから作戦会議を行う!!」
途端に大広場に揃う冒険者達の歓声が巻き起こった。男が一旦後ろに下がり、元居た位置に魔方陣が出現する。〈紋章式魔法〉だ。つまりそこから登場するのは羊主。
沸いていた観衆は更に声を上げた。羊主は歓声が鳴りやむのを待っているのだろうか、静かにそこに佇んでいた。その内に歓声は鳴りやんでしまった。
「作戦会議を行う前に……1人余計な輩が紛れ込んでいるようね。耳の聞こえない哀れな子羊。分かっているんでしょ? さっさと出てきなさい。」
羊主が向ける視線の先には僕がいた。当然そうだとは予想はしていたが、どうやら僕を捜す為にしばらく何も言わなかったようだ。
渋々僕は前のほうに出る。今まで僕と同じ側にいた冒険者からの視線が痛い。まるで邪魔をするな、と言わんばかりだ。それもそうではあるが、僕にも僕の事情があるのだ。
「どうして僕の依頼参加を断るんですか?」
「貴方が嫌だからよ。」
「……は?」
そんな個人的な理由で参加が拒否されるとは思わなかった。
「じゃあ我慢してください。」
「絶対に嫌。」
「子供ですか……羊主ともあろう方が。」
「だって参加する必要なんてないじゃない。」
「……どういう事ですか?」
僕の質問に羊主は魔方陣で返す。
「貴方はここで負けるの。」
魔方陣が起動すると同時に僕の足元を中心に爆発が起こる。僕はそれを上空から見ていた。高速で発動した【転移の陣】。〈龍の紋章〉なら【第一制限解除】が必要な能力も紋章式魔法であれば、正確かつ安定した発動が保証される。魔方陣が強い魔法媒体となるのだ。
羊主はまっすぐを見上げる。一瞬の出来事ではあったが、羊主が見過ごす事はなかったようだ。
「怪物には負けたのに僕の事は目で追えるんだな。」
「大した自信ね。それに私は負けてないわ。そう情報を流しただけよ。」
「僕を釣る餌という訳か。」
「そういう事。貴方はまんまと釣られたわ。」
「それはどうも!!!」
魔方陣の描かれた札に魔力を籠める。これも紋章式魔法の強みの一つだ。何かに予め魔方陣を描いておけば、魔力を籠めるだけで発動ができる。消されたり、使われない限り、絶対に魔方陣は残り続ける。
「喰らえ!!」
発動したのは【砂嵐の陣】。視界を奪う。そしてこの魔法の効果はそれだけではない。
「〈改変〉ね。3年間で随分と紋章式が使えるようになってるわね。どこかのおばさんにでも頼んだのかしら。」
「ああ、お見通しなわけか。」
僕の【砂嵐の陣】は〈改変〉によって、砂の大きさが大きくなり、尚且つ鋭利なものになっている。触れるだけで肌を傷つけていく。
「【消失】。」
左手の〈龍の紋章〉に触れた羊主は、僕が期せずして教えることになってしまった能力を使う。だが、僕が【砂嵐の陣】に施した改変はそれだけではない。
「……消えない?」
いつの間にか発動していた【防壁の陣】で守りつつも、その隙間から襲い掛かる砂粒が肌を切り裂いている。そんな事は気にも留めずに羊主は砂嵐が消え去らないことに首を傾げた。
「これは改変でも魔法でもない。〈龍の紋章〉の新たな能力だ。」
「どこでそんな能力を?」
「この3年間、モリスさんの元で紋章式魔法を教わりながら、〈龍の紋章〉についても独自で研究を重ねた。その結果、僕は【第一制限解除】……そして、【第二制限解除】にも成功した。」
「そんなわけがないわ……。」
「第二制限を解除した時、この【反消失】という能力が使えるようになる。」
「お父様と同じ所まで……。」
「一つ言っておくけど、龍の紋様が腕に広がることはなかった。」
「そんなはずは……!」
「恐らく〈龍の紋章〉には何段階もの制限が掛けられている。」
「記憶違い……?」
「そういう事みたいだ。」
ここまで僕が丁寧に説明する理由はなんだろうか。羊主に対する優越感に浸りたいのだろうか、それとも同情か何かなのだろうか。僕には分からない。だけど、一つだけ分かることがある。……僕は羊主に勝てる。
今更気づいたことですが、羊主の過去話で羊主の父親が【第二制限解除】までしか使っていませんでした。完全な誤りでした。話を変えるのも面倒なので、〈龍の紋章〉に勝手な設定を付け加えちゃいました。まあ、この設定が活かされる事は無いかもしれませんが……。
ポイント評価、ブックマーク登録お願いします!!!!!!
それらは執筆活動の励みとなります。どうぞよろしくお願いします。




