2 - 36.『First Quest - IV』
2-36.『はじめての依頼 4』
ゲオグ・ジェネラルとの対決決着です。サグルの科学チートが炸裂するとかしないとか……。
※ロムス視点です
サグルの策を聞くと、僕は早速動き始める。
「じゃあ、少しの間お願いします!」
「うん、頼む!」
僕は【兎足】で跳躍する。そして、森を覆うように巨大な障壁を張り始める。【魔法障壁】という上位魔法だが、単体では効率が悪いため、【多重詠唱】で効率を上げる。
「なんだなんだ!?」
郊外の森の外では急に魔法の壁が出来るため、冒険者達が困惑していた。だが、状況を説明している暇はない。魔力を掛けて、急いで障壁を伸ばしていく。大体、中央都市の城門と同じ高さで良いと言われた為、大体20メトルほど。
サグルの様子を見る。まだ倒す必要はない為、サグルはジェネラルの隙をつきながら、攻撃をたまに入れる。まさに攻撃と回避の戦略であった。
「……よし、終わった」
1、2分ほど経過しただろうか。それでも魔法障壁を貼り巡らせることは出来た。これでサグルの攻撃の余波が最小限で済むようだ。魔法障壁をそのままに僕はサグルの元へ急ぐ。
「サグルさん、終わりました!」
「ありがとう!じゃあ!次のを!頼む!」
ジェネラルの攻撃を避けつつ、サグルは僕に指示する。事前に話し合っているため、そこに齟齬は生じない。
「【水塊】」
大きな水の塊が空中に現れる。次に必要なのは電気。
「【雷撃】」
1つの魔法を維持した状態で同時に魔法を放つという、〈魔法連撃〉と似た類の技術であるが、これを【魔法障壁】も維持した状態であるため、更に難易度は高い。でもここで失敗する訳にはいかないのだ。
「【雷撃】」
もう一度放つ。これは〈デンキブンカイ〉と呼ばれるものらしい。効率は悪いそうだが、これで水が気体に変わるらしい。湯気との違いを今度教えて欲しいものだ。
「ロムス、そこで水の塊を囲うように魔法の障壁を!」
「分かりました!……【魔法障壁】」
水のデンキブンカイで起こった気体は扱いとしては魔法である。魔法障壁でも充分に動きを止めることが出来る。
流石に全てに気を配らない状況の為、周囲にまでは気配りは出来ない。サグルは僕の方にジェネラルの気が向かないように、注意を起こしている。
「水が消えて……何も無い?」
「そこには水素と酸素がある!」
「〈スイソ〉? 〈サンソ〉?」
知らない用語が飛んできて頭が混乱するが、どうにか考えない事にする。サグルによると、必要なのは〈スイソ〉だけらしいが、分ける必要はないそうだ。
「それに火をつける、でしたよね?」
「ああ、そうだ!でもちょっと待って!」
サグルはジェネラルの好きを掻い潜る必要がある為、思うように話せない。僕は1つの魔法を使う余裕があった。
「サグルさん、偽物に一時的に戦わせます!【傀儡】!」
入学後すぐにヨルクスとの戦いに使った魔法。ああ、もうこの世界に何年間もいるような感じがしてたけど、まだ数日しかいないのか。
「ありがとう!」
傀儡人形はサグルに姿を変え、ジェネラルの気を引く。その間に僕の方へサグルが来る。
「ロムス、大丈夫?」
「集中しないといけないので、あんまり大丈夫じゃないですね」
「笑顔でそんなこと言われてもね、でもその通りだ。少し説明を加えるね」
どうやら僕は笑顔らしい。この状況を楽しんでいるのだろうか。とんだ戦闘狂扱いだね。あとで訂正しないと。
「まず今から起こすのはかなり強い爆発を起こす。だから僕達にも余波が襲い掛かるんだ。質問がある。ロムスは5つの魔法を同時に使える?」
「すみません……流石にそれは無理ですね」
「分かった。じゃあ、森全体に張ってる魔法の障壁を縮小できる?」
「それは出来ます。今からしますか?」
「じゃあお願いしようかな。僕は一度、人形と戦闘を代わるね。ロムスにあまり負担を掛けさせられない」
僕はこれ以上同時に魔法を使えない。まずサグルが僕の【傀儡】を終えると同時に、戦闘を再開させる。これで今は空気の塊を覆った【障壁】と森全体の【魔法障壁】、シーナに使っている【浮遊】だけだ。
意識を森全体を覆う【魔法障壁】の方へ向ける。よし。そして、これを縮小。魔法障壁は森には干渉しない。人は通れるし、魔物も通れるのだ。絶対にそれをジェネラルに気付かれてはならない。
ゲオグ・ジェネラルやネオ・ゲオグが発生させた、森の中の広場にまで縮小させる。これでサグルの要望は満たせたはずだ。
「サグルさん、縮小完了しました!」
「ありがとう!じゃあ人形をもう一度お願いできる?」
「はい【傀儡】。良いタイミングで戻って下さい」
「大丈夫。今なら行ける!」
ジェネラルの棍棒で砂埃が起こった瞬間に入れ替わる。
「ジェネラルの見えない場所に─────!!」
サグルがそう言った時だった。傀儡人形の方を見ていたはずのジェネラルは、こちらを向いて棍棒を振っていた。気付いていないサグルを引っ張って、僕は飛び上がった。そして【傀儡】を消す。
「ごめん、ありがとう」
「大丈夫……です」
僕は5つの魔法を瞬間的にだが、行使していた。その代償が起こる。強い頭痛だ。それに全身に力が入らない。魔力の枯渇も近いようだ。着地する。
「僕のせいで……」
「それより早く終わらせましょう!」
「そ、うだね……。まずはシーナを魔法障壁の外に」
「分かり、ました」
シーナに発動している【浮遊】を操作して、魔法障壁の外に出す。そして、ジェネラルの棍棒の攻撃を避ける。
「次は空気を囲っている魔法の障壁を解除して、広場を囲う魔法の障壁の中に出すんだけど、その間は一応息を止めておいた方が良いかも」
「……はい」
息を止め、空気を囲う【魔法障壁】を解除。出てきた空気が元々の空気を押し出す。強い乱気流が発生し、僕達は吹き飛ばされそうになるのを堪える。一時的にジェネラルも風に煽られたようだ。
「そして僕達が障壁の外に出るのと同時に、中に火の魔法を何でもいいから発動して!」
頭痛が治まってきた。全身の脱力感を堪えて、ジェネラルの攻撃を掻い潜り、魔法障壁の外に出た。ジェネラルはすぐに追いかけて来る。
「今だ!」
「【炎戒】!」
最後の魔力を振り絞って、上位魔法を発動させる。同時に地面が強く揺れる。
「これ……は?」
「水素が爆発したんだ。水素という気体はこういう特質を持っているんだ」
巻き上がった砂埃で中の様子は見えない。サグルは一息ついてそう言った。
「じゃあ水も?」
「その辺は説明が難しいなぁ……また、今度教えるよ。ロムスが元気になったらね」
「その時は……お願いします」
意識が朦朧としている。まだ意識がある間に、僕は【浮遊】を操作して、シーナを木陰に寝かせた。そして【浮遊】を解除する。
「中の……様子は?」
「……もう少し砂埃が取れたら分かるはず」
段々と砂埃が晴れて、様子が分かるようになって来る。
「ああ……いないや。ロムス、ありがとう!ゲオグ・ジェネラルを倒したよ!」
僕が起こした爆発は大きく地面を抉りとっていた。そして、倒木やゲオグの死体、ジェネラルすらも消し去っていた。
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