2 - 35.『First Quest - III』
2-35.『はじめての依頼 3』
今話はロムス視点に戻ります!!
お気をつけ下さい。
僕はリーゼンとの勝負を約束した後、宿舎へと戻って来ていた。食堂で少し軽食を取っていたが、カエデさんが駆け寄ってきたので、一旦手を止める。
「あんた!一緒にいた子が森で魔物の大群に襲われてるって聞いたかい!?」
「……初めて聞きました。それはどれぐらい前の話ですか?」
「ついさっきの話みたいだ。人狼局に魔法で使役された小鳥が来たって言ってたねえ」
「ありがとうございます。すぐに行ってきます」
「ああ、気を付けていってきな!」
僕は宿舎を出ると【兎足】を発動させる。跳躍魔法の1つだ。【跳躍】よりも調整しやすく、より高く飛ぶことが出来る。
魔法で中央都市を囲う城壁よりも高く跳ぶと、周囲を見渡して、郊外の森を探す。すぐに見つかった。冒険者が集まっている。
「【兎足】」
もう一度高く飛び上がり、距離を稼ぐ。そして、良い程度の距離で【微風】を発動。落下の衝撃を和らげた。僕は冒険者に目立たないように、見えない位置で着地した。
どうやら冒険者は集まったは良いが、場所が分からないようだ。僕は1人に話を聞く。
「すみません、今はどんな状況なんですか?」
「おお、坊主も参加するのか? 今の状況は良くねえなぁ……全く情報が入って来ないんだ」
他の人に聞いても同じ答えが返ってきた。どうやら誰も救援依頼以上の情報が入ってきていないようだ。これではいつまで経っても、現状を改善できない。僕は郊外の森の上から見えないか試してみる事にした。
「【兎足】」
三度目の跳躍。流石に今度の跳躍は、冒険者達に見られない訳がない。跳躍する僕の姿を見て、騒ぐ冒険者が見えた。
「2人はどこだ?」
元々2人が受けていた依頼についても聞いたが、どうやら森の奥まで入るような依頼ではないのだ。そこまで遠い場所にはいないはずなのだ。
「……見つけた!」
巨大なゲオグが暴れているのが見える。その手前にいるのは……サグルのみ。
「シーナはどこだ!?」
シーナの姿は見当たらない。そして、サグルが徐々に沢山のゲオグに囲まれつつある。僕はサグルに当たらないようにゲオグ達に攻撃する。
「【氷礫】!!」
まばらな氷の礫がゲオグ達に刺さる。対して強くはないようだ。氷の礫が刺さったゲオグは血を流して倒れていく。
僕は【微風】を発動して、ゲオグのいなくなった場所に着地する。そして、サグルに近寄る為に、サグルの周囲のゲオグを一掃する。
「【乱風】」
荒ぶる風はサグル以外を吹き飛ばしていく。僕はサグルの元に駆け寄った。
「サグルさん!大丈夫ですか!?」
「あぁ……ロムス。すまない、僕は……」
「何があったんですか!? シーナは?」
サグルは静かにゲオグ達が多くいる場所を指した。あそこの中央にシーナはいる、と。その瞬間、僕の中で何かが切れた。
「【多重詠唱】、【茨の森】、【雷撃】」
幾つもの茨が数百匹のゲオグの動きを止める。そして、そこに雷撃が直撃する。中央部分のゲオグには当たらないようにして、周囲のゲオグが全て消し炭となった。
「【氷柱落】」
段々と周りのゲオグから潰していく。僕の心の中に渦巻いているのは、怒りか悲しみか、はたまた無駄な責任感か何かなのか。僕自身が分からなくなっていた。
「【滅失】」
黒魔法滅系統の上位魔法【滅失】。大量の魔力と引き換えに、残りのゲオグが全て亡びた。
「……シーナ」
残っていたのは石の壁。シーナは息絶えだえになりながらも石壁を張って、攻撃を防ぎ続けていたのだ。
「【全快】!」
白魔法治癒系統の上位魔法を使う。傷はほぼ消え去った。しばらくして、シーナは寝息をたて始めた。恐らく痛みが無くなった安堵で眠ってしまったのだろう。
僕はシーナを寝かせてあげる。【浮遊】で浮かせて硬い地面で眠らないようにする。その後、サグルの元へ向かった。
「サグルさん、大丈夫ですか?」
「ロムス、シーナの事ありがとう。僕の方も手伝ってくれる?」
「勿論です。援護します」
サグルはまだ巨大なゲオグと戦っている。郊外の森の外で冒険者から聞いた所によると、ゲオグが共食いをしたらしい。
それで進化を起こして、ネオ・ゲオグになった可能性があるそうだ。最悪の事態ともなると、更に進化を重ねてゲオグ・ジェネラルになる可能性がある、と。
「最悪の事態ということか」
僕がサグルの援護をしようとするのと同時に、ジェネラルの棍棒が真上から振り下ろされる。即座に横に飛ぶ。少し顔に掠め、血が飛び出す。
この大きさは【茨の森】でも抑えられない。次の手を打つ。
「【加速】」
僕は加速魔法でジェネラルに近寄る。
「【多重詠唱】、【衝撃】!」
すぐさま龍の紋章を起動。三重の【衝撃】を浴びせる。ジェネラルが何歩か後ろに下がる。もう少しの効果を期待したが、その程度か。
「逃げるっていう手もあるけど、被害を考えるとここで抑える方が良いな……。」
「はぁぁっ!」
サグルがジェネラルに袈裟斬りをするが、肌が硬いのかジェネラルが痛む様子は無い。
「肌が硬すぎる……」
「サグルさん、退いてください!」
一度下がった僕が再びジェネラルに近付くと、サグルは逆に下がる。
「【炎戒】!!」
火系統の上位魔法。肌が硬くとも、燃えてしまえば関係ない。
「グヴゥォォオオ!!」
「……効いてない?」
ジェネラルは一瞬動きを止めたが、何事も無かったかのように動き始めた。火耐性があるのか? 知らない事ばかりで戦略の立てようが無いな。
「サグルさん、何か策はありますか?」
ジェネラルはまだ【炎戒】に気を取られている。その間に僕はサグルの近くへ行き、短いながらも作戦会議を開くことにした。
「……一応、ある事にはあるんだ。だけど、時間が掛かってしまうし、ロムスの手伝いが必要かもしれない。」
「僕でよければ幾らでも手伝います。それでいきましょう」
頼みの綱はサグルの秘策。僕はその準備の為に必要な事を聞き出す。
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