2 - 33.『First Quest - I』
2-33.『はじめての依頼 1』
ここから何話かの間はシーナ視点となります。
「シーナ、まずは人狼局へ行こう」
サグルに声を掛けられて、私は顔を上げた。どうやら私は少し眠っていたみたい。立ち上がって、スカートの埃をはたく。
「うん」
+----------+
「取り敢えず僕が依頼を受けるから、それを覚えてくれる?」
「……分かった」
サグルは良い大人。リルゲア先生みたいな悪そうな人じゃない。そして、口数の少ない私の言葉を汲み取って理解してくれるのが嬉しい。
「まずは依頼を探す」
サグルはボード上に沢山貼られた依頼書の中から、目当てのものを選び出す。その様子は他の冒険者も同じみたい。みんなが我先にと良い報酬の依頼を受けようとしている。怖い顔しなくても良いのに。
「これなんてどうかな?」
サグルが見せてくれたのは、小型の魔物の退治する依頼。中央都市から少し離れた郊外の森に別の森から入り込んだ魔物が生態系に影響を与えているみたい。
一応、郊外の森に影響が出なくなるぐらい、小型の魔物を退治しないといけないけど、数はあんまり多くないみたいだね。私はサグルを見ると、これでいいと頷いた。
「ありがとう。じゃあ依頼の受理をしないといけないから、受付に行こう」
私とサグルは受付へ向かった。依頼を早めに見つけ出した冒険者の人達が受付に列を作っている。その後ろに並んだ。
「シーナはどんな魔法が得意なの?」
サグルの質問に私は心の中で頭を捻る。私の得意魔法なんて無いからだ。基本的に中位魔法ぐらいなら、ほとんどの属性魔法が差がなく使える。
「……得意とか不得意とかない」
「すごいね、シーナは」
多分サグルは勘違いをしている気がする。でもそれを訂正する勇気は私には無いの。イメージを払拭しようすればするほど、沢山喋らないといけないし。
「そんな事ないよ」
結局私に言えるのはこれぐらい。少し気まずい空気が流れるから、私は周りを見渡してみる。人狼局にいる冒険者は、みんなたくましい体つきをしている。でもサグルは細身。
どうしてサグルが冒険者としてやっていけてるのか、私には全く分からなかった。でも、今日、その理由をサグルが教えてくれるんだとと思う。そんな事を言ってる間に私達の番になった。
「この依頼を受けます」
サグルは依頼書を受付の女の人に渡す。受付の人はそれにざっと目を通して、手元の器具で確認する。間違いがないか確かめると、笑顔になって私達を見る。
「はい、依頼受付は完了しました。頑張って下さいね」
中央都市から出て、私達は郊外の森の前まで来た。私は手持ちの装備を確認する。サグルや他の冒険者も同じように装備を確認しているみたいだ。
サグルの話だと、郊外の森の奥深くには強い魔物が沢山住んでいて、それを狩って生計を立てている迷い人がいるんだって。この世界には、この世界の仕組みが成り立ってると考えると、なんかとっても偉大だよね。
「じゃあ僕達も行こうか」
冒険者が何組か森に入ったのを見届けると、サグルは私にそう言った。1番先頭でない限り、危険性はぐっと下がる。その分、私みたいな初心者には、簡単な狩りが体験できる。
「森に入ると、すぐに魔物の住処になる。背後を取られないようにね」
そう言って、サグルは全方向に気を向けた。私も左右や背後を度々確認する。まだ襲っては来ないみたい。今のうちに目的の魔物を見つけないと。
「一応、移動しながら説明するね。僕達が今回狩るのは、小さなゲオグという魔物だよ。集団で行動する性質を持っている。」
「何匹討伐するの?」
「依頼書には5体ほどとは書いてあったけど、その倍は予想しておいた方がいいよ。ゲオグはオスとメスとで行動習性が少し異なるから、見つかったオス5匹の番がいると考えた方が良いんだ」
サグルが話していると、突然立ち止まった。私もそれに習って止まる。そして、サグルが見ている方を見てみた。小さな青い姿が見える。
「……あれがゲオグ?」
小さな声でサグルに聞く。サグルは頷いた。どうやらあれがゲオグみたい。人みたいだけど、人じゃない、人に似てるようで、人に似てない不思議な生き物。
「攻撃?」
「待って。他のゲオグの姿を確認してから。5匹がバラバラで行動している場合は、倒した1匹が助けを呼ぶと、囲まれる可能性が高いんだ」
サグルは音を立てずにゲオグから少し離れた草陰に隠れる。私は木陰に隠れた。その時、私は枝を踏んで、折ってしまった。ゲオグが気付く。
すぐさま私は別の草陰に飛び込んだ。ゲオグがさっきまで私がいた所に来る。でも私はもう居ない。ゲオグは戻って行った。
「……危なかった」
「大丈夫?」
「……怪我はない」
「良かった。一応、これから他のゲオグの位置も把握したいから移動するけど、何かあったらすぐに言ってね」
私は頷く。サグルは見つけたゲオグを無視して、他のゲオグを探しに進んだ。数分後、別のゲオグを見つける。
「なんだこれ……」
「あ……無理そう」
サグルも私もこの光景を一目見た瞬間に確信した。これは一番最初に受ける依頼じゃないって。
目の前に広がっていたのは、ゲオグ同士が争い共食いをしている、見るに堪えない光景であったのだった。
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