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2 - 32.『Author』

2-32.『知る者、書く者。』



2-29のロムスのサグルに対する口調がそれまでの話と矛盾していた為、訂正致しました。話の内容に関する変更はありません。

 僕はそっと絵本を閉じた。そして、薄々感じていたことを口に出す。


「多分、これは事実だよね。その世界で体験して、この世界へ迷い込んだ少女の実話。彼女の世界では〈魔女狩り〉が行われていたんだ。廃れた風習だけど、残っている世界はあるんだね」


 僕のいる世界でも数百年前に実際に行われていた〈魔女狩り〉。まだ魔道士の数が今ほど多くなく、魔法を使えない者が大半を占めていた時代に、魔法という絶対的のような力を手にした者に嫉妬した人達が起こした忌まわしき過去である。


 魔道士は、共にいる友人を失い、生涯の結婚相手を失い、住む場所も失った。ボロボロの大きな布をローブにして纏い、それで彷徨い歩いていた。


「辛く醜い過去はどこにでも存在する」


 ある魔道士は捕らえられ、獄中死した。ある魔道士は逃げ仰せて、国を築いた。ある魔道士は仲間に裏切られ、奴隷の身分となった。ある魔道士は国王の怒りを買い、死刑となった。ある魔道士は徒党を組んで、世界に抗った。


「この著者はモリス・ファイリアだっけ……」


 僕は本棚の中を歩いていた司書に尋ねる。


「モリス・ファイリアという人物をご存知ですか?」

「……ええ、有名な画家ですね。幾何学模様を使った絵画が特に有名です」

「存命中で?」

「はい、生きておられます」

「今はどこに?」

「確か……アウメリアという街に住んでおられたはずです」

「ありがとうございます」

「いえ、お役に立てて光栄です」


 それだけ聞ければ充分だった。僕は読んでいた本を纏めると、本棚へ戻す。そして、受付に戻り、退館申請を行った。


「バッジをここに置いて下さい」


 僕は襟に付けていたバッジを外し、指定された入れ物へ入れる。


「名前をお願いします」

「ロムスです」

「はい、退館申請は完了です。ご利用ありがとうございました」


 図書館を出る。外はまだ明るい。時間はありそうだ。このままの足で人狼局に向かった。途中で寄り道をする。


「これを下さい」

「毎度あり!」


 人狼局は前に来た時と変わらず、騒がしかった。僕は受付へ歩く。


「おい、小僧。ここはおめぇのような所が来るところじゃねえぞ?」

「すみません、用事があるんです。通して下さい」

「あん? 何様だよ!」


 肩を強く押される。勢いで後ろに倒れそうになるが、後方に飛ぶことで勢いを殺す。僕は気にせず男の横を通って、受付へ向かった。


「すみません、アウメリアという場所への行き方を知りたいのですが」

「あちらの冒険者(アドベラー)は良いのですか?」

「関係ない人です」

「そうですか……少しお待ちください」


 ちらりと後ろを見ると、僕が無視をした男の顔が真っ赤に染まっていた。誰か、有名な冒険者(アドベラー)だったのだろうか。でも僕はここに来て短い。そんな事は知らないから仕方ない。


「お待たせしました。こちらをご覧下さい」


 渡された資料には、中央都市からアウメリアまで行く行商人や馬車が記載してあった。軽く目を通す。


「これをお借りする事は出来ますか?」

「はい、可能ですが、期日までに必ずご返却して下さい。期日は3日後までですね。」

「それなら大丈夫です」

「補足ですが、その資料の複製は禁止です。また、他人への譲渡も勿論禁止です。一応は秘密事項なので情報漏洩には気を付けてください」

「分かりました。ありがとうございます」


 僕はその資料を手に、人狼局を後にした。そのまま裏路地へ入る。後ろからずっと付けられている事は分かっていた。


「何か用ですか?」


 裏路地の角で待ち、追い掛けてきた所に声を掛ける。男は驚く。まさか気付かれていないと思っていたのだろうか? それならばかなり重症だろう。早期の治療が必要だろう。


「おい、お前!さっきはよくも俺に恥をかかせたな!」

「それだけを言いにここまで来たんですか?」

「ああ、そうだ!それの何が悪い!」

「面倒くさいですよ。大の大人なのに。子供なんて相手にしなきゃいいじゃないですか」

「ああん? 喧嘩売ってるのか?」


 あ、ダメだ。興奮して聞いちゃいない。どうしたものか。あんまり大事にはしたくない。あの羊主とまた対面。それだけは御免である。


「じゃあ、1つ勝負をしませんか?」

「ああ? 勝負だと?」


 ほう、聞く気はあるみたいだ。じゃあこちらに有利な条件は付けられなさそうだ。もう少し理性が無いものだと思っていたけど。


「僕は数日後にアウメリアに用があります。」

「アウメリアだぁ? そこなら俺の地元の近くじゃねえか」

「ああ!それなら話は早いですね。僕はそこまで行商人の警備の依頼をするつもりです」

「おめえがか?」

「はい。ですがあなたの言う通り、僕はまだ子供です。なので、こういうのはどうでしょう。

 あなたも一緒に依頼を受けるんです。そしてどちらが良かったか、行商人の方に最後に聞いてみましょう。

 それで名前を呼ばれた方が呼ばれなかった方に1つ何でも命令をさせられる、なんてどうですか?」

「負けても知んねえぞ?」

「大丈夫です。一応、僕も腕に自信はありますので」


 その自信をこの前砕かれたばっかりだとは言わないけど。完全に男はやる気のようだ。


「僕の名前はロムスです。あなたは?」

「俺はリーゼンだ!俺と張り得る事を誇りに思いやがれ!」

「はい。感謝しています。それでは3日後、人狼局で同時に依頼を受けましょう。受ける依頼など、詳しい話はその時にしましょう」

「おうよ!」


 多分だが、リーゼンは勝負が好きなのだろう。だから、僕が勝負を仕掛けるとすぐに怒りを忘れてしまっていた。まあ、優秀な冒険者(アドベラー)ならば、万が一でも移動中に最悪の事態が起こることは無いだろう。


 僕は宿舎に戻る。この時、まさかアウメリアへの移動中にその最悪の事態が起こるなんて知りもしなかった。








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