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1 - 4.『Result』

1-4.『結果』

 試験の翌日、宿を出ると、よく晴れていた。気分がいい。


「さて、行くか。」


 弾む気持ちを抑えて、魔道学院へと足を進めていった。周囲には同じ目的なのだろう、子供がたくさん同じ方向へと歩いて行く。中に貴族らしい派手な格好をした子供も多い。お付きの者がいる子供までいる。


「そこをどけ!」


 馬の鳴き声と共に叫ぶ御者の声が聞こえた。慌てて道の端に寄る。さっきまで僕がいたところを馬車が通り抜ける。間一髪だった。


「男爵様だ……。」


 王都では有名な人らしい。僕はその家紋を見たことが無かったが、名を馳せる男爵なのなら、知っておいて損はないだろう。


「着いた。」


 しばらく歩くと、昨日も見た荘厳な建物が目に入る。既に溢れんばかりの人が学院内と学院外にまで広がっている。必死に警備員が誘導しているが、馬車が通るのもままならない状況のようだ。


 僕は道の端を小さな体で歩いて行く。人の間を抜けられる子供で良かった。それでも学院内に入れば、小さな子供すらも入れる隙間が無くなってくる。


 無理に通ろうとしていると、前方から歓声と悲鳴が聞こえてきた。どうやら結果が発表されたらしい。すぐに人が学院内に押し入る。


「苦しい……」


 僕に大きな子供は気付いていない。そのせいで僕は段々と外に追いやられていた。負けじと体を中にねじ込むが、年齢の高い他の子供たちには力負けしていた。


「うわっ!」


 気付けば、僕は再び学院外に押し出されていた。だが、後方からは入ろうとする子供たちがいる。前から後ろから挟まれた僕は絶体絶命。どうすればいい……?


「ほらほら、退いてあげて。ここに小さな子供が苦しんでるよ。」


 一筋の光が見えた気がした。僕は声のした方を見る。そこには十歳ぐらいの少年が立っていた。その少年は僕に手を差し伸べる。


「大丈夫かい?」


「はい……ありがとうございます。」


 どうにか人の濁流から逃れることができた。付いたゴミを手で払う。


「どうしてこんな所に紛れ込んだんだい?」


 少年は純粋な疑問というように首を傾げる。少しイラッとした。


「僕も受験生です。」


「おっと、それはすまない。」


 いちいち言葉に余計な動作が付属している。天性の気障なのかもしれない。こんな人もいるんだな。


「邪魔したようなら謝るよ。」


「別にいいです。」


 僕は拗ねていた。実力を嘗められていたことが辛い。魔道士は他人の力を推し量る潜在的な力を持っている。つまりこの少年は僕の力が分からないほどに強いということなのだ。


「そうかい?じゃあ、僕は立ち去らせてもらうよ。まだ結果を見ていないからね。」


 颯爽と少年は立ち去って行った。僕はその後ろ姿にあっかんべーとしそうに……いや、した。


 僕は外で人が少なくなるのを待つことにする。中からは喜ぶ子供や悲しむ子供、中には叫んでいる子供までいる。期待を背負わされていたのかもしれない。それは不遇なことだ。


 一時間ほどすると、人が半分以上減っていた。今が好機だろう。これ幸いと中に入る。今度はすんなり入れた。


「結果は……っと。」


 僕は大きく掲げられた合格者一覧を見る。合格者は全てで二千人。自分の名前があるか探すのも大変だ。魔法を使ってもいいが、咎められるのは目に見えている。


「ロムス……ロムスはっと。あっ……あった。」


 最後の方にだが、しっかりとロムスという名前が刻まれていた。どうやらクラス編成では、最低クラスの〈J-20〉ではあったが。


 魔道学院は実力順に大きくAからJの10クラスに振り分けられる。上はAで、下はJだ。さらに各クラスごとに1から20に振り分けられる。結果、A-1が最高クラスでJ-20が最低クラスとなる。


「まあ、そうだよね……」


 結果に満足した訳では無いが、合格しただけマシだと自分に言い聞かせることにした。僕は魔道学院を後にする。


 入学は来週の祝日。復興記念日に式がある。かつて数百年前に魔王と呼ばれる弱悪な存在に国を滅ぼされかけていた時に、立ち上がった一人の勇者によって魔王が討伐されたと言われる日だ。


 この日は国中で祭りが行われる。魔道学院の入学式がこの日なのも、学院生にその勇者のような存在になって欲しいという意味を込めているらしい。


 僕は宿に戻ると、ベッドに腰掛けた。これから来週まで僕にできることは無い。街をぶらつくのもいいけど、その前に王都の地図を頭に入れておかないといけないかな。


「することは山積みだな……」


 僕は母さんが死んだ日の事を振り返る。勘当された時はどうしようかと思ったけど、今はする事も決まって何とか落ち着いたみたい。母さんも見ててね。


 そう思った時だった。掌から眩い光が溢れ出す。


「えっ、なんだ!?」


 僕は目を細めながら、掌を見る。そこには龍の紋章が描かれていた。伝説の存在である竜の格上の存在である龍。人類史に大きく関わってきたとされる龍の紋章がどうして手に?


「まさか……母さんの魔法?」


 僕は母さんの死の瞬間を思い出す。あの時、確かに母さんは何かの魔法を唱えていた。それも現代魔法の短縮詠唱ではなく、太古の古代魔法特有の真詠唱で。


 体中に力が溢れるようだ。これが龍の力?今にも体が破裂するかと錯覚するぐらいに、強い力が僕の体の中に流れ込んでいるのが分かる。


「はぁはぁ……終わったか?」


 力の流入が収まる。一体何だったのか。僕は自分の体を見る。外見は何か変わった気がしない。果たして本当に変わったのか。明日することが決まった。僕はこの力を確かめないといけない。

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