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2 - 30.『Heraldic Magic』

2-30.『紋章式魔法』

 羊主との戦いから一夜。僕はシーナとサグルとは別行動をすることにした。


 シーナはサグルと共に冒険者(アドベラー)としてレベルを上げていくそうだ。サグルはかなりの魔法の使い手らしく、その辺の期待も出来そうだ。シーナの今後が楽しみだな。


「さて、僕は……あの図書館に行くか。」


 紋章式魔法というジャンルについて理解をする。それが僕の初めの第一歩だ。余裕があれば、意志式魔法についても調べたいが、羊主が意志式魔法をあまり使っていないのを見ると、簡単に使える魔法ではないということなのだろう。そう思い込むのは時期尚早かもしれないが、取り敢えずは置いておこう。


 紋章式魔法だけでも理解できるようになれば、罠を仕掛けることも可能である。さらにあの【防壁の陣】。詠唱式魔法での防御魔法よりも効果が高いようであった。その理由も知りたい。


 中央都市の図書館は、中央部の〈セントロトーレ〉を挟んで、人狼局の真反対側にある。この世界で最も大きい図書館とだけあり、広大な敷地を誇る。


「いらっしゃいませ。」


 かなり厳重な警備の為、受付で入館申請が必要らしい。僕は受付に行く。


「入館申請をしたいです。」

「分かりました。では、名前を教えて下さい。」

「ロムスです。」

「……はい、確認致しました。当館内ではこのバッジを付けておいて下さい。付けていない場合は、即座に警備兵による強制退館、もしくは永久的な再入館禁止とします。」


 僕はバッジを服の襟に付ける。かなり厳しい処置のようだが、それだけ大切な蔵書があるという事か。


「また、蔵書へ傷をつけた場合は、程度や原因により多額の賠償金が請求される事があります。お気を付け下さい。何か不明な点があれば、再び受付に来て下さい。」

「ありがとうございます。」


 受付から離れ、図書館の入口へ向かう。途中で警備兵から止められ、バッジを確認された。毎回これは大変だな。


 だが、それは図書館内に入るとどうでも良くなってしまった。図書館内は端から端まで、沢山の蔵書で溢れ返っていたのだ。


「これどれだけの本があるんだ?」


 本棚も1つの高さが30メトルほどある。どうやら高い場所にある本をとる時は、魔法を使って取るらしい。それが無理な人は、補助器具を貸出してくれるようだ。僕は魔法に関する蔵書の欄を探す。


「何かお探しですか?」


 近くを通り掛かった男性が僕に尋ねる。素直に返事をする。


「えっと紋章式魔法についての本を探しているんですが。」

「まだ小さいのに……感心ですね。私が案内しましょう。こちらへどうぞ。」


 僕は親切な人の後について、高くそびえ立つ沢山の本棚の中を歩いた。本の香りが鼻腔をくすぐる。それにここは蔵書を長持ちさせる為、適度な温度、湿度の調整をしているようだ。


 歩いていると、様々な迷い人(ストレイシープ)と会う。全く知らない文化の衣装を着ている人もいる。フードを深く被って、顔すら見えない人もいる。沢山の本を魔法で浮かばせて歩く人もいる。


「ここの本棚ですね。あまり本数は無いです。この一面だけです。」

「それでもこれ……何冊ですか?」

「大体、一面は1千冊から1万冊ほどです。」

「親切にして頂き、ありがとうございました。」

「いえ、本の虫としては仲間が増えるのは嬉しい事なのです。これからも是非本を読んで下さいね。」


 男性は違う本棚へ向かった。僕は早速着手することにしよう。まずは1冊手に取ってみる。


「『神秘と犠牲』。関係なさそうな題名。一応少し読んでみるか。」


 +----------+


『神秘と犠牲』ジェームズ・リオルヴァ


 紋章式魔法はこの〈墓場の世界〉において、新たな神秘となり得た。かつては詠唱式魔法が主に使用されていたが、紋章式魔法がこの世界に取り入れられるや否や、すぐに主流となる。これはある犠牲によるものだった────


 +----------+


 この世界でも詠唱式魔法が多く使われていた時代があったのか。つまり羊主が広めたってことなのかな。


 この本の続きはあまり関係ない歴史の話である。次の本を手に取る。


「『紋章式魔法という嘘』。これは関係なさそう。……『無から始まった真実』。これは創作物(フィクション)……? 関係なさすぎる。」


 いちいち読んでいてもキリがないという事に気付いた僕は、題名とジャンルから判断する。小説や御伽噺でも真実に基づいている場合もあるため、残しておくのも良い。


「『初歩から学ぶ紋章式魔法学』。……これは取っておこうかな。あと、『他の魔法ジャンルと紋章式魔法の相違点』。これも良さそうだ。」


 基礎から学ぶのであれば、これぐらいで充分だろう。僕は数冊の本を手に取り、図書館内にある席に座る。周囲を見渡すと、先程見た時よりも多くの人が居るということが分かる。


 様々な世界から迷い人(ストレイシープ)から訪れる〈墓場の世界〉には独自の文化が芽生えているようだ。多様性を認めた素晴らしい文化なのかもしれない。案外、文化面から言うと、この世界は間違ってはいないのだろう。


「まずは紋章式魔法について知ろう。」


 僕は『紋章式魔法大全』という図鑑のような蔵書を開く。本特有の古びた紙の匂いが周囲に漂う。幾人かが顔を顰めるが、図書館なのだから我慢して欲しい。


 +----------+


【紋章式魔法大全】


 はじめに


 この大全を読むに当たって、〈紋章式魔法〉について知る事が大切である。紋章式魔法は他の魔法ジャンルとは異なり、魔法発動までの準備段階に多大な時間を要するが、それにより高効果、長時間の発動が見込まれる。また、発動条件の設定など細かな魔法発動に関する操作も可能であり、応用する事を考慮すれば、使い勝手の良い魔法ジャンルと言えるだろう。


 太古に魔術師と呼ばれていた、現代の魔道士の原型となる人物らは、この紋章式魔法を発明にするにあたって、魔法の高度成長が実現している世界へと旅立ち、その魔法技術を流用したとされる。その魔法技術がどの世界のものであるかの詳細は現代には残っていないが、紋章式魔法との類似点からその関係性を紐解くのであれば、最も近いと考え得る魔法ジャンルは、〈星型式魔法〉や〈描画式魔法〉であるが、これらは〈紋章式魔法〉を応用した魔法とも取れるため、やはり正確な所は分からない────


 +----------+


「いや、これは辞めておこう。」


 僕は『紋章式魔法大全』を閉じた。恐らく学術的には有益な情報が多いのだろうが、僕には必要のない知識が多くて、取捨選択に時間が掛かりそうだ。そんな事に時間を掛けたくないのが僕の実情である。


「この本だと分かりやすいかな。」


 次に開いたのは『紋章式魔法』という簡潔な題名の蔵書だった。


 +----------+


【紋章式魔法】


 紋章式魔法は、指定された紋章を描くことによって魔法を発動する魔法ジャンルです。紋章の形状の相違によって、効果を様々に変化させることが出来ます。


 紋章が複雑で魔法発動に時間を要した昔の紋章式魔法に比べて、今の紋章式魔法は、略式の紋章が考案されている為、簡単な魔法行使も可能です。


 ですが、紋章式魔法の難点として効果が複雑な魔法や高位の魔法になると、より複雑で精密さが求められる紋章が必要となります。


 +----------+


 うん、これぐらい理解しておけば大丈夫だろう。紋章式魔法の基礎は大体理解ができた。後は魔法を覚える事に専念しよう。やはり紋章式魔法に対抗するには、紋章式魔法が最適である。


 僕はそのための本を探しに再び本棚に戻った。






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