2 - 28.『Swordsman』
2-28.『世界を浮浪する男』
「また、剣客か。その剣客はこの墓場の世界に大きく関係していそうだが、どういう人間なんだ?」
「一言で表すと……気まぐれな男よ。前に会った時に『生き甲斐を探している。』とか言ってたわね。」
進んだ世界で生まれた剣客。世界を渡る魔法を覚えている。紋章式魔法を駆使する。そして、男である。これだけの情報しか無いのか。
「……ん? どうして剣客っていう名前なんだ? 魔法を使うんだろ?」
「魔法も使うのよ。でも剣術はさらに凄いわ。」
「厄介な男だね。」
「ああ、その世界の剣術は、私達の世界の剣術とは違うわよ? それも魔法の一種ね。〈魔剣術〉とか言うらしいわ。間合いや強度、速度、刀身の倍加なんてのも出来るわね。」
また違う魔法ジャンルが出てきた。様々な迷い人が来るだけあって、その世界ごとの特色がよく現れている。だが、それはまだ来たばかりの僕にはとても迷惑な話でもある。
「次に来るのはいつだ?」
「まさか君は剣客に頼む気? 無理ね。」
「頼まなければ分からないだろう?」
「いいえ、分かるわ。かなりのオヤジだもの。男である限り、まず話は聞かないでしょうね。私も女だから色々と助けてくれた訳だし。」
性格にも難あり、と。
「でも一応、期日は教えておいてくれ。」
「良いわよ……と言うとでも思ったの? 君は一方的だけど、この世界は私が治めているの。今までの情報を渡した対価を君は払えるの?」
やけに親切だと思ったが、これは本音か。まあ、でも僕も色々と情報を貰った。条件次第では応じるとしよう。
「そちらの求める条件は何なんだ? 一応、目的はあるんだろう?」
「ええ、その通りよ。私はそろそろ死にたいの。私を愛してくれない?」
「……何を言っているんだ?」
「説明しなくても分かるでしょ?」
「龍の紋章の呪いだろ?」
「そう。私は愛されていないから、もう70年も生きてる。老けないのはありがたいけど。この世界に居続ける意味は私には無いの。でも死ねないから。誰かが私を愛してくれれば死ねるの。」
「剣客がいるじゃないか。」
「いやよ、あんなジジイ。300歳超えてるのよ。あいつも老けてないけど。」
「それを言うなら、僕は7歳だ。そういう性癖なのか?」
ややこしい話になった。明らかに年齢差がおかしいじゃないか。まずまず僕は、自分の親戚と結婚するつもりなんて更々ない。対象外だ。7歳が言うのもなんだけど。
「違うわよ。喧嘩売ってるの? この世界で私は頂点の羊主よ? 誰が愛してくれるの。愛してくれてもそれは敬愛や畏敬の類でしょ。」
「間違ってはいないけど……僕は羊主を愛すことは出来ない。ただ単に……対象外なんだ。」
「……プッ。ハハハハハ!!君、真に受けたの? 純粋なのかひねくれてるのか分からないわね。嘘よ。私も君なんて対象外。」
「はぁ……。」
「でも君はここに犯罪者として連れられているのよ。それは覚えておいて。……そろそろ時間ね。これからはもう君と私は無関係。」
外に待機していた男が戻ってきた。
「羊主。この者の処分は?」
「まだ言わないのよね。誓えば良いのに。もう一度聞くわ。二度と人狼の味方をせず、迷い人として行動に責任を持つの?」
羊主の顔は先程までとは打って変わって、表情を失っている。いやどちらかと言うと、侮蔑や冷酷といった感情はあるのかもしれない。大した大根役者だ。それでも僕には突き通さないといけないものがある。
「僕は……誓わない。」
「てめえ!」
男が僕の背中を蹴る。成人男性の蹴りは、7歳の身体を容易く飛ばした。壁にぶつかり、僕は倒れる。倒れた僕の背中を何度も何度も蹴る。履いている革靴が硬いため、ものすごく痛い。
「うっ……」
「お前が誓えばいいんだ!誓えば!」
「ぐっ……うっ……」
「辞めなさい。そんな子供相手に大人気ない。聞けば、さっきの喧嘩も不意打ちだったらしいじゃない。大した実力も無いのに、強がらない事ね。その子供を外に放り出しなさい。相手にするだけ無駄だったわ。」
「分かりました。」
服を鷲掴みにされて、持ち上げられる。そのまま乱雑に運ばれる。連れて行かれるだけでも良いが、少し羊主の力を知りたいと思った。
揺れる身体の勢いを使って、回転。男の鳩尾辺りを蹴り、服を掴んでいた手を離す。同時に【加速】を発動。羊主の元へ戻る。
「あら、どうしたの。」
「人狼だけでも解放しろ。」
「嫌よ。必要を感じないわ。さっさと連れ出してって言ったじゃない。」
僕の後ろには男が立ち上がり、寄ってきていた。上手く鳩尾には入らなかったみたいだ。小さく【紫電】を詠唱する。不意打ちの攻撃に男は倒れた。
「そんな男倒した所で、何にもならないわよ。君の事を知ってるからと言って、優しくしてくれるとは思わない事ね。」
「【多重詠唱】!」
左手の龍の紋章に触れ、【多重詠唱】を発動する。すぐに【紫電】を発動した。複数の電気が羊主を襲う。
床を破壊した砂埃で周囲が見えなくなる。僕は風でそれを払う。羊主は一切の攻撃を魔法で防いでいた。あれが紋章式魔法か。羊主の前に魔方陣が出現している。
「見れば分かると思うけど、これは【防壁の陣】。私が魔方陣をかき消すまでは、何も通れないわよ。」
「【消失】」
「ああ、君にはそれがあったね。私の知らない能力は禁止にしたいわね。」
紋章式魔法にも〈龍の紋章〉は使えるのか。1つの賭けだったが、成功したようで何よりだ。僕は次の魔法の構築に移る。
「【茨の森】」
僕の十八番。ただし、羊主も左手には〈龍の紋章〉が刻まれている。唱えるだけで能力は発動する。
「使わせてもらうわね。【消失】。いいわね、この能力。」
現状は五分五分……いや、僕の戦況の方が不利だろう。どうせ意味の無い抵抗だ。どこまで僕の力が試せるだろうか。一旦、能力を全て解除する。
「焦れったいわね。これで私の勝ちよ。【第一制限解除】。」
羊主がそう呟く姿は、記憶の魔法で見えた父親の姿に重なって見えた。
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