2 - 27.『Emperor - IV』
2-27.『羊を連れる者 4』
1-1~2-26までの誤字の訂正を行いました。
大きな変更はございません。
エレーナの父親が龍の紋章で【滅び】という能力を使ってからは、ダイジェストのように世界が流れた。
最初は王宮だった。見たことのない国王が宰相と話している。
「セルヴィアーダ公爵についてですが。」
「あれは〈禁忌〉だ。セルヴィアーダには昔から特殊な能力が宿ると言う。傷心から力を解放したのだろう。彼奴には魔法の施行を禁止させておけば良い。」
「分かりました。」
そう言って立ち去る宰相。そこで世界が変わる。次は王都の様子だ。王都に住む者が話していた。
「セルヴィアーダ公爵が【魔法禁止令】を出されたそうだな。」
「王が特殊能力を使ったのか。そこまでさせる公爵は何をしたんだ?」
「どうやら公爵家にも王とは違うが特殊能力があるらしい。その力を使ったそうだ。」
「なんだ、王と公爵家は血縁があるのか?」
「それは分からない。だが、その能力で公爵領が大穴になったそうだ。」
「は、何を言っているんだ?」
「いや、本当だ。俺はその大穴を見た。端が分からないほど大きな穴だ。」
「嘘だろ!?」
いつしか王都に住む者達の会話の輪は大きくなっていた。
「王は公爵の事を〈禁忌〉認定もしたそうだ。これで公爵領の立ち入りが禁止されるらしい。」
「まあ、公爵領は大穴なんだろ? 何も無いからその認定は意味無いな。」
「それもそうだな。」
「だが、やはりセルヴィアーダは大陸一の魔道士家だな。」
「その地位は揺るがないって事か。」
そこで世界は再び変化した。次の場面はエレーナの父親が王都の地下牢へ連行される所だった。
「お父様!」
「……」
父親の顔には覇気がない。生きる気力すら失ったようであった。僕はエレーナを見ると、ある変化に気付く。
『左手に龍の紋章がある。いつの間に?』
気付かない内にエレーナも龍の紋章の所持者になっていたらしい。だが、その使い方はまだ分かっていないようだった。
「エレーナ・セルヴィアーダ。貴殿を只今より公爵とする。尚、セルヴィアーダ家の王都の入都は禁止されている為、叙任式は執り行わないものとする。」
エレーナが父親の元に行こうとするのを使用人は必死に止める。
「エレーナ様まで犯罪者になってしまってどうなるのですか!?」
「私は良いの!カイオスがどうかしてくれるから、私がいなくても……。」
「エレーナ様!」
冷たい世界にエレーナの頬を叩く音は響き渡る。突然の出来事にエレーナは反応できなかった。執事は静かに言葉を重ねる。
「当主様を助けるのも、公爵家を救うのも、エレーナ様にしか出来ないことなのです。そこで貴方が間違った選択肢を取れば、また貴方の愛する何かが失われるでしょう。」
「そんな事、分かってるよ……」
エレーナは膝から崩れ落ちる。涙が留まることを知らずに流れ落ちていく。父親は連行されて行った。そこで世界の流れは止まる。代わりに僕自身が何かに突き動かされる。
気付けば、天秤の間の中にいた。目の前には記憶の世界に入る前と同じように羊主が立っている。
「どう?君の疑問は解けた?」
「肝心な所は全く見せてくれないんだな。」
「そう言わないで。これは私が作った映像じゃないんだから。」
「じゃあ何なんだ?こんな魔法見た事ないけど。」
「これはね、別の世界の魔法のようなものよ。私は〈意志式魔法〉って呼んでる。私達の元の世界の〈詠唱式魔法〉とは異なるものね。」
「それは分かった。じゃあ僕の質問に答えてくれ。」
「いいわよ。そのボードに質問書いてくれる? 聞いてたら埒が明かないから。」
これも意志式魔法。宙に浮かぶボードとペンを手に取ると、急に重くなる。どうやら宙に浮かせる魔法が解かれたようだ。
僕は質問を幾つか書き込む。それを羊主に投げた。生憎とそのボードとペンは当たらずに羊主の前で止まった。
「ひどいわね。君の親戚なのに。」
「元の世界ではな。墓場の世界では関係ない。」
「無情な子ね。多分強がりだろうけど。
ふぅ……まずはこの質問にしようかしら。墓場の世界に来た理由……ね。」
「記憶の世界ではそれが描かれなかった。」
「私は公爵となって家を切り盛りしたわ。……あれは私が18歳になった時ね。旅人と名乗る剣客が現れたの。
その剣客は宿を探していて、止めてくれないかと言われたわ。幸い、客人が居なかったからそこに案内したわ。数日滞在してたわね。
1週間経つか経たないかの時に、旅立つって言ったから見送るために家の玄関を出たの。そこに魔法が仕掛けられてたわ。」
「魔法?」
「それは私の言った意志式魔法とも違うものよ。分類としては〈紋章式魔法〉ね。紋章を描けば、どのタイミングでも魔法を発動できるの。使いようによってはとっても使える魔法よね。」
「で、剣客って言うのは?」
僕は羊主の雑談に付き合う気は無かったが、流した話はしっかりと記憶していた。こうした会話の中にも新しい情報がたくさん存在する。それは羊主も分かって、話しているのだろう。
「剣客は剣客。それ以上の事は私にも分からないわ。色々な世界を旅しているらしいわ。どうやら元は魔法がかなり進んだ世界にいたみたい。世界を移動する魔法も使えるみたいね。」
「どうやって羊主になったんだ?」
「それが2つ目の質問ね。それは簡単な話よ。この世界で1番強かったのが私だから。この世界では強い者が頂点に立つ。そして、私は〈龍の紋章〉の呪いで不死身だもの。」
「それが3つ目の質問。〈龍の紋章〉の愛する者に関する効果はなんだ?」
この質問はかなり僕の〈龍の紋章〉に対する理解を深めるために必要な質問であった。だが、羊主は惜しげも無く答えを言う。
「魔法と能力の違いは分かるでしょ? 能力には大きな力を与えるけど、その代わり大きな犠牲を払う必要があるの。
セルヴィアーダ家に伝わる〈龍の紋章〉に関しては、愛されない龍の紋章だからかしらね、他の人に愛されない限り生き続け、愛されると死ぬの。」
「それは全ての持ち主に?」
「もちろん、君も含めて全員よ。ただし家族からの愛情は対象外ね。」
僕は〈龍の紋章〉に関して、さらに幾つか質問を続けようかと思ったが、羊主の表情を見ていると、どうやらこれ以上これに関する質問は受け付ける気は無さそうだ。であれば、最後にこの質問だ。
「1番最後の質問だけでいい。」
「分かったわ。ふぅん、この質問ね。墓場の世界から戻る方法。たった1つよ。剣客を見つけなさい。」
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