1 - 3.『Entrance Exam』
1-3.『入学試験』
「それでは、入学試験を執り行います。呼ばれた方は前に出て、得意魔法を使ってみて下さい。」
一人ずつ名前が呼ばれ、前に出る。そして各々の得意魔法を放っていく。平凡な人もいれば、非凡な才能の持ち主もいた。数回、施設の崩壊で修復魔法を監督官総出で施したほどだ。そして、とうとう僕の番が来た。
「ロムス!」
「はい。」
僕は小さな足取りで前に出る。受験者の中で七歳という年齢の僕は幼い部類に入るだろう。本当であれば、貴族の長男として将来有望な者としてここに立つはずだった。だけど、僕にはセルヴィアーダ家に見合うだけの才能を示すことが出来なかった。その結果がこれである。
「得意魔法を見せよ。」
「はい。……【爆破】」
大きな爆発が何も無い広場で起こる。これが僕のちっぽけな得意魔法。これを見る人たちの表情は何も変化しない。どこにでもいる普通の魔道士だと。
「席に戻れ。」
僕は変わらぬ足取りで席に戻って行った。僕が平凡なことなんて、僕自身が一番分かっている。
こうして入学試験は終わった。僕は魔道学院から出た。外は夕日が沈みかけていた。公爵領では綺麗に見える夕日も王都では街を囲む外壁のせいで見えない。
「都会って言ってもいいことばかりじゃないんだね。」
「そうよ。」
僕は振り返る。そこには試験前に僕を助けてくれた女子生徒がいた。
「午前中はどうも。」
「いいの。それより試験どうだった?」
「僕はあんまり魔法が得意じゃないんです。だから得意魔法って言っても、赤魔法の基本中の基本の爆破魔法しか使えないんです。」
「……そう。でも落ち込むことはないと思うわ。この学院はあなたと同じような境遇の子も含めて、色んな身分の子が共に学び、競い合い、成長する場よ。これから身につけていけばいいのよ。」
「そんな事を言ってくれるのは貴女だけですよ。」
「貴方もいつか気づく時が来るわ。」
女子生徒は詳しくは言わなかった。僕もこれ以上親切にしてもらう義理はないと分かっている。
「そう言えば、貴女の名前は?」
「ああ、言ってなかったわね。私はエレラ。エレラ・スカーディアよ。」
「エレラ……エレラ・スカーディア。あの〈氷晶のスカーディア〉?」
「人は私の家のことをそう呼ぶわね。」
エレラ・スカーディア。かの有名なスカーディア公爵の愛娘だ。スカーディア公爵は〈氷晶のスカーディア〉と呼ばれ、青魔法氷系統の魔法を得意とした魔道士。これまで使い手の少なかった氷系統の古代魔法を簡素化、実用化して現代魔法へと変えた研究者でもある。その功績からスカーディア公爵は王家より〈一等勲章〉を授与されている。
その愛娘であるエレラは、スカーディア公爵をも超えると評される氷系統の魔道士だ。魔道学院の副生徒会長を務め、次代の生徒会長とも言われている。魔道学院の生徒会長は、多大な権限を所持している。魔道学院で首位の実力者が得られる地位なのだ。
「私のことはいいわ。貴方は?」
「僕はロムスです。ただのロムス。」
「ただの?まるで本当は別の名前があるみたいね。」
「気にしないで下さい。言い回しの問題です。」
エレラは気にかかっているようだが、僕にだって触れられたくない事はある。ここは強引にでも話を変えよう。
「あの、この王都で泊まれる宿って知ってますか?」
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「ここなんてどう?」
エレラに連れられて来たのは一つの宿だった。僕が頼んだ事ではあるが、エレラは快く引き受けてくれた。それどころか案内までしてくれたのだ。
「ありがとうございます!わざわざこんなことまで……」
「いいわよ。私も暇だったし。明日が試験発表よね。頑張ってね。」
「はい!と言っても、もう結果を待つだけですけどね。」
僕はそう言って笑った。エレラもつられて笑う。
「貴方が入学するのを待ってるね。」
エレラと別れを告げて、僕は宿に入る。中は人で賑わっていた。
「一泊いいですか?」
「一名様で?」
「はい。」
「では二階の奥の部屋へどうぞ。そこしか空いてないので。これが鍵です。何かあったら私か女将に言ってくださいね。」
「ありがとうございます。」
頭を下げると、僕は二階に上り、奥の部屋に入った。長旅も終わり、試験も終わった。後は結果を待つのみ。それにどこかワクワクしている自分がいる。
「どうしてこんなに気持ちが高揚するんだろう。」
未知の体験は気持ちを高揚させるのには充分だったのだろう。そうと自覚していても、やっぱり落ち着いていられない。七歳の僕にはその気持ちを抑えられるだけの心の強さは持ち合わせていなかった。
「こうしていても埒があかない。今日はもう寝よう。」
休めば、頭が冷えるに違いない。そう言い聞かせて僕は寝ることにした。全ての行く先は神のみぞ知る。