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2 - 18.『Monster』

2-18.『怪物』


次話は遂に中央都市です!




 街主(ロード)と別れ、僕とシーナは1日だけの馬車旅をすることになった。


「あのおばあちゃんにもうちょっと話を聞けば良かったかな。」


 そうシーナが呟く。未だに僕たちは知らないことが多すぎる。この世界に来た謎。〈J-19〉クラスとの関連性。迷いの渓谷に住み続ける老婆。異常な階級制度。この世界が墓場の世界と言われる所以。そして迷い人(ストレイシープ)とこの世界に元からいたという人狼の存在。


「知らないことが多いって言うより、何も知らないよね。」


 僕は付け足した。シーナは「そうだね。」とだけ言った。御者もいないため、本当に二人旅。渓谷を歩き続けるよりはマシだけど、それでも寂しい事に変わりはない。


「この世界はそんなに不快な感情が沸き起こるような所じゃないと思うんだけどね。」


 シーナはまた呟く。終わったことなのに、老婆の存在は頭の中から抜けない。シーナの言うことは僕の考えることと同じだった。


 馬車は既に半日ほど進んでいる。予定では明日の夜明け頃には着く。野宿することも考えたが、よく分からない世界での野宿は危険極まりない。それよりも先を急ぐことにした。


「ねえ、ロムス。あの動物なんだと思う?」


 そう言ってシーナが指し示したのは、奇怪な動物だった。一見すると普通の動物なのだが、纏っている禍々しい雰囲気や特徴的な歩き方をしている。僕たちの世界で言う魔物なのだろうか。だが、僕は魔物というより怪物という言葉の方が適切のように思った。


「こっちに向かって来てるみたい。」


「そんな呑気に言うこと!?」


 僕は慌てて魔法の詠唱準備をする。どの魔法が最も効果的かは分からない。まずは相手の動きを確かめる。その怪物はノシノシとまるで象が歩くように地面を軋ませながら歩行する。歩く度に馬車が揺れるため、馬車も止めることにした。


「足止めを喰らったって訳だ。相手の思うつぼだね。」


 冷静に状況を判断するが、内心は焦りが止まらない。こちらから魔法を打つことは出来ない。相手を興奮させるような事は慎むべきだろう。


「……来る。」


 なんの前触れもなくシーナがそう言った。その言葉に偽りは無かった。図体からは想像もつかないスピードでこちらへ飛んでくる。まさか飛行も可能だったとは……


「【紫電】……!」


 動きを止めるべく攻撃速度の速い魔法を選ぶ。【紫電】は怪物の腕に当たったが、何の変化も見られない。


「電気を受け流すか元々効かないのか……厄介な相手だな。とりあえず動きを止めよう。【茨の森】。」


 怪物の行く手を茨が防ぐ。何重にも敷き詰めた茨は、飛ぶ怪物の勢いを殺したが、完全に動きを止めることは出来なかった。


「勢いを殺しただけましだ……!【氷塊】!」


 大きな氷の塊が怪物に落ちる。土煙でどうなったかは分からない。それを悠長に待つほど僕は暇じゃない。


「【強風】」


 風で土煙を払う。


「硬いな……」


 そこには身体に少しヒビが入った怪物が立っていた。身体から蒸気を噴出している。身体が機械なのか……?


 怪物は声にならない雄叫びを上げようとする。


「シーナ、耳を塞いで!!」


 雄叫びが衝撃波となってこちらに襲いかかってきた。


「【真空】!!」


 唱えたが、声に掻き消されて詠唱は聞こえない。だが、しっかりと魔法は発動する。怪物と僕たちの間の空気を真空にすることで、声という音の波が届かないようにする。


 突然空気が真空になったことでそこに空気が集まる。結果、風が吹き荒れる。怪物は風に煽られながらも平然と歩いてこちらへ向かう。


「【茨の森】!」


 再び【茨の森】で動きを止める。だが、飛んでいない怪物には余裕があるのか、それを腕の一振りで引き裂いた。既に怪物と僕たちの間は100メトルもない。


「【炎戒】!【水爛(すいらん)】!」


 2つの上位魔法。どちらかでも怪物に効けばいいが……。その希望は当たりそうも無いみたいだ。


 怪物は炎の中でも触れれば焼け爛れる水の中でも平然としている。異常生物……やはり魔物とは異なる怪物だ。この世界の怪物をどう倒せば良いのか僕には検討も付かない。


「ロムス……倒すだけが勝ちじゃないよ?」


 シーナが声を掛ける。


「分かっている……だけど逃げるにしても、馬車があいつの歩行のせいで動かない。」


「じゃあ、一瞬でも浮かばせればいいんじゃない?」


「……そうか!」


 シーナの言わんとすることが分かった。つまりは怪物に飛行させれば良いのだ。そしてその状態で怪物を足止めする。僕の得意分野という事だ。


「まずは……【地砕】!!」


 怪物付近の地面を地割れで崩壊させる。突然のできごとに怪物は反応に遅れる。そのタイミングで僕たちは馬を走らせる。


「少しでも遠くへ!」


 一度、馬を走らせれば僕たちが止まれと指示しない限り、止まることはない。だからこそ安心して馬たちを走らせることができる。僕は馬から目を離し、怪物を見る。


 怪物は既に空中に浮遊し、地割れから逃れている。知能が高い怪物は扱いにくいな。だからこそ引っ掛かることもあるんだけどな!!


 こちらへ向かって怪物が向かってくると同時に魔法を発動させる。


「【多重詠唱(マルチチェイン)】! 【茨の森】!」


 1回目。初速を落とせば、かなりスピードが落ちる。怪物の進路を防ぐ。だが、それもすぐに引き裂かれる。そこで2回目の【茨の森】を配置しながら、地面から3回目の【茨の森】を使う。足を引っ張って、地割れの所へ落とそうとする。


 二重に発動する【茨の森】に怪物が気を取られる。その隙に僕は別の魔法を使う。


「【氷塊】……【氷塊】……【氷塊】!!」


 3連続の【氷塊】。連なるようにそれが怪物へと降り注ぐ。怪物は【茨の森】を引き裂こうとする間に、【氷塊】を3回浴びる。先程よりも大きな土煙が上がる。その頃には僕たちはかなり遠くまで離れていた。


「ロムス、お見事。」


「ありがとう。ギリギリだったよ。」


 これだけ離れていれば、もう追い付くことはないだろう。危険な馬車旅は早く終わって欲しいものだ。




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