2 - 17.『The country of the werewolves - II』
2-17.『人狼たちの国 2』
すいません、色々と事情で投稿が遅れています……
「何からお話しましょうか……。」
この街の街主も自分のお茶に口をつけると、静かに語り出した。
「この世界には迷い子と呼ばれる、異世界から迷い込んできた者がたくさんいます。」
「はい。」
「この世界へ来た迷い子は基本的に『中央都市』で暮らしています。今の中央都市の人口は数十万とも数百万とも言われています。迷い子はそこで何らかの仕事に就くことになります。多くの仕事は『人狼局』という機関で働きます。」
「人狼局ですか……?」
「ロムスさんはこの世界の住民の大半が人狼だと言うことは知っていますか?」
「耳に挟んだことはあります。」
まさか僕も人狼の親分とも言える存在に話を聞いたとは言い難い。話を聞いた程度にしておく。
「それならば話は早いです。人狼は満月の夜に自我を失うため、仕事においても重要な職務を与えられません。その代わりをするのが、人狼局なのです。基本的にどの組織も幹部以上は迷い人のみです。また、街や地方の領主も迷い人が務めます。」
「という事はあなたも……?」
「ええ、私は恐らくロムスさんとは違う世界でしょうが、迷い込んできた子羊の一人です。」
「そうなんですね……」
思わぬところで1人目の迷い人と会えた。老婆を1人に含めるとしたら、2人目になるが、彼女は例外だ。この世界で最も特別な存在である彼女は、例外中の例外である。
「そして迷い人は必ず中央都市で戸籍を登録する必要があります。そしてこのようなバッジを貰います。」
街主は胸ポケットからバッジを取り出す。眠っている子羊のバッジだ。
「これを持っていることが身分証明に?」
「はい。これを持つだけでいいのですから、当然盗られないように気を付けてください。このバッジは闇市場でも高値で取引されています。」
どうやらバッジを持てば、人狼でも迷い人のように振る舞うことができるようだ。ということは本当にその人が迷い人かどうかは分からない。
「ですが、2ヶ月に1回の周期で定期検診があるので、そこで本物か偽物かは分かるんですけどね。」
そこでバッジを無くしていないかどうかも確認します、と街主が付け足す。なるほど。
「じゃあ、僕たちも中央都市を目指していけばいいわけですね。」
「はい、そういうことになります。身分を証明するまでは人狼と一緒です。地域によっては差別する者もいるので気をつけて下さい。それとくれぐれも街主や連主、域主、都主、公主、羊主には逆らわないようにして下さい。」
「それぞれの説明をお願いしてもいいですか?」
「そうですね……街主は先程言いましたが、他の役職も領主のことです。」
街主曰く、連主は連結都市と呼ばれる、複数の街が繋がった都市を治める領主のこと。域主は幾つかの街で構成される中規模な地域を治める領主。都主はさらにその地域を複数まとめた大規模な区域を治める領主。公主は国王と同等の立場だ。最後に羊主は、世界で最も偉い人である。
「僕たちの世界における貴族のようなものは無いんですね。」
「いえ、ありますよ。」
「え?」
今までの発言を見れば、人狼局の中から領主は派遣されるようだが、それは階級制度とは少し違うもののように聞こえる。では何が貴族を象徴するような存在となりえるのか。
「私たちです。私とあなた方。そして、中央都市の住民やそれぞれの領地にいる領主たちです。」
「つまり……迷い人のことですか?」
「その通りです。この世界には人狼と……そうでない者たちに明確な格差が存在します。それを引き起こしたのは他でもない羊主。」
「羊主……は、人狼局から派遣された迷い人ではないんですか?」
「元々は……そうでした。既に彼女は……人狼局の手には負えなくなっています。」
「それだけの人物なんですか?」
「はい。彼女は恐ろしいです。私も彼女に1度だけ会ったことがあります。私は目を合わせることが出来ませんでした。その時は権力者の威圧なのかと思いましたが、今になって思うと何らかの魔法なのかもしれません。……とにかく彼女には関わらないようにすべきという事です。」
街主の唇は震えていた。表情は先程までと変わっていないが、羊主に脅えているようだった。僕は執事に目を向ける。
「ロムスさん。ご主人様へのご配慮、誠に有り難いのですが、これは既にご主人様の中でケリのついた事です。どうか放っておいて下さい。私めは理解しておりますので。」
「はい……。」
僕の中では満足できる解答ではなかったが、執事がそう言うのならそうなのだろう。僕が触れていいことでは無い。大人しく引き下がる。
「私はこの街から出ることは出来ませんが、お二人の手伝いなら出来ます。馬車を用意してくれないか?」
「はい、畏まりました。」
執事は優雅に一礼をすると、扉の向こうへと下がって行った。
「ここから中央都市まではあまり遠くありません。恐らく1日で着くはずです。」
「重ね重ねありがとうございます。」
「いえ、私もお二人も同じ穴の狢だと思っていますから。」
「ロムス様、シーナ様。馬車の用意が出来ました。こちらへ。」
「ということです。またいつか会いましょう。」
「はい、ぜひ。」
僕は街主と握手をした。そして馬車に乗る。シーナは既に乗っていた。僕たちの世界と馬車の装飾は変わらないみたいだ。
扉を閉めると、馬は静かに歩き始める。僕たちの世界とこの世界。違う点があるとすれば、馬車に御者がついているかどうかということ。この世界には御者がいないようだ。馬が自分で目的地へ連れていく。
「本当にありがとうございました!」
窓を開けて僕は大声で伝える。街主は微笑み、手を振った。執事は頭を下げる。僕たちが一番に訪れた街がこの街で良かった。
僕たちが目指すは中央都市。この世界の中心だ。そこで何が待っているのか。
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