2 - 16.『The country of the werewolves - I』
2-16.『人狼たちの国 1』
ここからは人狼の国の話が続きます。ロムス達が色々巻き込まれるのは当然ですが、その中で思わぬ出会いも……!是非、お楽しみに。
僕とシーナは残りわずかだという渓谷を出口へと向かって歩いていた。頭の中では未だにどこか気持ちの悪い感情が渦巻いている。けれど、どうしようもない感情だ。捨て去ってしまうのが一番なのかもしれない。
「あっ、あそこが出口かも。」
シーナの言葉に顔を上げる。そのようだ。外には森が見えた。その奥には街のような建物が見える。長い渓谷だった。老婆は送っていこうか、と行ってくれたけど、さすがにそこまでしてもらうのは憚られたので断った。
少し駆け足気味で渓谷の外へ向かう。人間は長期間太陽を見ないと、うつになると言う。うつになり掛けていたのかもしれない。もしくは人里が恋しくなっただけかもしれない。
「外だ!」
思わず声を大きくする。シーナが横で驚いていたが、気にしない。渓谷の中の閉塞感から解放されて今は幸せな気持ちなのだ。
「そ、そうだね……。」
明らかにシーナが引いているが、それも気にしない。
「それじゃあ、街に向かおうか。」
人狼たちの街。果たしてどんな所なのか。楽しみなようで、どこか不安な気持ちもあった。でも、行ってみないことには分からない。善は急げ、だ。
「【高速】」「【高速】」
再び加速魔法を発動させる。魔力が回復してきたのだ。ゆっくり歩いていると、日が暮れてしまうかもしれない。
渓谷の中は強い風が吹き抜けるため、とても寒い。それに比べて外は良い。心地よい風が体に当たる。森の小道を駆けて行く。道中、動物たちが驚いているのを見つける。
「ごめんなさい。」
驚いている動物たちに頭を下げるシーナ。動物に対して律儀なんだな……。僕は少し驚く。動物が好きなのかもしれない。
「ロムス、行こう。」
「もう、良いの?」
「うん。」
僕たちはそんな調子で数分、街まで辿り着いた。小さな家がたくさん並んでいる。セルヴィアーダ家の領民の家に似ていた。質素だけど、品のある家。
「誰かいないかな。」
僕は街の通りを見渡したが、誰もいない。もしかすると昨日が満月の夜だったことに関係しているのかもしれないが、それも聞いてみないことには分からないのだ。
「すみませーん!誰かいませんか!」
街に入り、通りを歩きながら声を張り上げる。たまに物音は聞こえる。恐らく僕の声が聞こえているのだろう。でも返事はこない。もう少し問いかけてみるかな。
「僕たち!この世界に迷い込んじゃって!」
僕がそういうや否や、誰かが1つの家から飛び出してきた。そして僕の肩をガシッと掴む。
「本当にあなたがたは迷い子で!?」
「はっ、はい!……そうですが。」
驚いて変な声が出る。後ろでシーナが笑っていた。恥ずかしい。
「どうぞどうぞ!私の街へ!」
途端に色んな家から人々が溢れ出てくる。たちまち、僕たちはたくさんの人に囲まれてしまった。皆が喋っているせいで、何を言っているのか全く分からない。
「静かにせんか!客人が困っておるだろうが!」
先程の男が注意する。不満げな声を上げながらも静かになった。
「すみません。この街の者たちが……。」
「あなたがこの街を治めている方ですか?」
「ええ、そうです。一応、『街主』をしています。」
「街主……ですか?」
「すみません、そう言い方が悪かったですね。街の主と書いて、ロードと読みます。」
「へぇ……」
やはりこの世界にはこの世界の階級制度があるようだ。間違って逆らわないようにしないといけない。僕は街主を見る。けど、どうも人狼には見えないんだよな。
「それはそうとお名前は何とおっしゃるのですか?」
「そう言えば名乗っていませんでしたね。僕はロムスと言います。彼女はシーナです。」
シーナがペコリと頭を下げる。街主は僕とシーナを見比べる。
「お二人は……恋人か何かですかな?」
「ぶっ!」
思わず吹き出してしまった。シーナから白い視線が飛んでくる。おっと訂正しないと。
「ち、違いますよ……!僕とシーナはクラスメイトです。」
「そうなんですか……お似合いと思いましたが。」
ちょっと街主さん辞めてくださいな。シーナさんからの視線が痛いんです。お願いします、辞めてください。
僕が街主に視線で訴えると、ハハハッと笑って誤魔化された。これ共犯か?
「お二人にお話したいことがあります。ここではなんなので、私の家で続きを話しませんか?」
「そうさせて頂きます。」
ということで僕たちは街主の家を訪れる。綺麗な煉瓦造りの家だった。僕たちがソファーに座ると、召使いがお茶を出してくれる。ズズズ……美味しい。
「私の執事の腕はどうですかな? そこにお茶請けもあるので是非。」
「ありがとうございます。美味しいです。」
そう言うと街主は鷹揚に頷いた。
「それでは何から話しましょうか……。」
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