2 - 9.『Mountain Trail』
2-9.『山道』
熱血教師が手に持っていた立方体を地面に置く。すると立方体は回転しながら、光を放ち始めた。
「白魔法空間系統の魔法という訳か。」
僕の予想にリルゲア先生は頷く。どうやら正解みたいだ。時空を歪めて、走るコースを作るのだろう。さすがは魔道学院。やることがマジカルだ。
異空間への門が開くと、熱血教師率いる〈J-19〉の二組が順に走っていった。
「リルゲア先生、ルールは?」
「山道を走りきる事だよ。その先で集合するからね。でも山道は険しい。そして魔物も出るから気を付けてね。殺されたら、修練室に戻ってくるようになってるよ。」
「倒すのはアリなんですか?」
「〈J-19〉〈J-20〉の生徒では倒せないようになってるよ?」
「僕たちなら?」
「ふふふ、どうだろうね?」
という事は可能なのだ。今年の〈J-20〉には強いメンバーがいる。障害物を破壊したところで文句は言わせない。
「さて、みんな、行きますよ。着いてきて下さいね。」
リルゲア先生は走り出した。本気で。え、あれ、魔法使ってない?
「えっ、リルゲア先生……!?」
「私から離れすぎてもリタイアになるからね~」
僕たちは慌てて走り始める。しっかりと緑魔法風系統の魔法を使いながら。
「出来るだけ全員でゴールするよ!」
ヨルクスに僕、リーラ、スナートが同意する。
「基礎体力つけるのに魔法使用アリなの……?」
そう言うシーナ。誰もが顔を背けた。
全員が風系統を使えるみたいだ。愉快な5人組は……知らない。門に入ると、急な傾斜に驚かされる事になる。
「なんだよ、この山道……。」
スナートが呟いているのが聞こえる。全くだ。だが足を止めるわけにはいかない。僕たちはそれぞれのスピードでリルゲア先生に追い付こうとする。幸運にも距離はあまり離れていない。
学院に入る前に練習していた魔法が役立つ時だ。加速魔法は僕の得意分野。【加速】で初速をつけると、そのまま【音速】にまで繰り上げた。
「ロムス、速いよ……」
そう言いながらもついてくるのがヨルクスだ。ヨルクスも【音速】は使えるらしい。他の3人が置いていかれている。
「3人をどうする?」
「【高速】は使えるみたいだけど……【音速】を教えることもできないし……今回は僕たちも抑えようか。」
「そうだね。」
あくまでもチームワークが大切だ。僕とヨルクスは3人の元へ戻る。魔法も【高速】に切り替えた。リルゲア先生はこの際、無視だ。どうせ【音速】を使っているが、しばらくすれば【高速】で僕たちを待ってくれているのだろう。あの人はそういう人だ。
「よし。いくぞ。」
その調子でしばらく走っていると、リルゲア先生がスピードを下げながら近付いてきた。やっぱりね。僕に並んで走る。
「どうしたんだい?君たちならもっとスピードを上げられると思うけど。」
「……これぐらいで大丈夫ですよ。」
「……? そうかい? じゃあ、いいけど……。」
リルゲア先生は気付いていないらしい。僕は密かに作戦を立てていた。
僕たちのクラスと〈J-19〉とはかなり差が開いている。彼らの背中が微かに見えるかどうか、といったほどに離れてしまっている。恐らく最初から魔法を全開にして走っているのだろう。だがそれは良い作戦とは思えない。学院生の魔道士で魔力に満ち溢れた人は少ないだろう。
一時間ほど走っていると、前方に集団が見えてくる。やはり魔力が枯渇したようだ。僕たちは同じペースで〈J-19〉を抜かした。熱血教師が口をパクパクとさせている。リルゲア先生はいつも通り微笑んでいる。
「おっと……私たちのクラスでもリタイアが出たみたいだ。あの愉快な子たちだね。」
どうやら先生にも名前を覚えられていないようだ。愉快な5人組は全員リタイアらしい。まあ、通常の〈J-20〉ならそんなものだろう。僕たちも無理に責めるつもりはない。
「先生、今のうちにはなれよー」
リーラが言う。リルゲア先生は首肯する。さらにペースを上げた。【高速】であれほどの速さが出せるものなのか。リルゲア先生は【高速】で出せるであろう、限界の速度で走り始めた。負けじと僕たちもペースを上げていく。
「ゴールまではあと1キロメトルだよ。」
目を凝らすと道の先に小さな旗が立っている。あそこがゴールか。そう言えば魔物は……?
「そろそろだね……」
リルゲア先生が呟く。同時に地面が揺れた。慌てて止まる。
「なんだ!?」
僕たちの前に岩の装甲をしたトカゲが現れる。魔物だ。
「ロックリザードだね。ここからは私とは別行動だ。先にゴールで待っているよ。」
リルゲア先生の姿が消える。取り残された僕たち。ロックリザードは警戒態勢に入る。
「来るぞっ!!」
岩の弾丸が放たれる。それも何発も。僕たちは四方に避ける。岩の弾丸が当たった地面は抉れていた。当たれば一発で失格だろう。動きを止めるべく魔法を発動させる。
「【氷塊】!」
ロックリザードが影に覆われる。気付いた時にはロックリザードの意識は途絶えている。ヨルクスだ。氷塊が砕けると同時に再び走り出すが、また止まる。前方から三体のロックリザードが現れた。
「まだいるのか……」
魔物が僕たちの行方を阻む。
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