2 - 8.『The Difference』
2-8.『違い』
「今日から〈J-19〉との合同授業です。心して取り組んでね。」
リルゲア先生は朝の連絡を終えると、教室から出た。途端に教室の中は騒がしくなる。
「ロムス、どうなると思う?」
そう尋ねるのはヨルクス。僕は自分の考えを伝える。
「こう言っては何だけど……弱い。圧倒的に弱い。」
貴族として単純に強いヨルクス。〈龍の紋章〉によって力を底上げされた僕。スナートも耐久力はある。リーラやシーナは分からないが、弱いということは無い。例年の〈J-20〉と比べものにならないほどの力を備えているはずだ。
「そうなのか?」
スナートも近付いてくる。ついでに愉快な5人組も。ちょっと多いね。
「一応ね。スナートたちは違うけど。」
「なっ……!?」
「うそうそ。スナートは耐久戦を仕掛ければ、戦える才能を持っているよ。」
「そ、そうか……?」
……なに、照れてんだよ。一人顔を赤くするスナートを放っておいて、僕は双子に話し掛ける。
「おい、リーラ、シーナ。」
「んー? なーに?」
「君たちは大丈夫なのか? 合同授業?」
「だいじょーぶ! 多分!」
……心配だ。シーナは何やら呪文のようなものを唱えている。本当に呪いなのではないだろうか。少し後ずさる。ヨルクスはその様子を見て笑った。
「ははは。結局見てみないことには分からないね。それより移動だよ。教室はこの前の修練室だよ。」
僕たちは思い思いに喋りながら、修練室へと向かった。修練室には既に人がいた。
「おっ、あれが今年のクズどもか?」
そういう彼らは誰だろうか。推測はついているが、目も当てられない態度で見えないことにしておく。
「君たちこそ〈J-21〉はどう?」
「あぁ?」「なめてんのか!?」
「よっしゃ、釣れた。」
釣り放題だね。こんな簡単に釣れるなんて。面白い面白い。僕は煽っておきながら、我関せずといったようにヨルクスと話す。
「そういえば〈J-19〉の人たちいないね。」
「え、ええ……」
ヨルクスはのってくれないみたい。意外とノリが悪いんだなぁ。ま、僕が悪いけどね。そんな様子を見て、リーラは笑っている。もうちょっと恥じらいを持ちなさい。恥じらいを。
「ダサい……」
シーナも意外と毒舌なんだよね。あれ、素なのかな。リルゲア先生はニコニコとするばかりだ。
「おい、お前たち! さっさと並ばんか!!」
僕たちの和気藹々とした雰囲気を乱す一声。〈J-19〉の担任である。脳筋、という言葉がこれほどまでに似合う存在はいないのではないか。上半身は袖無のシャツ。下半身はジャージ。熱血教師をまさに体現している。
「はーい。」
逆らう訳にもいかず、それぞれのクラスごとに整列する。順番は適当だ。熱血教師は今にも堪忍袋の緒が切れそうだ。
「全員揃いましたか?」
「はい。」
リルゲア先生はそれをやはりニコニコしながら見ている。相変わらずだなぁ……。それを確認すると、熱血教師は説明を始めた。
「これから一ヶ月間、〈J-19〉と〈J-20〉にて合同授業を執り行う! 正確には昇格戦までだ! お前たちには伸び代がたくさんある! それを活かして修練に励め!」
「はい!」
「まずは基礎体力をつけるところからだ。魔道士は魔法を使うと言えども、体力が無ければ戦闘時に足でまといとなる。関係ないとは考えずに心して取り組むように。それでは各クラスごとに五人ずつ、二組をつくれ。」
僕たちのクラスは愉快な5人組とそれ以外となった。外されたスナートを見ると、悲しそうには見えない。あまり話していないのを見ると、実はリーダー格ではないのかもしれない。
対して〈J-19〉は揉めていた。まだクラス内で仲が深まっていないのかもしれない。まあ、僕たちみたいに入学早々戦いに明け暮れるクラスも無いだろうけどね。
あまりにも決まるのが遅いので、熱血教師が無理矢理分けた。不満そうだが、仕方ない。
「よし、分かれたな。それじゃあ、山道を走ってもらう。」
「山道……ですか?」
「……」
熱血教師はヨルクスの質問をスルーした。そうか僕たちに説明していたようで、実は向こうのクラスにしか話していなかったのか。先程リルゲア先生が口を挟んだ時も睨みつけていた。それを考えると、クラス間だけでなく、教師間でも受け持つクラスに応じて差別されるのだろう。
生徒たちの競争を促すためとは言え、やりすぎな部分もあると思うんだけどな。とにかくこの熱血教師は僕たちの質問に応じる気は無いらしい。たとえ、道中で何があっても気に掛けることはないだろう。
「それでは順にランニングを開始しろ! グズどもは後ろからついてこい! ついてこれるとも思えんがな!」
「リルゲア先生、よろしくお願いしますね。」
「ははは、よろしく、ロムス君。」
リルゲア先生も察したらしい。僕たちは僕たちだけの走りをするとしよう。
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