2 - 4.『Strength』
2-4.『強さ』
リルゲア先生……。僕は笑顔を浮かべて、教室から修練室へと移動するリルゲア先生を見ていた。どこから見ても隙がない。
スナートが弱いと言ったのも、リルゲアの強さなのだ。リルゲアは強さを一切感じさせない。それは明らかに不自然なのだ。隙が全くない人間が弱いだろうか。そんなことはありえない。ありえるとすれば、潜在的な能力を得た超人だけだろう。
「ロムス君は黙っているばかりだけど、話さないのかい?」
「ちょっと考え事をしていて……。」
「ふーん、そうなんだ。」
何やら意味ありげな視線を向けてくる。だが、僕にはその行動の一つにとっても、何かを企んでいるようにしか思えない。もう考えるのは辞めよう。考えれば考えるだけ、ドツボにハマりそうだ。
「よし、着いたよ。」
目の前の扉には『修練室』と達筆な字で書かれている。中に入る。
「広い……」
「シーナ君、いい所に目をつけた! この修練室は異空間なんだ! 空間系統の魔法で使用者が望むままに拡大するのさ!」
「それはすごい……」
ヨルクスが思わず吐息を漏らす。白魔法空間系統の魔法は異彩を放つ。他魔法と比べて、難易度も効果も格段に高いのだ。その魔法を使う魔道士は限られているほどに。初代勇者と言われる人と、当代国王、それにたった一人のSS級冒険者。その三人だけだ。
「ここは国王自らがお作りになっている。この学院自体もだ。素晴らしい設備に感謝しつつ、私たちは使わないといけないね。……さて、始めようか。」
リルゲア先生がボードを操作すると、修練室中央に白線が浮上する。
「片方に僕が立つから、もう片方に戦いたい人が来てね。もちろん、何人でもいいよ。」
「そうか? じゃあ、俺から行くぜ!」
スナートがそう言って移動するのをヨルクスが遮る。
「いや、ここは僕たち全員でいかせて下さい。」
「それならそれでいいよ。じゃあ、並んでくれ。」
クラスメイトの力を推し量るという意味でも、全員で戦うというのは名案だ。さすがはヨルクス。頭が冴えている。僕も冷静でいなければならない。
白線の片方にリルゲア先生が、もう片方の白線に僕たちが立った。
「じゃあ、準備はいいかな? それでは、試合開始!!」
手を下に振り下ろすと、同時に僕とヨルクスが動く。
「挟め!」
「分かった!」
左と右から挟むように回り込む。リルゲア先生は余裕な笑顔を浮かべている。
「【茨の森】!!」
「【氷刃】!!」
二人の魔法が炸裂する。砂埃が舞い上がる。
「先生は!?」
「スナート君、心配には及ばないよ。ここだ。」
いつの間にかリルゲア先生はスナートの背後に回っている。速い……!
「うわぁ!か、【火炎】!!」
下位魔法の【火炎】。最も基本の魔法だが、練度は意外と高い。魔法のセンスがあるようだ。どうして〈J-20〉に入ったのか。
「甘いよ。」
リルゲア先生は【火炎】が来るのも構わずに突進する。スナートが衝撃で飛ばされる。
「【微風】!」
僕はギリギリのところでスナートを受け止める。
「大丈夫か?」
「俺は大丈夫だ……。リルゲア先生、ホントに強かったのか……。」
「まだまだこんな事で強いなんて言えないよ?」
リルゲア先生はスナートを狙っている。僕はその前に立ちはだかる。
「【炎戒】!!」
「ロムス君はまた上位魔法か。それも【火炎】の上位互換。スナート君の皮肉かな?」
「ヨルクス!」
「【氷柱落】!」
前方からは【炎戒】、後方からは【氷柱落】。どちらも上位魔法で危険である。これにどうでるか。
「そんな魔法は使っちゃいけません。危ないですよ。」
修練室に一陣の風が吹く。その風はリルゲア先生の周囲で暴風となり、吹き荒れる。
「無詠唱……!?」
高等技術である無詠唱。魔道学院の一介の教師が使えるとは思えない。暴風は【炎戒】【氷柱落】とぶつかり相殺した。
「正解だ、ロムス君。これは【時化】という魔法だよ。」
緑魔法風系統の上位魔法。それ以上に一つの魔法に込められる魔力量が尋常ではない。上位魔法二つを一つの上位魔法で相殺など出来るはずが……。
「強い、ですね……」
「ロムス君は本当にそう思っているのかな? 実は勝てる策があったりするんじゃないのかな?」
「先生は見事ですね。ありますよ。」
「え、あるのか!?」
スナートが驚く。ちょっと静かにしておいてくれないかな。スナートを睨みつけると、静かになった。よし。僕は密かに〈龍の紋章〉に触れる。リルゲア先生は気付いた様子はない。
「【多重詠唱】かな?」
「……!? どうしてそれを……!」
「私はこれでも博識なんだ。そんなものでは私には勝てないよ? 策を練るんだ。」
どうすればいい……!? リルゲア先生は何を知っている? 何なら知らない? 僕が【多重詠唱】の究極である融合魔法を使えれば勝算はある。だが、僕には使えない。
その時だった。何かが聞こえた気がしたのは。
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