2 - 3.『Teacher』
2-3.『教師』
ヨルクスと繋いだ手を放すと、僕は愉快な仲間たちを見る。未だに縄に縛られている滑稽なクラスメイト。どうしたものか。僕が考えていると、愉快な仲間たちのリーダー格の男子生徒が口を挟む。
「あ、あのさ……」
「……」
「無視かよ!?」
さて、どうしたものか。その様子を見ていたリーラが腹を抱えて笑っている。淑女としてはしたないと思わないのかな。まあ、そう思う僕の方がまだ貴族気分が抜けてないだけなのかもしれないな。
「お前に喧嘩を吹っ掛けたのは悪かった。お前が強いというのも分かった。これで納得してくれないか?」
「嫌だ。」
「なんて強情!?」
ノリツッコミどうも。僕は愉快な仲間たちの【束縛】を解除する。愉快な仲間たちはまだ縄の感触が残っているのか、体のあちこちを触っている。
「俺の名前はスナート。よろしくな、ロムス。」
「どうして僕の真似をするんだい?」
ヨルクスがスナートとやらの顔を見る。リーダー格の男子生徒にも名前があったらしい。
「いいじゃないか! 俺、こういう『友情!』みたいな展開好きなんだよ!」
「別のところでやって。」
「ひどい!?」
いやボケじゃなくて、かなり本心なんだけどね。言葉を重ねる。
「僕の目標は〈A-1〉。弱い仲間はいらない。」
「まあまあ、ロムス。そんな事言わなくたっていいじゃないか。今だけでもクラスメイトなんだ。仲良くしない?」
「あ、兄貴……!!」
「兄貴……それ、まさか僕のこと?」
「その通りです!兄貴!」
ヨルクスは呆然として、僕の肩を掴む。そして無表情のままに僕に告げた。
「ロムス……やっぱり君の判断は正しかったかもしれない。」
「ひどいです、兄貴!?」
「ツッコミ要員……?」
シーナがそう呟いたのは誰にも聞こえていなかった。
「はいはい、そこまでだ。」
僕らが意味もない言い合いをしていると、誰かが手を叩く音が聞こえた。一斉に扉の方を見る。そこには長い髪の男が立っていた。長い髪は後ろで一つに結ばれている。
「あなたは?」
「礼儀を欠かさないだけ及第点としよう。でも君たちがクラスでした行動は些か行き過ぎた行動だったとは思わないかい?」
「あーその事ですか。えっと、証拠ありますか?」
「え、スナート?」
突然、スナートが話し始める。代わりに罪を被ろうとするのを、男は止める。
「スナート君。君が罪を被る必要はない。邪魔だから退いておいてくれ。」
「非情だった……」
意外とツッコミ要員はシーナなのかもしれない。そんなシーナのツッコミにクラスメイト一同頷く。しかし、男は気にした様子はない。
「私が聞いているのはロムス君とヨルクス君だ。君たちは自覚しているのかな?」
「失礼ながら、教室は破壊しておりません。そして、生徒間での練習試合を禁じると言った規則は設けられていないはずですが。」
「中々に口も回るようだ。でも、ロムス君。上位魔法のぶつかり合いをしておいて、練習試合とは言い難いんじゃないかな?」
「いえ、練習試合です。」
ここで自分の意見を曲げてしまうのは良くない。相手に主導権を握らせてしまう。ここは五分五分ぐらいにしておくのがちょうど良い。
「君がそこまで言うのなら信じる事にしよう。だが、気をつける事だ。この学院は君たちの一挙一動を見ている。物理的な意味でも、魔術的な意味でも、だよ。それは肝に銘じておくべきだ。」
「重々承知しております。」
僕は頭を軽く下げる。あくまでも男の寛大な措置によって、罰則を受けずに済んだのである。これぐらいの事はしておかないといけないだろう。
「よろしい。じゃあ、ホームルームを始めようか。」
+----------+
僕たちを止めた男の名前はリルゲア。〈J-20〉の担任という扱いらしい。見た感じ、かなりの使い手だ。近接戦においても、魔術戦においても。経歴を持つ男なのだろう。毎年落第寸前の生徒を預かるのだから、これだけの能力がいるということか。
「はいはーい、リルゲアせんせーい。」
「どうしたんだい、リーラ君。」
「先生って強いんですかー?」
誰もが沈黙する。ただものでは無いと分かっているが、それがどれほどなのかは分からない。リーラの質問は僕らの疑問を代弁してくれたに等しい。それに対してリルゲア先生の反応は変わらない。ニコニコと生徒の発言を見ているだけだ。裏が読めない。
「どう思う? 私は教えてきた生徒たちには強いと言われたり、弱いと言われたりする。君たちは私を見て、どう感じる?」
僕は周囲を確認して発言する。
「先生は強いでしょう。それも僕たちは引き分けに持ち込むことすらできないでしょう。」
「ふむ、ロムス君はそう思うのかい? じゃあ、他の子たちは?」
「はいはいー! 私もそー思う! 先生、強そうだもん!」
リーラも同じ感想を持ったようだ。それにヨルクスも首肯する。
「僕も同感です。先生は僕たちの予想するよりも遥かに強いです。」
だが、全員が全員そう思う訳では無い。
「俺は違うと思うけどな。せんせーは弱いぜ。弱そうなオーラがプンプンじゃねえか。」
「スナート君はそう思うんだね。君たちも一緒かな?」
愉快な仲間たちも同じらしい。いい加減名前を覚えてあげたいけど、如何せん僕の中では愉快な仲間たちという印象が強すぎた。我慢して欲しい。
「……そう言うなら、試してみたら?」
「うん、それもいいかもしれないね。先生の力を見せてあげよう。」
袖を捲りあげ、力こぶをつくると、リルゲア先生はそう言った。
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