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2 - 2.『After all』

2-2.『決着』

「うあああ!!!」


 ヤケになって【氷瀑】を起動する。かなり危険だ。僕は【縛鎖】で一時的に動きを封じたが、それでもいつかは壊れる。この【氷瀑】はそうそう易々と使っていい魔法ではないのだ。


「くそっ……【多重詠唱(マルチチェイン)】!!」


 僕は手のひらの〈龍の紋章〉に触れながら叫ぶ。すると〈龍の紋章〉の龍の絵が変化する。今にも襲い掛かって来そうな、そんな勢いのある絵だ。この原理は分からないが、王都の古い図書館で見つけた文献に記載されていた。


「【波動】!!」


 この【多重詠唱(マルチチェイン)】は魔法連撃と似ているが異なるものである。連続に数回魔法を放つのが魔法連撃だが、同時に複数の魔法を放つのが【多重詠唱(マルチチェイン)】である。見つけた文献では魔法(マジック)ではなく、能力(スキル)と表現していた。


 これを高めていけば、同時に異なる魔法を放つことができる。言うなれば融合魔法(フューズドマジック)。人の未知の領域ともされる次元に達することができるのだ。


 複数の【波動】が絡み合い、【氷瀑】に干渉する。強烈な振動は氷の分子間力を弱め、自壊させる。数秒後、見事に巨大な氷の塊は爆散した。呆けたような顔でそれを彼は見ている。


「大丈夫か……?」


「黙れ黙れ!!【氷瀑】!!」


「ロムスー危ないねー」


「リーラは離れてろ。……ちょっと強いのいくぞ。【衝撃】」


 白魔法振動系統の魔法である【波動】。その上位互換とも言えるのが【衝撃】だ。一応、上位魔法となっている。瞬く間に氷塊は再び爆散することとなる。


「おーすごいねぇー」


 リーラは褒めているのかふざけているのかよく分からない。シーナは無反応。愉快なお縄の仲間達は口が開いたまま動かない。本当に変なクラスだな。


「もう諦めろ。」


「嫌だ……僕は出来損ないじゃないって認めさせてやる!!」


「君は充分に強いよ。」


「嘘だ! 思ってないだろ!」


 そんな事を言われてしまえば、もう僕からは何を言えないじゃないか。呆れて言葉が出なくなる。まだ彼の戦意は喪失していないようだ。何か策でも練るか。


 僕は後方に跳ぶ。目の前には【氷刃】が迫ってきていた。馬鹿正直に【氷瀑】だけを使うわけではないようだ。


「【振動】」


 目の前の氷刃が砕ける。氷の結晶が舞い、一瞬意識が逸れる。その隙に……!!


 僕は側面に回る。一瞬後に気付いた彼は【氷礫(ひょうれき)】で氷の礫を飛ばしてくる。巧みにそれを躱しつつ、一歩、また一歩と徐々に彼に近付いてくる。


「来るな来るな……【氷壁】【氷剣山(ひょうけんざん)】」


 剣山が壁から生える。走っていた僕はそれにぶつかりそうになるが、寸前で止まった。壁を避けるようにさらに大きく回る。だが、体を覆うように【氷壁】を発動させているため、僕は近付けない。一歩下がる。


「あっ、やばっ」


「【氷柱落(つららおとし)】」


 避けられない。僕の頭に氷が突き刺さる。頭部から腹部まで刺さる感触はおぞましいものだ。普通に考えれば。


「あ、え……?」


 さすがのリーラもこれには反応できないようだった。戸惑っている。愉快な仲間たちは囁きあっている。まさか死ぬとは思わなかったのだろう。だが、確かに僕の体からは血が出ている。それもとめどなく死に至る出血量だ。じきに死ぬだろう。


「……僕は何を??」


 彼が自身の魔力の減少を確認する。それから前を見た。その目が驚きに包まれる。


「まさか……これ、僕が!?」


 彼はしゃがみこんだ。


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」


 その感情の起伏を抑えられれば、こんなことが起こらないと気付いているのだろうか。クラスの皆々の表情を僕は影から見ていた。


 実を言うと、僕は紫魔法召喚系統の【傀儡】という魔法で分身をつくり、本物の僕はずっと影に隠れていたのだ。気付かれないように【氷礫】が砕けた一瞬を使ったのだ。他の人がそれに気づく気配はない。【傀儡】で出来た人形は本物に変わらないほどに忠実に再現されているため、かなりの魔道士でないと気付かない。裏社会ではお馴染みの魔法らしい。


「さて、頭は冷めたか?」


 しばらくして僕は影から姿を現した。分身が死んだ直後に現れれば、皆が混乱してさらにパニックになってしまう恐れがある。そのため、少し待つことにしたのだ。


「えっ……?」


 一同は目を丸くする。それから僕の分身を見る。僕の分身は砂状の粒子となって消えていく。


「これは……分身?」


 彼は冷やした頭で冷静に思考する。やればできるじゃないか。僕は最初から彼の事を出来損ないなどと思っていない。誰だって彼を見れば、その体から出る尋常ではない魔力の量に驚く。クラスメイトが彼に近付けなかったのには、それもあるのだ。彼を煽る為に嘘をついたまでだ。


「そうだよ。君の症状を回復させる為にはこれが一番だと思ったからね。煽ったりしてごめん。」


「い、いや、僕の方こそ自分の感情に流されてこんなことをしてしまったんだ……。本当だったら分身ではなく、本物の体を傷付けていたかもしれない。みんな、すまない。」


 彼は皆に向かって頭を下げた。


「別に良いってことよ! お互い様じゃないか!」


「どうして君が言うのかい?」


 僕は愉快な仲間たちのリーダー格の男子生徒に問い掛ける。それも満面の笑みで。男子生徒は冷や汗を流し始める。そして後退り。ほう、分かっているじゃないか。


「さて、気を取り直して。僕はロムス。君は?」


「僕はヨルクス。よろしく、ロムス。」


「ああ、よろしく。」


 僕達を手を取り合った。

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