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5 - 3.『Escape』

5-3.『逃走』


本日二回目の投稿です

 僕達は宿屋を目指して歩いていた。服屋が並んでいた大通りほどの活気はなくなっている。帝都は帝が住む宮殿は東部にある。宿屋などが並ぶのは北部で、この辺りは住宅地がないため、あまり人通りが多くない。


「ふくろうの宿って言ってたよね。」

「うん、多分これだろうね。」


 ふくろうの看板に〈ふくろうの宿〉と書かれている。店員さんがお勧めしただけあって、雰囲気はとても良さそうだ。


「すみません。」

「はい、滞在ですか?」

「滞在です。期間は一週間でお願いします。」

「分かりました。部屋は二階の一番手前です。」

「あれ、料金は?」

「料金は後払いですよ。」

「それは革新的ですね。」

「帝都は初めてですか? 帝都はかなり法体制が整っていて、店側も安心して後払いにできるんです。」

「そうなんですか……帝国は進んでいますね。」

「はい。盟国との戦争も帝国が勝つと予測されているので、騎士団には期待しています。」

「そうですね。」


 話半分だが、その辺りで切り上げて部屋へ向かうことにした。


「この部屋だね。」


 僕とヨルクスは特に気にしていないので同部屋だ。というか話し合うためにいちいち部屋を行き来するのが大変だと考えたからだ。


「部屋もとても綺麗だね。」

「ああ。本当に聞いて良かった。だけど失敗したね。」

「多分ね……。法体制が整っているみたいだから。」

「ごめん。演説が禁止なんだ。戦争に関係しているかもしれない入国者は危ないな。」

「いや大丈夫だよ。僕達はどうせそんな長い期間ここには居ない。それよりももう行動を始める?」

「そうだね、早い方が良さそうだ。」


 僕達は部屋を出ようとする。


「……駄目だな。」

「これ出たら捕まるね。」

「盗聴はされてないみたいだね。出たところを抑えるつもりか。」


 知らない通信網が普及しているようだ。騎士団が部屋の外に待機する時間などいつあったのだろうか。


「あの服屋が……。」

「いやそれも可能性としてはあるけど、結局宿屋止まる時点で駄目だったんだ。」

「順番が悪かったね。」

「今は逃げよう。姿は多分知られている。だから姿を変えよう。」

「……? どうやって?」

「ヘレナが使ってた認識阻害魔法だ。外から逃げるんだけど、皆の視線を一瞬だけ逸らさせる。それから僕達に対して認識阻害を起こす。」

「ロムス頼むね。」

「うん。行こう。」


 窓を開く。認識阻害をする。意識が逸れた。その瞬間、僕とヨルクスは飛び降りる。同時に認識阻害を解除、別の認識阻害を発動。僕達は帝都の住民に見える。


「走らないで。魔道士が居る可能性があるから。とりあえず広場に戻ろう。」


 あくまでも何も知らない住民を気取るためにゆっくりとしたペースで歩いた。時折、雑談をしてみたりする。かなり距離が離れて、部屋の窓が開いていることに気付いたようだ。騎士団が散らばり始める。


「住民の中に紛れ込もう。それから路地裏に移動する。そこでやり過ごそう。」

「分かった。どこから路地裏に入れるかな。」

「なるべく路地裏に入るところは見られないほうが良い。それも騎士団の目につけられそうだ。」

「あそこなら行けそう。」

「確かに。行こう。」


 ヨルクスが見つけた路地裏の入り口へ向かう。広場に騎士団がかなり集まっているのが見えた。これは大変だ。路地裏も捜索されるのは時間の問題か。


「早めに空間魔法の魔道士見つけないと。」

「本当にどこに居るのか。」

「居たぞ!」

「……!?」


 振り返る。騎士が数人居た。もう路地裏を調べ始めたのか。速すぎる。どこかからか見られているとしか思えない。僕はすぐに周囲を見る。


「カラス……!」

「カラス? ああ、あれだね。【氷礫】!」


 ヨルクスがカラスを打ち抜く。魔力となって霧散した。つまりあのカラスは魔法で作られたカラスという事だ。予想は当たっていた。騎士が近づいている。


「騎士とは別の勢力のカラスみたいだな。とりあえず騎士を近付けさせないようにしよう。【物理障壁】!」


 僕達と騎士の間に物理障壁を張って、行方を阻む。これで時間を稼げる。この間に路地裏の奥へ走る。途中に浮浪者がいるが、帝都には居ないようだ。恐らく浮浪者も捕らえられているのだろう。時間稼ぎになると思ったが、無理のようだ。運が悪いことに一本道。


「これだと路地裏を抜けた先で待ち伏せされている可能性がある。飛ぼう。」

「屋根越しに行くってことだね。【跳躍】」

「そういうこと。【跳躍】」


 ヨルクスが先に飛び上がり、その後に僕も飛ぶ。騎士が何かを叫ぶ声が聞こえるが、聞けばその隙に捕まえるのだ。わざわざ隙を見せる意味はない。


「おっと、どうしてこんなに先回りされるのかな。」


 屋根を走っていると、前から迫ってくる騎士が居た。


「騎士に手を出すと、もう帝都に来れなくなりそうなんだよね。」

「入国禁止は嫌だね。どうしようか。」

「幻覚ぐらいだったら許されるかな。」

「それも攻撃って見なされない?」

「そうだな……。ヨルクス。提案だけど、1回帝都を出ないか?」

「賛成。ついでに騎士達に見えるように逃げない?」

「世紀の脱出劇か、いいね。してみよう。」


 僕達は屋根から広場へと飛び降りた。

次回更新は17:00予定です。


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7/1より新作『不滅の王と短命の少女』連載開始。

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