2 - 1.『Duel』
2-1.『決闘』
第二章『結束編』始まります。
「お前、そんなこと本当に言っているのか?」
リーダー格の男子生徒が言う。信じられないという表情をしている。だが、僕は否定しない。自分の思いに嘘はつかない。
「ああ。すぐにこんなクラス抜け出してやるさ。」
縛られた男子生徒達は互いに囁きあう。
「本当に出来ると思ってるのか?」
「ありえないだろ。不可能だ。……昇格戦の条件知ってるのか?」
この魔道学院の昇格戦は昇級条件がとても厳しい。上のクラスの生徒に10人以上で勝利しなければならない。つまり上のクラスの全生徒ということだ。簡単なことではない。
「知ってるよ。だから僕の邪魔をしないでくれ。」
僕はクラスの中を見回す。最底辺のクラスの僕を除く9人。ここに縛られた5人とそのリーダー格の1人。後は……?
「他の3人はどうした?」
「どうして俺に聞くんだ。勝手に探せよ。」
「君なら知っていそうだったからね。」
「まあ、知ってるけどな。教える義理はないね。」
「それは煽ってるの?」
少し縛る縄を強める。と言っても元からそんなに強くしていないから、少し痛む程度である。リーダー格の男子生徒は呻く。
「分かった! 分かったから、緩めてくれ!」
僕は縄を緩める。安堵した顔をしてリーダー格の男子生徒は説明をする。
「仕方ないな……。1人はクラスの端にいる。ほら、そこだ。」
指さす先を見ると、机の陰に隠れて見えなかったが、確かに1人いた。男子生徒だ。何やらブツブツと呟いている。
「アハハハハハハハハハハハハハ……」
ずっと笑っていた。何かあったのだろうか。取り敢えず触れないことにする。
「他の2人は?」
「さっきどこかに行った。すぐに戻ってくるんじゃねえか?」
クラスの扉を開く音がする。僕はそちらを向く。気の弱そうな女子生徒と、逆に気の強そうな女子生徒がいた。2人の顔はそっくりだった。
「双子?」
「んー? 君はだれー?」
「僕はロムス。」
「私はリーラ。この子はシーナ。」
「よ、よろしくお願いします……」
2人の顔は見事にそっくりで見分けがつかない。せめても性格が違うのが幸いと言ったところだろうか。
「うん、よろしく。これで全員か。で、クラスの隅で縮こまっている彼をどうするべきか……。」
「放っておけばいいんじゃないー?」
リーラは陽気そうに言う。だが、僕としても自分の勉強しているクラスで、常に笑い続けているクラスメイトがいるのはやりづらい。どうにかして笑いを止められないものか。
「えーっと……どうして笑ってるの?」
当たり障りのないように極めて明るく尋ねてみる。彼は僕を見る。
「ん、なに?」
しばらくするとまた顔を下げ、笑い始めた。
「ほらねー、やっぱり放っておけばいいんだよー」
「アハハハハハハハハハ……僕はバカだ僕はバカだ……アハハハハハ……」
耳を澄まして聞いてみると、笑い声の途中に言葉が混じっているのが聞こえる。どうやら自分自身を非難しているようだ。受験で失敗したのだろうか。
「君も受験で失敗したの?」
再び彼は顔を上げる。僕と目が合う。今度は先程よりも目が合う時間が長かった。
「……君には関係ないよ。」
ギリギリ聞き取れる範囲の小さな声で彼は言った。
「いや、君は誰かにその悩みを打ち明けたいはずだ。そうでないとこんな人の目がつく場所で、わざとらしく自分に浸っているはずがない。」
わざと僕は彼を焚き付けた。やり方は間違っていると知っているけど、僕にはこれが一番効果的だと思ったのだ。案の定、彼の手が少し反応する。
「……君には関係ない。」
「関係あるよ。関係ないって言うなら、今すぐ愚痴を言うのを辞めるべきだ。君は誰かに相手にされて欲しいから、そういう事をしている。」
「黙れ……黙れ……黙れ」
最後のひと押しだろう。僕はかつて僕自身に言われた言葉を彼に投げつける。
「君は出来損ないの恥さらしだ。」
「黙れぇぇ!!」
突如立ち上がる。僕は慌てずに後ろへ飛ぶ。僕が先程までいた場所を、氷の礫が襲った。大きな礫だ。当たれば僕は重傷だろう。それにクラスを破壊しない程度にしないといけない。
「【茨の森】」
覆うように茨の森が彼の体にまとわりつき、さらに僕の体を守るように前に聳える。緑魔法生命系統の魔法だ。植物魔法はバリエーションが豊富で使い易い。
「上位魔法!? 魔道学院に入学したばかりの生徒が使える魔法じゃないぞ!」
リーダー格の男子生徒は意外と知識が豊富なようである。確かにこの魔法は〈龍の紋章〉が無ければ、絶対に使えなかった魔法だろう。僕の能力は進化してゆく。
「どうしたの? 君の怒りはそんなもの?」
「うるさい!【氷刃】!!」
鋭利な氷の刃が茨を切り裂きながら僕に近付いてくる。だが、そんな程度では【茨の森】は壊せない。僕は茨で守りを固める。
「いくら鋭利な刃でも、いつかは刃が脆くなる。」
「【氷刃】!【氷刃】!【氷刃】!」
魔法三連撃。かなりの使い手のようだ。負けじと【茨の森】を生成する。絡めこんで動きを封じる。
「【氷瀑】っ!」
「それはダメだ!」
既に遅い。青魔法氷系統の魔法【氷瀑】。【茨の森】と同じく上位魔法。自分を中心として周囲に氷の礫を360度全方向に発射するのだ。これを近くで喰らえば命すら危うい。
「くっ……【縛鎖】!!」
幾重もの鎖で、氷の礫を覆う。破壊される上から鎖。ギリギリ間に合っているが、少しでも気が逸れれば全て水の泡だ。束縛魔法も上位となれば、魔法すらも封じる。だが、相手が悪い。
「このままだったら耐え切れない。あれを使うか……」
無意識のうちに僕の左手は、右の手の平の〈龍の紋章〉に触れていた。
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