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7.埴

「はにくんはどんな本が好きなの?」


 お互い何も知らないままに、共に時間を過ごすということは無謀だと。

 きっと少しずつ少しずつ相手を知ろうとしてしまうんだ。


「俺は……村守春貴ですかね」


 好きな作家を言うのはなんとなく気恥ずかしい。


 僕たち二人は本屋大賞特設の棚に本を並べているところで、あなたがそういう話題を出すのはごく自然な流れだった。


「村守春貴かぁ、いいよね、だいたい孤独で」

「だいたい孤独っ」


 言い方にちょっと笑ってしまった。


「だってそうでしょ」


 あなたもつられて笑った。


「主人公も出てくる他の人もだいたい孤独で、いいよね」


 一応褒めているらしい。


「まあでも、小説なんてだいだいそんなもんか」


 小説なんて。呟くように付け加えた言葉のせいで、書店員としてのエプロンの臙脂(えんじ)色が重みを失ったように思えた。まるで偽物を纏っているかのようだ。


 僕は一呼吸置いて。


「遠野さんはどんな本が好きなんですか?」


 あなたはちょっと考えた後にこう言った。


「忘れちゃったな。昔は好きだったんだけど」


 昔。それはあの図書館にいた頃だろうか。


「本……っていうか、図書館が好きだった」


 図書館。

 僕がその単語に気を取られたと同時に、あの上目使いが僕の瞳に強く飛び込む。

 それはまるで、何かを訴えているかのように。


 僕があなたの考えていることを、正確に読み取ってあげられるなら。

 十年前のように、もう僕の視界からいなくなることはないのだろうか。




 僕らは何もたいした時間は積み上げていない。

 ただただ、言葉を交わし、本を並べ、隣に並び、時に不思議と視線を合わせる時間を過ごしていただけだ。


 それが僕にとっては、どれも大切な時間なだけで。


 許してもらえるなら、続く限り続いて欲しかった。

 そう、続く限り。


 でも僕はある程度大人になってしまって。

 その中身が何であれ、「現状」というものを維持することがどれほど難しいか、そもそも維持なんてできないということに薄々気づいている。


 僕にとっての「現状」に、突然の激しい雨が降り注ぐ。

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