95 純情ト欲望ノ獣
「…それで、なんでお前はこんなところに居るんだ?」
「愚問だな。我が贄となるものを探して―」
「いや、それはさっきも聞いたから分かってる。俺が聞きたいのは、なんでこんな人気の無い所で襲ってるんだ?って事だ。多分だが、お前はサキュバスだろ?それなら、町に行って男の一人でも襲った方が早くないか?」
「んなっ!そ、それは…」
少女が困ったように焦りだす。
実際、こんな場所に人が入り乱れるとは到底思えない。精々冒険者が通るくらいだろう。サキュバスは精を取り込む種であるため、異性を襲うのは日常茶飯事である。町によっては、サキュバスが営む風俗もあるとか。ちなみに俺達が向かっている都市には無い。
「よ、よくぞ見破ったな!確かに、我はサキュバスである!だ、だが…我は闇の覇者!簡単に腰を振るような弱者ではない!そ、そもそも、そう言うことは、わ、我はまだ…」
「「「「「あぁー」」」」」
段々と顔を赤くする少女を見て、メリア達女性陣が納得したように頷く。俺も何となくではあるが、少女が言おうとしていることが分かった。様は、
―運命の人が見つかるまでは、純血を貫いていたい。
ということだろう。なんて乙女チックなサキュバスだ。他にサキュバスと出会っていないため詳しくは知らないが、恐らくこんな考えを持っているサキュバスは他に居ないだろう。
そもそも、普通のサキュバスなら、すでに俺を襲っているハ…ズ…
―なぜ、襲ってこない?
サキュバスは精を取り込む種族。その方法としては、自らが異性を襲い、精を搾り取るのが最も効率的であり、簡単な方法のハズだ。
だが、こいつは少し違う。自分が本当に好きになった相手に初めてをあげたい、と言うようなサキュバスだ。それに、この反応からして、誰も襲った様子はない。
なら、あの冒険者達はなぜ解散した?
あの冒険者達が恋人だったと仮定して、少女に彼氏が襲われるのを目撃してしまい、悲しみと怒りが溢れ、別れと共にパーティーを解散した、と言うなら話は早かっただろう。
だが、あの冒険者達は恋人ではなく、ただパーティーを組んでいるだけの冒険者だった。だったら、男が襲われようが女冒険者は特別な感情が沸くことは無いし、深い悲しみを植え付けられる事も無い。それに、少女が男が襲ってない以上、その線も消える。
ではなぜ、女冒険者は深い悲しみを植え付けられた?
「えぇい!そんなことはどうでもいいだろう!これから贄となる貴様らにとっては!」
少女が顔を上げる。少女の瞳が、赤い光を放ち始める。
そこで、俺はようやく理解した。
こいつはサキュバス。精を取り込まなければいけない種族。だが、本人は襲うつもりが無い。ならば、どうやって搾り取るのか。
答えは簡単―
男に、他の女を襲わせればいい。
「さぁ!我が力の前に屈するがいい!」
「待っ―――」
全員が動くより早く、赤い光が俺達を包み込む。何も見えず、完全に視界を奪われる。
時間にしておよそ十秒。赤い光が止み、辺りは元の景色を取り戻す。
俺は、恐る恐る眼を開く。
―意識は、ちゃんとある。自分の意思で、体も動かせる。
その事を即座に理解した俺は、素早く天華を抜刀する。
「なっ!?」
少女も、俺が意識を保っている事に驚きを露にする。やはり、先の光は洗脳の類いのスキルか、サキュバス特有のスキルでも使ったのだろう。なぜ俺に効果が及ばなかったのかは不明だが、これはチャンスだ。
俺は天華を裏返し、峰打ちの体勢を取る。そして、すぐさま少女を捕らえようと動こうとする。しかし―
「「っ!?」」
そこで、俺も少女も予期せぬ事が起きた。
俺の仲間達…つまり、メリア達が俺を取り囲むようにして立ち塞がったのだ。そして、メリア達の顔を見て、俺は色んな意味でゾッとした。
全員、あり得ない程の高揚を露にして、俺をジッと見つめていたのだ。目には光が無く、うっすらとハートマークのようなものが映っている。そして、ゆっくりと俺に近づいてくる。
まるで、一匹の獲物を狙う、獣の群れのように。
「お、思っていたのとは違うが、まぁ良いか…聞くがいい!今宵の贄よ!」
少女が叫び、その声に反応してなのか、全員の動きが止まる。
「今その者達は我が力に屈服した!己が秘めたる欲望を解放し、本能のままに動く獣となった!もはや、我の為に精を集める傀儡と成り果てたのだ!」
「っ、お前…!」
「だが、我は偉大なる闇の覇者、災厄なる悪夢…貴様にチャンスをくれてやろう。」
「チャンス…だと?」
「我と遊戯をしようではないか。ルールは簡単。今から一時間、この者達から貴様が逃げる。一時間逃げ切れれば貴様の勝ち。勝てばこの者達を解放してやろう。ただし!誰か一人にでも屈服すれば貴様の負け!その時点でこの者達は貴様を襲い、精を絞り尽くすかの如く貴様を貪り続ける!勿論、女どもの避妊くらいはしておいてやるがな?」
…なんて悪趣味なゲームだ。こんなの、どう考えても向こうが失う物が少なすぎる。それと同時に、一つの謎が解決した。
あの冒険者達は、この勝負を強制的にやらされた。恐らく男の方が操られ、女冒険者を襲ったのだろう。その為、操られている間男の記憶は無く、襲われた女冒険者は記憶が残っていた。初めてをこんな形で失い、心に深い傷を負い、引きこもってしまった。
それが、あの冒険者達に起きた災難だったのだ。
それを、今度は俺の大切な仲間達でやろうというのか…!
「欲望に飲まれて全てを失うか!それとも、誘惑に打ち勝ち、仲間との絆を取り戻すか!」
少女が笑い、そして、その幕が切って落とされる。
「さぁ始めよう…!全てを賭けた欲望の遊戯、「欲情の凶宴」を!」
サキュバスの登場により、今後エロ描写が増えていきます。直接的には書きませんが、そういった描写が増えるということをお伝えしておきます。




