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92 魅惑の海で その3

「ケインさま、つれてきたよ…って、どしたの?」

「いいえ、なんでもありません。」

「そう?」



 明らかに変な空気になっていることに首を傾げるイブ。見られていなくて本当に良かったと思う。

 そのイブの後ろから、メリアとレイラ、ガルシュリナがやって来る。


 イブとメリアはそれぞれフリルをあしらった水着を着ている。イブはスカート付きで可愛らしく、メリアは足を隠すような水着だ。手の方のガントレットは防水性があるため、つけたままにしている。

 ガルシュリナはワンピースのような水着だ。華美ではないシンプルなデザインで、小柄な彼女にはピッタリな水着だろう。


 先の四人と違い、こちらは可愛らしさが全面に出ている水着を選んでいる。メリア達の水着を全て選んだのがレイラだと言うことが、俺は驚きだった。等の本人はゴーストなので水着を着ることは出来ず、普段通りの格好なのだが、楽しんでいるようで何よりだ。

 と、そんな感想を思っているうちに、肉達が焼けてきた。辺りに美味しそうで、香ばしい匂いが広がる。



「…そろそろ良いかな。」

「食べて、いい…?」

「おう。」

「「いっただっきまーす!」」



 待ってましたと言わんばかりにイブとガルシュリナが網の上の肉を取り、口に頬張る。その姿を見て、ナヴィ達も次々と肉や魚を取っていく。さっきまでメリアの鞄の中で眠っていたコダマも、いつの間にかやって来て、イブに魚を取ってもらってた。

 皆、元気そうで何よりだ。



「…なぁ、オレ達いつまでこの状態な…」

「黙れ変態」

「「あっ、ハイ…」」



 土に埋められた二人に、ナヴィがキツい一言を浴びせる。

 …後で掘り起こしてやるから、反省しとけ。


 あっ、コダマが砂かけた。



 *



「…ぷはぁ♪やっぱり海は最高ですわ!」



 海の中から、人魚本来の姿に戻ったウィルが飛沫を上げて飛び出してくる。日の光が水に反射し、ウィルから目が離せなくなるほど輝いて見える。

 昼食の後、眠ってしまったイブをセーラに任せ、俺も海で遊ぶことにした。広大な海は初めてだったが、いざ潜ってみると普段目にかかれない幻想的な光景が見られた。

 それに拍車をかけるようにしていたのがウィルだ。元々人魚族は海と密接になって暮らしている種族。そのため、海の中で優々と泳ぐウィルの姿はとても美しく、思わず見とれてしまったのは言うまでもない。


 俺やウィルは沖の方まで来ているが、他の皆は海岸の方で遊んでいる。こちらもこちらで、とても絵になる。

 ちなみにビードとギルは少し離れたところで釣りをしている。残念ながら、反省しているように見えて反省してなさそうなのだが。


 そんな楽しい一日はいつの間にか過ぎていき、宿に戻るときにはすっかり日も落ちていた。



「はぁー、泳ぎましたわ♪」

「…楽し、かった。」

「まぁ、リフレッシュはできたわね。」



 皆なんだかんだで楽しめたようだ。それは、皆の顔を見れば分かる。銀獣の面々も同じ気持ちのようだ。

 町に着き、ビード達と別れた後、俺達は少し高めの食事処で夜食を食べた後、宿に戻った。皆遊び疲れたのか何時もより早く、そして深く眠りについた。


 そんな中俺は一人、テドラの夜景を見ながら考え事をしていた。それは、町で囁かれていた噂であり、俺達にとっては無視できない事だった。


 ―デュートライゼルが、何者かによって滅ぼされた。


 やはり一ヶ月近く立っていれば、見つかるのは必然だろう。どうやらすでに町には関係者しか入れないようにし、外へ情報を漏らすことも禁じているようだが、噂と言うものは広がる速度がとてつもなく早い。恐らく、この一ヶ月近くで真偽はともかく、かなりの速度で広まっていると見て間違いない。

 そのため、俺は今後どう動くかを考えなくてはいけなかった。なにせ、滅ぼしたのは俺達―正確には、メリアなのだから。


 等の本人は、珍しくグッスリと寝ている。メリアの寝顔を覗くが、本当に世界を滅ぼす存在なのか疑うほどだ。だが、一度バレればメリアは世界の敵になる。そうなれば、俺達も当然狙われるだろう。

 だからこそ、よく考えなくてはいけないのだ。


 俺達が笑って過ごせる未来を、しっかりと掴む為に。



 *



「おひさしぶりです。モーゼおじさま。」

「おぉっ、イブ!元気そうで何よりだ…!」



 翌日、俺は皆を連れて冒険者ギルドに足を運んでいた。イブと会わせて欲しいという、モーゼの願いを叶えるためだ。

 モーゼは、明るくなったイブに少し驚いたが、すぐに喜びをあらわにしていた。



「…もう行くんだな。」

「はい。」

「それで、どこへ向かうんだい?」

「デッドラインに戻ることも考えましたが…俺達は、この大陸を回ることにしました。」



 それが、俺の出した答えだ。

 確かに、デッドラインに戻り、その先の大陸を目指すことも考えた。だが、それは自分達が抱えている問題から逃げる事だと俺は判断した。なので、真正面から向き合うために、この大陸を旅することにしたのだ。

 そして、この大陸に留まるのにはもう一つ理由がある。それは情報だ。


 この大陸に関して、俺は自分の居た場所の事しか殆ど把握できていない。このテドラでさえ、俺の知らない情報があった程だ。それならば、この大陸の何処かに、メリアの呪いに関する何かが見つかるのではないか、と考えたのだ。

 勿論、簡単に見つかるとは思っていないし、この大陸に留まるのは危険性もある。それでも、前に進むためには必要なことだと判断したのだ。

 その後、モーゼと軽い会話を済ませ、俺達はギルドを後にした。



「ケイン、まずは何処をめざすの?」

「それなんだが…一度、戻ろうと思っているんだ。俺が一人の冒険者として、生きていた場所に。」



 俺がここを旅すると決めた時、最初に向かおうと思った場所があった。


 冒険都市サンジェルト


それこそ、俺の冒険者としての原点であり、俺がこれまで都市と呼んでいた場所である。

 久しぶりに都市の様子を見たいという思いもあったのだが、それ以上に、そこに向かわなければならない、という胸騒ぎを感じたのだ。

 なぜ胸騒ぎを感じたのか。それを知るべく、俺達はテドラを後にした。







 *







「今日限りで貴方とのパーティーは解散よ!」

「待ってくれ!あれは…!」

「うるさい!私の…私の…!うわぁぁぁぁん!!」



 ケイン達が目指すサンジェルトの道中から少し離れた町にある冒険者ギルド。そこで、冒険者パーティーがまた一つ、解散することとなった。不可解なのは、解散を言い渡すのは女性が居るパーティーのみであるという事。

 先程までパーティーだった彼女の、逃げるように離れていく背を見て、男は苦虫を噛むような顔をした。



「クソッ…!どうしてこうなった…!」



 男は、彼女に恋心を抱いていた。だが、彼女には別に好きな人が居ることも知っていた。だからこそ、思いを伝えられずにいた。


 それが、あんなことになるとは思っていなかった。



「『災厄なる悪夢(カラミティナイトメア)』…お前は、俺に何をさせたってんだ…!」



 男が呟いたその一言は、誰の耳に届くこともなく、周囲の音に書き消されていった。

短いですが、これにて八章完結。

次回からは第九章となります。

お楽しみに。

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