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90 魅惑の海で その1

新章開幕!

季節外れですが、海でのお話です。

「…なぁ、ビード。」

「…なんだ?」

「オレ、生きてて良かった…!」

「奇遇だな。オレもそう思っていた…!」


「…主様(マスター)。この二人、始末しても?」

「…気持ちは分かるが、ダメだからな?」



 俺の隣で騒ぐ二人―ビードとギルの自重のない会話に怒りを覚えたユアを、俺が押さえる。

 ユアが今すぐ始末したい衝動を押さえるが、多分後で爆発する。二人には悪いが、俺では完全には止められないのだ…頑張れ。

 …まぁ、二人が暴走する気持ちがわからなくもない。



「そぉれっ!」

「みぎゃっ!?」

「イブ!?くっ…やりましたわね!」

「ふふっ、やりましたね!」

「えぇ。ほら、次はそちらの番ですよ?」

「ぐぬぅ…イブ、立てますの?」

「だ、だいじょーぶ!」



 俺達から少し離れた位置で、イブとウィルペア、ナヴィとセーラペアでビーチバレーなるものをしていた。

 彼女達が動くたび、大きなものが揺れ動く様は、男なら一度は見たい光景だろう。なにせ、彼女らの今の格好は、水着なのだから。

 イブは三人よりなにもかも小さいものの、フリルがあしらわれた可愛らしい水着がとても良く似合っている。


 今俺達は、テドラから少し離れた場所にある砂浜に来ていた。

 なぜ、こんな場所に来ているのか。それは、昨日の夜に遡る―




 *




「海に行きたいですわ!」

「いきなり何を言い出すんだ?」

「私、人魚ですわよ?たまにはゆったり泳ぎたいのですわ!」



 ガテツと別れてから約三日後の夜、俺達はテドラにある宿に居た。テドラについたのが夕暮れ時だったため、手紙の件を後回しにしてこの宿を取ったのだ。

 そして、部屋割りを相談していた時に、急にウィルが海へ行きたいと叫びだしたのだ。



「…まぁ、これから泳げる機会は少なくなるし、そう思うのも分かるが…」

「ですわよね!じゃあ、明日にでも行きますわよ!」

「まてまて!?まだ俺は―」

「イブもうみいきたいです!」

「そうね、たまにはいいんじゃないかしら。」



 待ったをかけようとした俺だが、仲間達は海で遊ぶことに賛成らしく、すでに話を始めてしまった。こうなってしまっては、もう何を言っても無駄だろう。



主様(マスター)、たまには皆さんの好きにさせてあげては?」

「…まぁ、こうなったら止めようとも思わないさ…」



 ユアが俺の肩に手を置き、慰めようとする。俺はとくに払おうともせず、そのまま暫くメリア達を眺めていた。

 ちなみにユアの俺の呼び方が「主様(マスター)」なのはユア曰く、


「これから貴方の元で活動する以上、上下関係だけはハッキリつけなければならないので。」


 との事だった。

 俺は「気にしないから今まで通りで良い」と伝えたのだが、ユアが断固として拒否したため、ユアの好きに呼ばせる事にしたのだ。


 結局、冒険者ギルドへ向かった後、そのまま海へ行くことになった。

 俺が冒険者ギルドへ手紙を渡すと同時に遊べる場所の聞き込みをし、その間にメリア達は水着を探すようだ。前に来た時に水着があるのは確認しているようなので、自分に似合う水着を探すのが目的のようだ。

 …まぁ、人の目が無かったとはいえ、前みたいにすっ裸になるよりマシだが…


 というわけで、一人でテドラの冒険者ギルドへとやって来た。相変わらず賑やかで、活気のいい場所だ。

 俺が中に入ると、たまたま一人の冒険者と目があった。それは俺のよく知る人物であり、会いたかった人物でもある、ビードだった。



「あれ、ケインじゃないか!?」

「よう、久しぶりだな。」



 俺を見つけるが否や、俺の元へかけてくるビード。どうやらお目にかかる依頼が無く、帰ろうとしていた所だったようだ。

 最後に別れたのが一ヶ月だが、その時より羽織が良くなっているように見える。



「ケイン、いつこっちに戻ってきたんだ?」

「昨日の夕方だな。顔を出そうとも思ったんだが、夜に出歩くのは色々と危険だしな。」

「なるほどな…っと、さすがにここは邪魔になるか。話は奥の方でしよう。」

「話すことならたくさんあるぞ。だが悪い。今日は生憎予定があってな、ここに来たのもその一つなんだ。」

「そうか…悪いな、呼び止めて。」

「構わないさ。どのみち少し時間はあるんだ。その時話そう。んじゃ、行ってくる。」



 その場を後にし、受付の方へと向かう。

 積もる話はあるが、メリア達を待たせたら何と言われるか想像できない。ここは大人しく用事を済ませる事にしよう。

 偶然なのか、受付に居たのは最初にここに来たときに担当した、あのそそっかしい少女だった。



「こんにちは!どのようなご用件で?」

「特例依頼の受理をお願いしたい。これが証書だ。」

「特例依頼!?わ、分かりました。ギルド長に渡して来ます。少々お待ちください。」



 手紙を受け取った少女が、駆け足でギルド長室へと向かっていく。

 特例依頼とは、緊急時に直接冒険者に依頼し、後で報酬を払う仕組みの事だ。依頼達成の証書を受け取り、冒険者ギルドで受理してもらう事で、初めて依頼として達成したと判定されるのだ。

 モンスターの大量発生や、災害時の対処などの際にも適応されるのだが、滅多に無いため知っている冒険者はごく僅かである。


 手紙を渡したので、処理が終わるまでの間、ビードと話をした。

 まず、ビード達は無事にCランク冒険者に上がれたようだ。俺達も倒した事のあるロッドグリズリーの討伐が昇格試験だったようで、途中でアクシデントが起きたものの、なんとか倒すことができたようだ。

 俺の番となり、何を話そうか考えようとした時、バタバタと急ぎ足で降りてくる足音が聞こえてきた。そちらの方を振り向くと、やはり俺が手紙を渡した受付嬢だった。

 受付嬢がギルド内を見渡し、俺の事を確認すると、再び急ぎ足で俺の元まで駆けてきた。



「はぁ…はぁ…はぁ…」

「だ、大丈夫か…?」

「はぁ…だ、大丈夫…です。それより…!」

「とりあえず落ち着け。深呼吸して、息を整えてからでも遅くないから。」



 そそっかしい性格は変わらないらしく、俺が言わなければ途中で倒れていたかもしれないほど息を荒げていた。

 なんとか落ち着いたようで、少し顔を赤くして話始めた。



「…先程はすみませんでした。急ごうとしたばっかりに…」

「まぁ、問題ないよ。それで、用件は?」

「はい。「今すぐケインを連れてこい!」とのことでした。」

「…まぁ、そうだよな…」

「なんだ?あの手紙、相当な事が書いてあったのか?」

「そうだな…ギルド長にとっては、かなり大事な事だ。」

「…あ、ビード様も一緒に来てください。銀獣の誰かも居たらついでに連れてこい、との事でしたので。」

「オレもか?…本当に、なにがあったんだ…?」



 疑問を感じるビードと共に、ギルド長室へと向かう。一ヶ月前、デッドラインで起きた事件について、詳しく話すために。

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