88 別れの朝
「…なぁ、三人とも遅くないか?」
「…そうですわね。」
「まぁ、そう急かすな。じきに来るわい。」
翌朝、荷物を確認した俺が外に出ると、イブとウィル、ユアとガテツの四人だけが揃っていた。
呼びに行こうとしたのだが、ガテツに止められた事もあり、今に至る。
「なぁ、あいつらが遅いのって、昨日の事と関係があるのか?」
「詳しくは言わんが、答えはイエスじゃな。」
つまり、昨日ナヴィとレイラがメリアに何かしたのだろう。
その何かが分からず唸っていると、工房の扉が開き、ナヴィとレイラが現れた。
「ごめん、待たせたわ。」
「遅かったな…ん?メリアは?」
「ほーらー!恥ずかしがらないで!」
「で、でも…その…」
「いいから、ほら!」
「あっ、」
扉に身を隠し、顔だけ出したメリアをナヴィが引っ張り出す。
そして、その格好を見て俺は硬直した。
白を主にしたワンピース風のシャツに、淡い青色のミニスカート。
それは、ナヴィとレイラがデッドラインでメリアの為に買ったものだ。
それも勿論目に入るのだが、一番目立つのはメリアの腕についている物だ。
これまで、メリアは服が見えないほどの長いコートを羽織っていた。
その理由は、腕や足についている鱗を見られたくないから。
足に関しては動きやすさと長さを両立しているブーツを履いている為問題はない。
ただ、腕の方は包帯を巻き付けているだけで、いつ外れるか分からないからなるべく見られないようにしたい、というメリアの思いがあった。
だが、今メリアの腕にはガントレットと呼ばれる物がつけられていた。
派手な装飾は無いが、純白の輝きがメリアをより引き立たせていた。
「どう!?ケイン!」
「かわいいでしょ!?かわいいでしょ!?」
「ちょっ、近い近い近い!」
ナヴィとレイラが俺に感想を求めるように詰め寄ってくる。
当の本人も、俺の答えを待っているようだ。
俺は二人を落ち着かせ、メリアの前まで来る。
「えーっと、その…可愛いぞ。すごく似合ってる。」
「…!あ、ありが、と…」
ただ感想を言っただけなのに、お互いなぜか赤面してしまう。
そこに、イブとウィルが入り込んでくる。
「メリアさま、すっごくかわいいです!」
「ええ、見違えるほど良くなりましたわ。」
イブとウィルがガールズトークを始めたので、俺はガテツ達の元へ行く。
「あのガントレット、あんたが作ってくれたんだろ?」
「あぁ。そこの嬢ちゃん達に頼まれてな。」
*
「腕を隠せる防具?」
「えぇ。メリアの為につくってほしいの。」
「あっ、この服に合うデザインで!」
ケイン達がバデュラスの洞窟に潜っていた時、ナヴィとレイラはガテツに頼み事をしていた。
内容は、メリアの為の防具を作ってほしい、というものだ。
「理由を聞かせて貰えるかの?」
「詳しくは言えないわ。ただ、メリアは腕を見せるのを嫌って長いコートで全身を隠してしまっているの。」
「だから、腕を隠せる防具をつけて貰って、めいいっぱい可愛い格好をしてもらいたいんだ!」
それが二人がガテツに頼んだ理由だった。
二人としても、メリアには可愛い格好をしてほしいと思っていた。
ただ、それにはどうしても腕に付いた鱗という問題がついてきてしまう。
腕も隠せる服を選ぶのも一つの手だが、メリアの強みの一つに、身体能力の高さがある。
それを損なわない為には、破れて鱗を見せてしまう可能性のある服より、頑丈な防具の方が良いと思ったのだ。
「なるほどの…よし、作ってやろう。」
「本当!?」
「ただ、お代は貰うぞ?これはれっきとした依頼じゃからの。」
「問題ないわ。最初から払うつもりで話したんだもの。」
*
「…という感じでの。」
「なるほど…それで、いくらなんだ?」
「軽さに丈夫さ、防水と色々つけたからの。普通なら金貨二十枚って言うところじゃが、少しまけて十八枚でどうじゃ?」
「あぁ、問題ない。」
俺は魔法鞄から金貨十八枚を取り出してガテツに渡す。
「まいど。…にしても、ワシの作った防具一つであそこまで変わるとはなぁ…」
「まぁ、これまで隠すように生活していたからな。さらけ出せるようになった分、余計にそう感じるんじゃないか?」
「…お前さん、あやつの事、良くわかってるんじゃな。」
「出会ってからまだ時間は立ってないが、この中では一番長く一緒にいるからな。」
「なるほどのぅ…」
俺は改めてメリアを見る。
ガントレットをつけ、これまであまり見せてこなかった姿を嬉しそうに見せている。
それは、俺にとってもうれしい事だった。
*
「さて、そろそろ行くか。」
「もう行くのですか?」
「あぁ。時間もいい頃合いだしな。皆を呼んでくる。」
少し脱線してしまったが、そろそろ時間だろう。
俺は全員に挨拶をするから集まれ、と声をかける。
話をしていたイブ達も、すぐに集まってくれた。
そして、皆でガテツの方へ向かった。
「もう、行くんじゃな?」
「あぁ。世話になった。」
「これ、ありがと…」
「あぁ。大事にしとくれ。」
俺はユアの方を見る。
いつもどおりの無表情なのだが、やはりどこか寂しげに感じる。
「ユアも元気でな。」
「…はい。皆様もお元気で。」
「その事なんじゃが、少し聞いてくれんか。」
俺とユアが別れの言葉を言った時、ガテツが横入りするように口を挟んできた。
いきなりの事で、俺達もユアも、ガテツの方を向いた。
ガテツは小さく息を吐くと、意を決したような顔つきで話しだす。
「ユア。お前さんを、今この瞬間をもって解雇とする!」




