87 新たな力 その2
今回はちょっと短めです。
「これは…!?」
「コイツはお前さんが大切にしていた剣を、ワシが作り変えたんじゃ。お前さんなら天華を手にいれても、持っていくと思ったからの。」
ガテツが新たに取り出したもの。
それは、俺の冒険者として戦ってきた証であり、ずっと大切にしてきた剣であった。
形こそ剣ではなく刀になってはいるが、間違いなく俺の剣であると確信できた。
「天華に合わせて長さと重さは調節しておる。今はまだ難しいかもしれんが、お前さんなら二本同時に扱えるようになるじゃろう。」
「…ありがとう。」
「ハッハッハ、礼を言われるような事でもないわい。ほれ、ソイツにも名前をつけてやれ。」
「もう決めてある。創烈だ。」
コイツは、これまでの俺の歴史そのもの。
死物狂いだった駆け出しの時から今日まで、ずっと大切にしてきた。
これからも、ずっと…
「…さて、一度ワシは寝る。流石に丸一日寝ずに作業していたからの。」
「おつかれさまです。」
「ありがとの。…あぁ、そうじゃ。」
自室に向かっていたガテツが、ナヴィとレイラの方を向く。
「例の物、出来上がっとるぞ。見て確かめてくれい。」
「っ!本当ですか!」
「そうと決まれば!早速ー!」
「えっ、ちょ…」
ナヴィとレイラが、メリアを連れ去って奥の方に消えてしまった。
…何がどうなっているのか分からないが、二人が留守をしている間に、何か頼んだのか?
気にはなるが、今は触れない方が良いと感じたので、俺は外に出る事にした。
*
「これは…とんでもないな…」
俺の目の前には、切り倒された木があった。
切り倒した犯人は俺なのだが、問題はそこではない。
俺は天華と創烈の試し斬りをかねて森に入っていた。
そこで、よさげな木を見つけたので、試しに天華で切ってみたのだ。
木はずるりと斬り倒され、近くに横たわった。
それだけなら普通の剣でもできるのだが、明らかに違う点があった。それは、切り口である。
なんと、一切のざらつきが無かったのだ。
ざらつきが無いということは、一切つっかえることなく切り倒したということになる。
それは、この天華が凄まじい切れ味を誇っているという証明になる。
そして、それは創烈でも同じだった。
「…次は魔力を込めて…〝波斬〟!」
天華に魔力を流して波斬を打ち出す。
その威力は、前より遥かに高くなっているのが目で分かる。
なにせ、目の前の木々が数十という単位で切り倒されたのだから。
天華と創烈には、魔力を伴うスキルを使う際、魔力の流れをより良く、より早くする能力が付与されている。
そのため、これまでより格段に早く、より強力な攻撃を繰り出せるのだ。
また、それとは別に、魔力を消費するかわりに威力を倍増する能力もある。これは、普通の攻撃にも適応される能力のようだ。
…こんな武器を俺が持っても良いのだろうか…
そんな考えが頭をよぎったが、他人に渡すつもりも無いのでありがたく使わせてもらう。
俺は日がくれるまで、天華と創烈を振るい続けていた。
*
「それで、お前たちはいつ出発するんだ?」
「明日の朝だな。長居し続けすぎると、逆に引き際を見失ってしまうしな。」
「なるほど。さすがはBランク冒険者だ。」
「褒められる事じゃない。ただの体験談だ。」
その日の夜、俺はガテツ達にそう伝えた。
昼間のうちに二本の性能は理解できた。
ならば、長居は無用だろう。
「ケイン、次はどこに行くの?」
「一度テドラに戻ろうと思う。期限は無いとはいえ、これをいつまでも放置する訳にもいかないしな。」
「それって、おじさんからもらったてがみ?」
「あぁ。それと、ビード達の合否も気になるしな。」
俺がそう言うと、全員が頷いた。
決まりだ。
俺達は明日ここを出てデッドラインに向い、そこからテドラに戻る。
「………」
俺達が話し合っている時、ガテツは一人の少女を見ていた。
そして、ある決心をするのだった。
そうして、最後の夜が過ぎていく…




