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86 新たな力 その1

「おぉ…本当に持ち帰って来るとは…!」

「まぁ、かなり苦労したけどな…」

「それだけ辛かったの?」

「…まぁ、色々と…な。」



 地上に戻ってきた俺達は、イブとウィルの回復をしたあと、そのままガテツの工房へと帰ってきた。

 俺達が帰ってきた時のレイラの喜びようが今でも目に写る。

 そして、ガテツの怪我は順調に直ってる事を聞いて今に至る。



「さて、早速取りかかりたいのは山々じゃが…」

「まだ安静にした方がいいんだろ?気にしなくてもいいさ。むしろ、無理して下手な物を作られる方が困るからな。」

「…すまんの。人種より治りは早いんじゃがな…歳を取ってしまった今、やはり一週間じゃあ治らんかったわい。」

「…むしろ一週間で治るのか…」

「…さすがに無理じゃぞ?」



 回復(ヒール)は怪我などは治せても、骨折などは治せない。

 実際には治せないことも無いのだが、その場合、治される側の体に大きな負担がかかってしまうのだ。

 なので、こう言う場合は自然回復に頼るのが一番よいのだ。

 と、先から一言も喋っていなかったユアが、覚悟を決めた目をガテツに向けて口を開いた。



「…ガテツ様、少しよろしいですか?」

「どうしたユア?改まって。」

「…ガテツ様にお話しすべき事があります。」

「…ユア。」

「…大丈夫です。どんな事を言われようと、受け入れる覚悟は出来ていますから…」



 そして、ユアは自分の過去を包み隠さず、全て話した。

 自分が暗殺者であること、人を沢山殺めてきたこと、逃げた先でガテツに出会ったこと…

 その全てを聞いたガテツが言い放ったのは、ユアにとって想定外の言葉だった。



「…なるほどのぅ…ユアが暗殺者だったと。それがどうした。」

「…え?」

「少なくともワシが見てきたユアは、何事にも真っ直ぐ取り組む良いエルフじゃったぞ?無表情じゃがの。」

「し、しかし、私は…」

「自分は許されるハズが無いと?なら、殺めた分だけ善行をすればいい。誰かの為に人を傷つけたのなら、その分だけ人を愛せばいい。」

「ガテツ…様…」



 ユアは言葉を失った。

 それだけ、ガテツが言った言葉には重みがあった。


 過去の過ちを認め、前に進め。


 それこそ、ガテツがユアに伝えたかった…

 …あれ?俺も似たような事を言ったような気がするんだが…気のせいか?



 *



 ガテツが完治するまでの間、俺達は森に入っての特訓をしていた。

 他にやることが無かったのもあるが、一番はイブとウィルの特訓の続きを行うのが目的だった。


 そんな生活をして約一ヶ月。待ちに待ったその時が来た。



「…はい。もう大丈夫ですね。」

「おぉ、それでは…!」

「えぇ。もう鍛冶をしても問題ないでしょう。」



 ついに、ガテツの腕が治った。

 人族としてはありえない速度だが、ドワーフであるガテツだからこそこの速度で完治したのだろう。



「それではケイン!早速取りかかるぞ!例の物を!」

「あぁ!」



 俺は魔法鞄からバデュラスの洞窟から持ち帰った刀をガテツに渡す。

 刀を受け取ったガテツは、そのまま吸い込まれるように工房へ入っていった。



「…さて、邪魔するのも悪いし、俺は狩りに行くか。皆はどうする?」

「昨日は休んだし、私も一緒に行くわ。」

「私も行きますわ。」

「私もー!」

「イブはのんびりしたいのでここにいますー」

「じゃあ、私も、ここに…」

「くぅ…」

「あっ…コダマも、ここに居る、って。」

「分かった。それじゃあ行くぞ。」



 そう言って、俺達は別れた。

 それは、この一ヶ月で毎日のように見た光景だ。

 だが、それももうすぐ終わりを迎える。

 武器が完成すれば、俺達はまた旅に出るからだ。



「…」



 そんな俺達を、少し悲しげな雰囲気で見るユアの姿があった。

 まるで、何か心残りがあるかのように。



 *



「ケイン!できたぞい!」

「っ!来たか!」

「あぁ…コイツが、お前さんの新たな武器じゃ。」



 ガテツが工房に籠って丸一日。

 ついに工房の扉が開かれ、中からガテツが現れた。

 そして、俺に鞘に入った一本の刀を差し出した。

 俺はそれを受け取り、刃を抜いた。



「こ、これは…」

「うわぁ…」

「きれい…!」



 バデュラスの洞窟で見たときよりもさらに輝きを増した刀身。

 全く違和感を感じず、けれどもズリシと感じる重さ。

 芸術品と見間違える程の美しさを秘めた刀が、そこにはあった。



「そいつにはまだ名前がない。ケイン、お前さんが決めるんじゃ。」

「俺が?」

「当たり前じゃろう。それは、お前さんの武器なんだからな。」

「名前…か…」



 初めて見たとき、俺はコイツを美しいと感じた。

 芸術がよく分からない俺ですらそう感じてしまうほど、コイツは素晴らしい出来だった。

 そして同時に、これまでこの武器が一度たりとも日の本で振るわれる事なく封印された事に悲しみを覚えた。

 これからは、この広い世界で俺と共に戦ってほしい。だから…



天華(てんか)…コイツの名は、天華だ!」

「天華…良いんじゃない?」

「うーん…もっとカッコよくても良いとおもうけどなー」

「いいんだよ。俺がこう呼びたいんだから。」



 俺は、空に天華を掲げる。

 俺の思いに答えるかのように、天華が輝きを放つ。


 この日、俺は新たな、そして生涯の愛刀となる天華を、手にいれたのだった。



「それとケイン、コイツも渡しておく。」

「!?これは…!」

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