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85 慢心の代償

 僕の立てた作戦は完璧だった。

 アイツらはベラベラと喋ってくれたし、僕の為に道を作ってくれた。

 そして、疲れきった所を労ってやる。

 アイツらも、英雄たる僕の為に働けるのだから本望だろう。

 もし拒んだとしても、疲れきったアイツらなど敵ではない。

 そして、僕が英雄としてその名を歴史に刻むのだ!


 …そのはずだったのに、この状況はなんだ!?


 男が振るった剣が、騎士達の剣をいともたやすく真っ二つにし、その後ろから意味が分からない威力の炎が飛んでくる。

 視線を変えれば、ひっきり無しに飛んでくる水に動きを封じられ、その隙間を縫うように女が意味が分からない速度で一撃を叩き込む。

 術者を狙おうにも、中央で守りに徹した女に全てを阻まれる。


 そして、僕直属の騎士達がものの数分でほぼ壊滅状態まで陥った。

 なぜだ!?なぜアイツらは僕に靡かない!?なぜ僕に従ってくれない!?

 なぜ、あんなに元気なんだ!?


 そんな問答がグルグルと頭を狂わせているうちに、僕の騎士達が全滅した。

 剣を持った男が、僕を睨む。



「ヒィッ!?」



 僕が恐れているだと?英雄たる僕が?

 ありえない…ありえないありえないありえないっ!


 男が、こちらに近づいてくる。

 僕は一歩ずつ後ずさる。



「お、お前!英雄たる僕に逆らってタダで済むと思っているのか!?」

「…はぁ…ハッキリ言って、お前は英雄じゃないし、英雄にもなれない。」

「な、何を言っ」

「戦いを他人に任せて自分はなにもしない。それでいて、危険になっても戦おうとせず、ただ逃げるだけ。そんな奴が英雄だなんて、おかしな話だ。」



 男はやれやれといった感じで肩をすくめる。

 そして、また話し出す。



「大体、強い武器を持ったら英雄になれるだなんておかしいだろ?どれだけ強い武器や防具を持っていても、身につけた本人が弱かったら、それはただの武器でしかない。」

「だ、黙れ黙れ黙れぇぇぇぇ!!!」



 聞くに耐えられなくなった僕は男に斬りかかる。

 大丈夫、身につけた防具は一級品。傷つくなんてありえない!

 そんな思いは、一瞬で打ち砕かれた。



「〝波斬(スラッシュ)〟!」

「がはぁっ!?」



 男が放った一撃が、僕の防具を一撃で粉々に砕く。

 防具のおかげで直撃はしなかったものの、衝撃で後方の壁に叩きつけられる。

 僕は、男の方を見た。

 ただそこに立っているだけなのに、ただ普通の顔をしているだけなのに、その姿が酷く恐ろしかった。



「う、うわぁぁぁぁぁぁ!!!」



 僕は逃げ出した。

 この化け物から逃げるために。



 *



「ふぅ…やっと行ったか…メリア、反応は?」

「…ん、全員、上に行った、みたい。」



 今この場所には、俺とメリア、イブ、ウィル、ユアの五人しか居ない。

 カフトリーは俺の放った波斬(スラッシュ)に怖じ気付いたのかすぐに逃げ出し、甲冑達もその後を追うように逃げていった。

 一応メリアに確認してもらったが、逃げたふりして待ち伏せ、という事はないようだ。



「…にしても、よわかったです。」

「下層のモンスターの方がよっぽど強かったですわ。」

「あの程度、今の私なら一人でも相手できたのですが。」



 各々が彼らの事を言う。

 結果的に言うなら、アイツら…特にカフトリーは弱かった。

 恐らくアイツは武器や防具が強ければ誰にも負けない、英雄になれる、などと思っていたのだろう。

 自ら前に出ようとせず、他人に任せていたのも、負けたくないという意地っ張りな面があったからだろう。

 だからこそ、血反吐を吐くように努力した俺に敵うハズも無かった。



「さて、と…」



 俺達は扉の方へと歩いていく。

 扉は普通の大きさではあるが、硬い鉄のようなもので出来ている。

 俺は、ガテツから預かった鍵を差しこむ。

 すると、扉が光ったと同時、スライドするように開かれた。

 その先にあったのは、飾られるように置かれた一本の刀だった。



「これが、ガテツの言っていた最高の武器…」

「なんと言うか…綺麗ですわね…」

「綺麗すぎて、なんか怖い…?」

「とにかく、これを持ち帰るぞ…っ!?」


 俺はその刀を手に取った。

 その瞬間、俺は何かに語られたような感じがした。


「…どうしたの?」

「…いや、何でもない。…帰ろう、皆の元に。」



 俺達は刀を魔法鞄にしまうと、地上へ向かって来た道を戻りだした。

 帰りは俺の地図作成(マッピング)と、ユアの気配遮断を使い、対した戦闘をせずに進んでいく。

 そうして、三日後…



「…光、眩しい…」

「…戻ってこれたな。」

「ち、地上ですわー!」

「わーい!」



 俺達は、地上へと帰還した。

 なんとも言えぬ喜びが、俺達の胸に沸き上がっていた。



「…で、大丈夫か?」

「ちょっと、クラクラ…」

「します、わ…」

「…無理、しない。」

「突然光を浴びたのですし、少し木陰に移動しましょう。」



 …なんとも締まらない形ではあるけどな。



 *



「はぁ…はぁ…はぁ…」

「グルゥゥゥ…」

「ヒィッ!」



 暗い。痛い。辛い。

 どうしてこんな目に?なぜ僕の右腕は無くなっている?

 僕の騎士達は、どこにいる?



「く、くるな!」

「グルゥゥゥ…」「ガルルゥゥ…」

「ぼ、僕は英雄なんだ!こんな…こんな場所で…!」

「グルヴァァァァァ!!!!」

「う、うわぁぁぁぁぁぁ!!!」



 それが、僕が最後に見た光景だった。

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