84 ガテツの嘘
「お前達は確かに強い。だけど、ここまで来るのにかなり消耗している…つまり!体力万全な僕達に勝つことは不可能と言うわけさ!」
「さぁ、大人しくカフトリー様に鍵を渡すんだな。」
「痛い目見たくなきゃな!」
甲冑達が負けるハズが無いと思っているのか、こちらを煽ってくる。
アイツの名前カフトリーって言うのか…まぁ、興味ないけど。
とりあえず、演技しとくか。
「…お前達にここまで来るほどの実力は感じなかったが…どうやってここまで来たんだ?」
「ふっ、簡単なことさ!お前達がここに入った時からずっとつけてきたのさ!お前達が勝手に戦闘してくれるから、楽で楽で仕方がなかったよ。最も、あれくらい英雄たる僕なら余裕で倒せるけどな!」
「…それじゃあ、なぜこの場所の事を知っている?」
「それこそ簡単さ!撤退したと思わせて、一人その場に残しておいたのさ!お前達が撤退したと思い込んでベラベラと喋ってくれて、感謝しているぞ?」
思った通りの答えだった。
要するに、俺達を油断させて情報を聞き出し、俺達を利用して一切の戦いをせずにここまでやって来た…と。
なんとまぁ呆れた考えなのだろう。
確かに、ここまでひっきり無しに戦闘しているが、特段疲弊している訳ではない。
それに、睡眠や食事もきっちり取っている為、精神的な疲弊も特に無い。
しいて言うなら、メリアやウィルがお風呂に入りたい、と言った事くらいだ。
まぁ、女子にとっては辛いことなんだろう…と思っておく。
さて、そんな事はどうでもいい。問題は…
「それで?ここには何があるというんだい?」
「おいおいしらばっくれるのか?ここには工房主の作った最高にして最強の魔道武器があると、さっき言ったじゃないか!」
あぁ、やっぱりか。
「フフッ…」
「…おい、なぜ笑っている?」
「あぁ…あまりにも面白くてな…」
「…ケイン?」
メリア達がキョトンとした顔でこちらを見る。
メリア達も、なぜ俺が笑いだしたのか分かっていないようだ。
それもそうだ。なぜなら…
「この場所にあるのはガテツの作った最高の武器だ。ただし何の力もない、ただの武器だけどな。」
*
「封印したのは、ただの武器…ね。」
「どうやら、予想はしていたようじゃの。」
「まぁ、バレバレだったしなぁ…」
朝、俺が外に出る前にガテツに伝えられたのは、封印したのは魔力のこもっていないただの武器である、ということだった。
だが、それは俺も予想していた事だった。
なぜならあの時、外には奴らの内の一人が聞き耳を立てていたからだ。
それならば、わざわざ全て本当の事を言う必要はない。
ガテツは、バデュラスの洞窟に武器を封印したという事実と、封印したのは最強の武器であるという嘘を俺達に話したのだ。
「ケイン、分かっているとは思うが…」
「あぁ。メリア達には伝えない。伝えたら、俺だけに伝えた意味が無くなる…だろ?」
「その通りじゃ。」
敵を騙すにはまず味方から。
俺はあまり好きでは無い事なのだが、今回の場合は相手を泳がせる為に必要な事だと割り切った。
*
「今更何寝ぼけた事を言っているんだ。それで僕が引き下がるとでも?」
「まぁ、お前がこの事をどう取ろうが関係ない。俺は真実を言ったまでだ。」
「…ケイン様、先程の事は本当なのですか?」
「あぁ。黙っていてすまない。」
「いえ、ガテツ様の事でしょう。考えあって私にも言わなかったのだと思います。」
流石、ガテツと一緒に過ごしていただけの事はある。ガテツの真意をよく理解している。
対する奴らはと言うと、やはり信じて居ないらしく、すでに臨戦態勢になっている。
「さて、見苦しい戯れ言をほざいた所でもう一度聞こう。鍵を渡してここから去れ。」
「断る。」
「そうか…ならば、力ずくで奪うまで!やれ!」
「「「「うぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」」」」
カフトリーの指示の元、甲冑達が一斉に押し寄せてくる。
さて、押されるふりをしても良いのだが、こいつらに押されるのは癪にさわる。
「ウィル、ユア。右は任せた。イブは俺と左の敵をやるぞ。メリアは守りを頼む。」
「「「「りょうかい(ですわ)(です)!」」」」
俺の指示の元、皆が動きだす。
俺達を下に見続けた事、後悔させてやる。




