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82 同じ罪を背負う者

「…私は、数えきれない程の人を殺しました。それなのに、こんな場所でのうのうと生きている…滑稽ですよね」

「………」

「結局、私には暗殺の技を捨てる事など出来なかった。人を殺した過去を捨てる事なんて、出来なかった。…教えてください。話を聞いた貴方達が、私に何をするのかを」



 ユアが話したのは、自らの過去。

 血に塗り潰された、罪の証。

 話終えたユアは、すでに諦めたように天を向いている。

 このまま自分を犯罪者として始末するのか…それとも、ガテツの元へ向かい、洗いざらい吐くのか…

 どんな事でも、ユアは受け入れるつもりだった。


 だが、帰ってきた答えは、ユアの考えとは全く正反対の答えだった。



「…ユアさま。イブは、イブの目のまえでパパとママをころされました」

「…え…?」

「イブは、つらくて、かなしくて、なにもかもイヤになって…こころをとざしていました」


 それは、イブの忘れられない過去。

 辛いハズなのに、なぜかその顔は、しだいに明るくなっていく。


「…でも、そのおかげでおうじさま…ケインさまに出会えたんです。どんなにつらくても、いっしょにいたいって、思えるひとに」

「………」

「…貴方がやってきた行いの数々は、到底許される事ではありませんわ」


 ウィルの言葉は、ユアの過去そのものだ。

 だが、ウィルは心配そうに笑い、言葉を続ける。


「…ですが、貴方の気持ちは分かりますわ。私だって、ビシャヌが居なければ、心なんて、疾うに失っていたかもしれませんもの」



 ユアは、少し困惑していた。

 何故、二人は私を攻めないのだろうか。

 何故、そんな言葉を投げ掛けるのだろうか。

 自分は、何故許されているのだろうか…


 その答えは、残った二人が教えてくれた。



「ユア。デュートライゼルって町、知ってるか?」

「確か、勇者の町…それが?」

「…俺とメリア、それにナヴィ。俺達三人が来たせいで、その町の命は全て消えた」

「っ…!?」

「十や百じゃない。もっと多くの命が、たった一つの汚点によって失われる事になった。…レイラも、その被害者だ」

「…それって、どういう…」



 ユアは耳を疑った。

 彼らが、命を奪った?

 自分達の…里の為に、ゴブリンキングの元へ真っ先に向かった彼が?

 すると、メリアが服の袖を捲っていく。

 何事かとメリアを見て、驚愕する。

 人間には似つかわしくない、鮮やかで、美しい鱗が、隠された腕に付いていたのだ。



「…私は、人間、だった。でも、呪いのせい、で、体は、メドゥーサに、変わって、しまった」

「メドゥーサ…!?」

「故郷の、皆を、殺して…自分が、イヤになって…その先で、ケインに出会った。居場所になってくれる、って、言ってくれた」

「ケインさま、そんなことを…?」

「………」


 なんとも言えない顔をするケイン。

 それは、肯定を表しているのだろう。


「…でも、デュートライゼルで、ケインを失いそうになった」

「………」

「怖かった。また居場所を失うのか、って。嫌だった。大切な人を、自分のせいで、失うのは」

「メリア…」

「そしたら、頭が痛くなった。割れるように、塗り潰されるように。…自分が、自分じゃなくなるみたいに。…目を覚ましたら、全てが終わっていた」



 震えるように話すメリア。

 俺は肩に手を置き落ち着かせ、かわりに話をした。



「呪いの力が、メリアを暴走させた。誰もが逃げ惑い、町を出ようとした。…だが、誰一人として逃げられなかった。…俺は、俺自身が情けない」

「ケイン、さま…?」

「一緒にいると約束したのに、助け合うと約束したのに。約束すら守れずに、メリアの手を、再び汚してしまった。だから、俺も同罪…人殺しだ」

「………」



 ユアは整理が追い付いていないようだ。

 それはそうだろう。

 覚悟を決めて、俺達に血塗られた過去を話したと言うのに、俺達も同じような人生を送っていたのだから。



「…ユア。俺達は、人の命を奪って生きている。ユアと同じ罪を、俺達も背負っている」

「…」

「だから、前を向け」

「え…」



 俺はユアを見つめる。

 項垂れていたユアも顔をあげ、俺の顔を見る。



「お前が暗殺者だったなんて、俺達にとってどうでもいい。ユアはユアだ。それ以上でも、それ以下でもない」

「…ですが、私は…」

「ユアは自分で暗殺という道を選んだ…それなら、後悔なんてするな!後悔すれば、これまで生きてきた全ての事を否定する事になる!お前の言う師(マスター)と出会った事もだ!」

「っ!」

「それが嫌なら前に進め!血塗られた過去だろうと、思い出したくない過去だろうと、全部背負って進み続けろ!」

「私、は…」

「…お前が、どんな選択をするかは分からない。だけど、後悔しない答えを出すんだ。…そうすれば、前に進めるから、さ」



 ユアが目を瞑る。

 何かを思考するように。

 対する俺は、誰にも聞こえないくらいのため息を吐いた。

 理由はまぁ…自分の発言についてだ。



 (…何言ってんだよ俺は…メリアの時もだった気がするが、変に単語を並べまくって喋ってしまった…今までこんなこと、起きなかったのにな…)



 ユアは未だに目を瞑ったままだ。

 …ユアがどんな選択をしようと、俺は否定するつもりはない。


 こうして、バデュラスの洞窟攻略一日目は終わりを告げた。

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