表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
81/413

80 忌まわしき技

 「はぁ…はぁ…全っ然上手くいきませんわ…」

 「〝回復(ヒール)〟…無理しちゃ、駄目…」

 「心づかい、感謝しますわ。ですが、このくらいでへこたれる訳にはいきません。」



 五階層にたどり着いてからどのくらいたっただろうか。

 俺達は十階層の入り口を見つける所まで進んでいた。

 道中、クラヤドネ以外のモンスターが出てきたが、変わらずクラヤドネはウィルに任せていた。

 ウィルは、俺が提示した「殻を傷つけずに、クラヤドネを水刃で倒す」という条件を、中々達成できないでいた。

 まぁ、イブと同じく出来なきゃいけない、という訳では無いので、程々に頑張ってほしいと思う。



 「さて、十階層へ向かうぞ。」

 「…」

 「ユア?」

 「っ、なんでもありません。行きましょう。」

 「?あぁ。」



 …やはり、ユアの様子が変だ。

 ウィルに条件を提示した辺りから、ずっとなにかを恐れている…ように見える。

 無表情ってのは、中々分かりにくいものだ。



 「っ!?な、なんですかこれは!?」

 「森…ですの!?」



 十階層へ降りた俺達が見たのは、辺り一面に生えた沢山の木だった。

 足元にも芝が生え、大陽のかわりに鉱石の光が木々の隙間から漏れている。

 かなり暗い場所とはいえ、まさしくそこは森であった。



 「…とりあえず、固まって動くぞ。イブは前、ウィルは右、ユアは左を頼む。後ろは俺がやる。」

 「「「りょうかい(ですわ)(です)」」」

 「…?私、は?」

 「メリアは中央に居てくれ。木々の間と、芝や地面の中の警戒を頼みたい。」

 「…ん。わかっ、た」



 俺の指示の元、メリアを中心とした陣形をとって進む。

 俺達には超五感を持つメリアがいるというのに、この陣形をとったのには訳がある。

 以前、この階層と似たようなダンジョンに挑んだ際、非常にてこずったモンスターがいるのだ。

 その名はウォーモンキー。

 Dランクのモンスターと、そこまで高くは無い。

 むしろ、先程のクラヤドネより力は無い。

 ではなぜDランクに指定されているのか。

 それは、ウォーモンキーの持つスキルが関係している。

 ウォーモンキーのスキルは「認知低下」。つまり、隠密能力だ。

 ただ、レイラのように姿を消せる訳ではなく、ただ見つかりにくくなるだけ。

 だが、それが最も厄介なのだ。


 戦闘時における一瞬の戸惑いは負け筋となる。

 戦っている相手がいきなり目の前から消えたら、動揺して冷静な判断ができなくなる。

 それは大きな隙と化してしまい、結果的に大ダメージを受けてしまう事になりかねない。

 そんな芸当を、ウォーモンキーはやってのけてしまうのだ。

 幸い、ウォーモンキーは群れて行動せず、それぞれの縄張りに勝手に侵入しようとはしないモンスターだ。

 そこさえ理解していれば、ある程度対処はしやすい。



 「…?今、何か動い」

 「…!敵…!?」



 ウィルが違和感を覚えたと同時、その方角から敵が来たことをメリアが察知する。

 まだ視界には移らないが、全員が警戒体制に入る。

 メリアも敵の居場所を探ろうとしているが、上手く探せないようだ。

 相手は、ウォーモンキーで間違いないだろう。



 「キュガァァァァァ!!!」

 「っ!上だ!」



 その考えが正しいと言わんばかりのタイミングで、俺達目掛けてウォーモンキーが飛びかかってきた。

 メリアにここまで気づかれずに接近できた所を見るに、ウォーモンキーの能力は相当な力を持っているのだろう。

 等と考えていると、ウォーモンキーの気配が薄くなっていく。

 目の前に居るハズなのに、見失うような感覚が俺達を襲う。



 「なっ、消えっ…!?」

 「あ、あれ?どこに…?」

 「落ち着け!奴は自分を見失わせるスキルを持っている!落ち着いて周りを見れば見つけられるハズだ!」

 「……っ、そこっ!」



 ユアがなんとか察知し、切りかかろうとする。

 だが、すでにウォーモンキーは後方に下がっていたようで、短剣は虚しく空を切った。


 (…焦るな、まだ奴は近くに居る。)


 俺は小さく息を吐くと、思考を止めて集中する。

 じっと動かず、ただ一つのチャンスを伺う。

 すると、少し手前の芝が小さく動いた。



 「今だっ!」

 「ウォキィィィィィ!?」

 「くっ、少し外したかっ!」



 直後、目の前にウォーモンキーが現れたが、俺はそれを視認するより先に刀を振り上げた。

 タイミングは完璧で、ウォーモンキーの体を真っ二つにできる位置で振り上げたのだが、ウォーモンキーがギリギリの所で体を捻り、急所を避けた。

 だが、確実に奴にとって辛い一撃が入ったのは確かだ。

 現に、奴は気配を消せないでいる。



 「よし、このまま一気に…」

 「…っ!〝防壁(バリア)〟!」

 「グギュッ!?」

 「キャァ!?」



 トドメを刺そうとしたイブの右上辺りに、メリアが防壁(バリア)を使った。

 すると、丁度の位置に何かが飛びかかった。

 その何かは、防がれるのを想定していなかったのか、無様な姿と声をあらげて防壁(バリア)にぶつかった。

 イブも、突然の事で動揺したのか、可愛らしい声で驚く。



 「に、二体目のウォーモンキー!?」

 「…まさか、ここは…」

 「…恐らく、縄張りの境目なのでしょう。」

 「っ、めんどくさい事になったぞ…!」



 一体でさえ厄介なウォーモンキーが、二体に増えたのはかなり辛い。

 恐らく、先に仕掛けたウォーモンキーを倒し、俺達が油断した所を襲うつもりでいたのだろう。

 実際、トドメを刺そうとして、イブが油断していたのは事実だ。


 とにかく、これで油断ならなくなった。

 片方が手負いとはいえ、二体を相手するのはかなり厳しい。

 それに、戦闘経験の浅いウィルとイブには、かなり荷が重い相手だ。

 時間はかけられない。

 かければかけるほど、こちらが不利になるだけだ。

 と、そこで俺は閃いた。



 「ウィル!辺りに水を撒き散らせ!」

 「っ、分かりましたわ!〝飛水(スプラッシュ)〟!」



 ウィルが四方八方、無尽蔵に水を撒き散らす。

 その水をじっと見つめると、何も無い場所で水が弾かれた。

 その一瞬を、俺は逃さない。



 「そこだぁぁぁ!」



 水の弾かれ方から軌道を予測し、俺はそこに向かって飛び出し、刀を振るう。

 昔、視覚を奪われたモンスターが、音を頼りに攻撃してきた事があった。

 それは、「見て行動する」のではなく「感じて行動する」という、真逆の行動だった。

 今回はその逆、感じることができないなら、見れる状況を作り出せばいい。

 三年間、絶えずモンスターと戦ってきたからこそ思い付いた方法だ。

 ウォーモンキーが気づかれた事に気づくより先に、俺の刃が届く。

 振るった一撃は、狙ったわけでは無いものの、見事にウォーモンキーの首を切り落とした。

 それを見ていたメリア達も、俺と同じように水を見る。



 「…!そっち!」

 「〝(フレイム)〟!」

 「グギャァァァァ!!!」



 メリアの指示の元、イブが炎を放つ。

 その炎は、狙い済ましたかのようにウォーモンキーを捕らえ、その体を焼き払う。

 やがて耐えきれなくなり、その体は灰になっていった。



 「や、やった!」

 「飛水(スプラッシュ)にこんな使い方が…」



 ウィルとイブが、それぞれの感想に浸る。

 ウィルが居なければこんな戦法は取れなかっただろうし、イブじゃ無ければ仕留めきれなかったかもしれない。

 そう感じた俺は、皆の元に歩き出した。


 …そう、俺は()()()()しまった。



 「キキャァァァ!!!」

 「っ!?」



 その声は、俺の上から聞こえた。

 それは紛れもなく、先程まで聞いていたウォーモンキーのものだった。


 …懸念していた。

 ここは二体では無く、()()の縄張りの境目だったのだ。



 「「「っ!」」」



 メリア達が声に反応するも、時すでに遅し。

 俺ですら視認できて居ないのに、もうすでにウォーモンキーの攻撃は目の前に迫っていた。


 俺は一撃食らう覚悟をした。

 その上で、反撃(カウンター)を決める。今できるのは、それしか無いと思った。

 ようやく、視界にウォーモンキーが映る。

 目前に迫ったウォーモンキーが、腕を振り下ろす。

 俺は、刀を構える。


 と、そこで視界に別の影が写りこんだ。



 「ギャ?」



 その影は、目にも止まらぬ速さで目の前を過ぎる。

 そして、影が過ぎ去った後に俺が見たのは、すでに絶命したウォーモンキーだった。

 ウォーモンキーはそのまま、俺の横にドサッと倒れ込む。

 俺は、死体を見た。

 首があり得ない方向にねじ曲がり、自分が死んだとは全く気づいていない表情をしたウォーモンキーの死体。

 それは、紛れもなく先程の通った影の仕業だった。

 そしてその影―()()の方を見た。



 「…あ、あぁ…」



 彼女は、震えていた。

 それは、倒した事に対する震えではない。恐らく、自分が今使った()()()に対する震えだ。

 メリア達が、歩いて近寄ってくる。



 「ケインさま、だいじょうぶですか?」

 「…あぁ、大丈夫だ…とりあえず、ここを仮の拠点にしよう。休む場は必要だ。」

 「…そう、ですわね。」



 メリア達も、少し心配そうに見つめる。

 未だに体を震わせるユアを。



 *



 辺りに、美味しそうな匂いが立ち込める。

 今俺達がいるのは、先程ウォーモンキー三体と戦った場所だ。

 ウォーモンキーは、他の同族がやられても、すぐに縄張りに侵入することはない。

 数日かけて、ゆっくりと進行していくのだ。

 この場所はウォーモンキー三体分の縄張り後のため、他の場所より比較的安全な場所なのだ。



 「………」

 「………」

 「…食べないのか?」

 「っ、…いえ、頂きます…」



 明らかに様子がおかしいユアの影響もあって、気不味い感じになってしまっている。

 メリア達も、それを感じ取っているのか、先程からほとんど喋っていない。

 だが、このまま進む訳にはいかない。

 だから、俺から切り出した。



 「…ユア。最後のウォーモンキー、あれを倒した技はなんだ?」

 「…っ!」

 「さっきの死体。あれは首を切り落とせない程度の傷を入れられ、首を落とさぬようねじ曲げた上で()()()()()()()()()()。」

 「………」

 「ユアが使ったのは「敵を倒す」技じゃ無い。「()()()()()」技なんじゃないか?」

 「…!」

 「…なぁ、教えてくれないか?お前が震える訳を。…その技を、知っている訳を。」

 「………」



 ユアは黙りこんだ。

 恐らく、俺の推測は的を獲ている。

 俺の読みが正しければ、ユアは…



 「…分かりました。お話しましょう…」



 少しして、観念したようにユアが顔を上げる。

 その顔は無表情ながら、未だに恐怖を感じているようだった。

 それでも、前に進むために言葉を紡ぐ。



 「…私はガテツ様と出会うまで、暗殺者として生きていました。」



 そして、彼女(ユア)は語りだす。

 自分の過去―暗殺者として、人を殺め続けてきた時の事を…

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ