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79 ウィルとイブの試煉

 「イブ。お前はこのダンジョン攻略中、灯り(ライト)を使ったまま(フレイム)を使って敵を倒すんだ。」

 「えっ…でもそれって…」

 「あぁ、かなりの技術を必要とする技だ。魔力制御がとてつもなく上手い人でも、使うことが難しい程にな。だが、この技術は今後の成長に必ず繋がる。できなくてもいい。意識してやってみるんだ。」

 「…!わかった…やってみる!」



 イブが灯り(ライト)を灯したまま、(フレイム)を発動させようと試みる。

 スケルトン側も、イブの魔力を感じ取ったのか、こちらに向かってくる。

 だが、一手遅い。



 「いっけぇぇ!」



 イブの(フレイム)が、スケルトンに襲いかかる。

 下手をすれば全てを消しかねない炎が、スケルトンを一瞬で吹き飛ばした。

 さて、肝心の灯り(ライト)はと言うと…



 「消えたな。」

 「消えてますね。」

 「消えてますわ。」



 という事だ。

 (フレイム)を発動した辺りから、すでに灯り(ライト)の魔力は(フレイム)に飲み込まれていた。

 要するに、失敗だ。



 「うっ、いっせいに言わなくても…」

 「…だいじょーぶ、次、頑張れば、いい。」

 「メリアさま、ありがとうございます…」



 イブはメリアに慰められた事で気持ちを切り替え、再び灯り(ライト)を発動する。

 とりあえず、スケルトンの相手は全てイブに任せることにした。

 倒しやすく、消し炭になっても痛手にはならないからだ。

 …そもそも、稼がなくてもいいくらいの貯蓄はあるのだが…

 そんなわけで、俺達は地図を作りながら探索し、下へ下へと降りていった。

 四階層までスケルトン以外の敵が出てくる気配はなく、そのスケルトンも、イブの(フレイム)で次々と灰になっていった。


 そして、五階層にたどり着いた俺達を迎えたのは、スケルトンではなかった。

 立派な爪を持ち、青い体を石のような物でできた殻に半分だけ入れているモンスターだ。

 その数、三十近く。



 「ようやく違うのが出てきましたわ…」

 「あれはクラヤドネだな。」

 「クラ、ヤドネ…?」

 「岩みたいに硬い殻を背負ったモンスターだ。かなりの臆病ですぐに殻に籠るんだが、数が増えると急に勝ち気になり、逆に数が減ると殻に籠る習性がある。」

 「それが彼らの習性ならば、この状況は」

 「あぁ、間違いなく勝ち気になってるだろうな。」

 『クリュッピィィィィィ!!!』



 それが正解だと言わんばかりに、一斉に飛びかかってくるクラヤドネ達。

 クラヤドネは対して強くない。ランクもゴブリンより一つ上のEである。

 だが、それはあくまでも単体の話。

 数にもよるが、群れたクラヤドネはかなりの脅威なのだ。

 迫り来るクラヤドネを、イブが(フレイム)を使って対処しようとする。



 「〝(フレイム)〟!…って、からに入ってふせいだ!?」



 これが、クラヤドネの強みだ。

 自分を守る術が無いゴブリンと違い、彼らは殻という防御に優れた武器がある。

 それに加え、尖った爪も持ち合わせているという、Eランクにしてはかなり強力なモンスターなのだ。


 だが、クラヤドネには明確な弱点が二つあるのだ。

 一つはクラヤドネ本体。

 殻は硬いものの、体はかなり弱いため、攻撃してくる隙をついて攻撃を当てれば、すぐに倒せる。

 そして、もう一つは…



 「ウィル、いけるな?」

 「当然ですわ!〝(ウォーター)〟!」

 『クリュアァァァ!?』



 ウィルの産み出した水が、クラヤドネに直撃する。

 なにを隠そう、クラヤドネは水に弱いのだ。

 クラヤドネには、弱い体を守る為の、乾燥した皮膚膜が存在する。

 だが、一度濡れてしまうとその皮膚膜はすぐに駄目になってしまうのだ。


 皮膚膜が無くなるとどうなるのか。

 人族で例えるなら、本来皮膚によって守られている神経が、常に空気に触れているような状態になる。

 そうなると、常に激痛を感じるようになる。

 そうなってしまったが最後、激痛に耐えきれずショック死してしまう。


 水をかけられたクラヤドネは、まさにその状態なのだ。

 歩く事すら痛みに変り、本来クラヤドネを守るハズの殻ですら、激痛の権化とかす。

 その痛みが限界に達したのか、数体のクラヤドネが泡を吹いて倒れていく。

 他のクラヤドネ達も、残った水に恐怖して動けなくなる。



 「ウィル、クラヤドネの弱点はお前の(ウォーター)、これは理解したな?」

 「えぇ!これで残りのクラヤドネも倒せばいいんですわよね!」

 「いや、残りのクラヤドネは水刃で()()()()()()()倒すんだ。」

 「えっ!?なぜですの!?」

 「確かにクラヤドネ(コイツら)なら(ウォーター)で楽に倒せる。だけど、それじゃあ戦闘の経験値としては浅すぎる。」

 「それで水刃を使え…ですの?」

 「あぁ、前に見せて貰った時は動かない木が的だった。だが、俺達が相手するのはモンスター…生物だ。いつも止まってくれる訳じゃない。」

 「つまり、動いている相手でも命中させられるようになれ…ということですのね?」

 「そういうことだ。」

 「分かりましたわ!」



 今後どんな敵が現れるのか分からない。

 ウィルには(ウォーター)飛水(スプラッシュ)、二つの広範囲スキルがある分、どんな敵だろうと一定の相手はできるだろう。

 だが、この二つには決定打になるほどの威力があるかと言われると首を傾げるだろう。

 だからこそ、ウィルが持つ水刃を決定打にできるよう、今のうちに練習させるべきだと考えたのだ。

 殻に当てないように、と言ったのもそういう理由だ。


 そんなことを思っていると、ユアが顔を覗いてきた。



 「…?どうした?」

 「いえ、貴方は彼女達の今後を考えて、少し難しい条件を提示した。その事に、関心を持った…それだけです。」

 「…まぁ、その…なんだ、危険を承知でついてきてくれたんだ。それなら、強くしてやりたいと思うのは自然な事だと思うけどな。それに…」

 「それに?」

 「…たった一度の命を、俺についてきた事で失った…なんて、俺自身が許せないから、だな。」



 その言葉が、ユアにどう伝わったのかは分からない。

 ただ、いつも変わらぬその顔が、一瞬曇ったような気がした。

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