78 バデュラスの洞窟
「ここが、バデュラスの洞窟…」
「はい。目的地となる最下層は四十階層だと聞いております。」
「よし、行くぞ。」
俺はとある方向をチラッと見た後、バデュラスの洞窟へと足を踏み入れた。
まだ入り口だからか、洞窟の内部は比較的明るい。
ダンジョンによっては、ダンジョン内に灯り替りになる鉱石がない場所もあるのだが、見た感じその心配は無さそうだ。
とは言え、明るいとは決して言えないほど微々たる光だ。
なので、予定通りに使ってもらう事にした。
「イブ、頼むぞ。」
「はい!〝灯り〟!」
イブの杖に組み込まれた宝玉に、暖かな光が灯る。
灯りはその名の通り、灯りをつけるスキルだ。
光の球体としても、イブのように物を光らせる事もできるスキルだ。
だが、それだけである。
闇より日常的には使いやすいが、戦闘面では目眩ましに使うことくらいしかできない。
このスキルをイブに渡したのは、ダンジョンに入る前。もっと言うなら、トレントとの対峙の後だ。
確かに、イブは低威力の炎でトレントを倒した。
だが、かなりの頻度で調整を誤ったため、ドロップアイテムはおろか、魔石すらボロボロという状態だった。
そこで、俺は持っていたスキルロールの中から灯りをイブに渡したのだ。
灯りは光を灯すだけのスキルなので、魔力操作はそこまで必要としない。
なので、イブにはバデュラスの洞窟の攻略中、常にこの灯りを使ってもらい、魔力の扱いに慣れてもらうことにしたのだ。
入り口付近なのか、まだ敵が沸いているような雰囲気が無いため、暫く周りを探索していると、ウィルがふとこちらを向いた。
「そういえば、ケインは何をしているんですの?」
「ん?あぁ、地図スキルで地図を作ってるんだ。ここを攻略したのに、迷って帰れなくなる、なんて御免だからな。」
「地図にそんな能力ありましたっけ?」
「それがよく分かんないんだよな…」
地図スキルの新たな能力〝地図制作〟
この能力が解禁されたのはほんの数日前、デッドラインに居た時だ。
解禁条件はよく分かっていないのだが、その有能性は凄まじいものだった。
能力としては二つある。
一つ目は地図制作の名の通り、通った道から少しの範囲を記録し、地図として表示する、というものだ。
さらに、地図の作成中であっても自分がどこにいるのか教えてくれる為、同じ場所に何度も行ってしまう、という事が無くなる。
そして二つ目。
それがこの能力の真骨頂、作成した地図の保存ができる、というものだ。
ダンジョンは基本的に内部の変化はあれど、内層が急に変わることはない。
その為、地図制作によって作成した地図は、帰り道を記すだけでなく、次の攻略時にも使える。
例えば、十階層あるダンジョンの五階層で一度帰ったとしよう。
その後、もう一度挑戦するとなった時に、保存しておいた地図があれば、五階層までの道のりを、記憶を頼らずとも最初から持った状態で挑戦できるのだ。
それがどれほど有能なのかは、言うまでもない。
「まぁ、使えるようになったんだから、使っていかないとな。」
「そうですわね。…でも、商人達との違いは一体…」
「ケインさまー!こっちですー!下へのつうろがありましたー!」
「おっと、話はここまでみたいだな。」
「そのようですわね。」
イブの元気な声に呼ばれ、俺とウィルは呼ばれた方へと向かった。
イブの引率の元、その場所へ向かうと、すでにメリアとユアが待機していた。
わりと近くで見つかったうえに、まだ迷うような作りにはなっていない事が救いだった。
だが、ここから先は未知である。
今後離ればなれになった場合、帰れなくなる可能性もある。
俺は改めて気合を入れ直し、皆と次の階層へと足を踏み入れた。
「…ダンジョンに潜るのは初めてですけど、こんなに不気味なものなんですのね…」
「ウィルさま?こわいんですか?」
「そ、そんなこと無いですわ!」
「イブ…ウィル、困らせちゃ、ダメ。」
「はーい。」
「…いくらなんでも気を抜きすぎな気がするのですが…」
「…あぁ、俺もそう思う…」
下へ降りている間、メリア達が呑気に話し合っているのをユアに指摘された。
気を抜いているのは間違いないが、それが悪いとは言い切れない。
なにせ、ウィルとイブにとっては初のダンジョン攻略なのだ。
話し合うことで、少しでも緊張を紛らわしたいのだろう。
そうこうしているうちに、次の階層へとたどり着いた。
「…早速お出ましか。」
「あれは…骨?」
「まぁ確かに骨だが…アイツはスケルトンだな。」
二階層へと降りた瞬間、目の前にスケルトンが数体現れた。
スケルトンはゴブリンやスライムと同じFランクモンスター。
だが、ゴブリン達に比べて、冒険者からはあまり好かれないモンスターである。
理由は単純。ドロップアイテムはおろか、魔石すらショボいのだ。
体が骨だけにドロップするのは骨ばかり、魔石もスライムより小さいという点が、好かれない原因だろう。
ただ、かなり倒しやすい相手であるため、初心者からすれば良い小遣い稼ぎにはなる。
「スケルトンは問題ないが…せっかくだし、イブの特訓の的になってもらおう。」




