74 現れた災害
ゴブリンキング。
その性格は、凶暴かつ狡猾。
俺のようなBランク冒険者でも、単独で挑むのは無謀とまで言われるほどだ。
そんな危険モンスターが、こんな場所まで来てしまっている。
しかも先の咆哮で、里の人々が、事かを確認しようと外に出てきてしまっている。
見つかれば、彼らの命は保証しかねない。
ならば、Bランク冒険者として、やるべき事はただ一つ。
「お前ら!争うのはそこまでだ!先にアイツを……ゴブリンキングをどうにかしないと、里が危ない!」
俺は大声で戦闘を止めさせ、ゴブリンキングへ意識を変えるよう促す。
ナヴィ達は、止めを刺せず少し残念そうにはしていたが、俺の一言で気持ちを切り替え、ゴブリンキングの方へと意識を向ける。
だが、男は俺の言葉に感心を向けようとしない。
「はぁ?なに僕に命令してるわけ?戦いはまだ終わって」
「この状況でまだ言うのか……もういい、行くぞ!」
男の偉そうな態度に飽きれた俺は、メリア達と共にゴブリンキングに向かって走り出した。
里の人々が見つかる前に、俺達が討伐する為だ。
後ろで何か叫んでいるが、気にも止めない。
ゴブリンキングも、向かってくる俺達に気づいた。
その目は、獲物がやって来たと言わんばかりにギラつかせている。
先制したのは、ゴブリンキングだ。
俺達を目視するやいなやすぐに突撃し、巨大な棍棒を振り下ろして俺達を潰そうとしてくる。
俺達は二手に別れて、その攻撃をかわす。
「メリア!守備は任せる!イブを頼むぞ!」
「……んっ!」
メリアにイブを任せ、俺は剣を抜いてゴブリンキングの足元へ駆ける。
ゴブリンキングも、俺を吹き飛ばそうと棍棒を構える。
当たればただではすまない。だが、威力を重視しようと大振りに構えたのは失敗だ。
「今ですわ!〝飛水〟!」
「ゴボァ!?」
ウィルがゴブリンキングの腕めがけて飛水を放つ。
飛水は見事にゴブリンキングの腕に当たり、痛みによって棍棒を手放させた。
「そこだっ!」
一瞬の隙をつき、俺はゴブリンキングの足に切りかかる。
だが、ゴブリンキングの足を切り落とす事はできなかった。
当然である。今までの剣ならまだしも、その場合わせの剣では、分厚いゴブリンキングの肉を断ち切る事などできるハズがない。
それに加え、予想より深く切りかかってしまったため、剣が途中で詰まり、抜けなくなってしまった。
「グロァァァァ!!」
「っ、クソッ!」
ゴブリンキングが殴りかかって来たため、やむ無く剣を手放し、後方に下がる。
剣はゴブリンキングの拳に当たり、突き刺さった部分を残して粉々に砕け散った。
俺は、咄嗟に魔法鞄に手を突っ込み、中から別の剣を取り出す。
あまり武器を使い潰すような戦いはしたくないのだが、この緊急時にそんな甘えた事は言っていられない。
俺は再び、ゴブリンキングへ向かっていった。
*
「ここじゃない……こっちだったか……?」
「ガテツ様、本当にあるのですか?」
「間違いなくある。だから探しておるのだ」
ケイン達がゴブリンキング討伐に奮闘している時、ガテツとユアは工房の中に居た。
最初、ユアはケインの言葉通りガテツを避難させようとしたのだが、ガテツが待ったをかけた。
―あやつに試させたい武器がある、と。
「ガテツ様、これは?」
「似ているが違う。そいつは大きすぎる」
そうして10分ほどたった時、それは見つかった。
「……!コイツじゃ!」
「ガテツ様、これは……?」
「コイツは、今や使う者が居なくなってしまった代物。じゃが、あやつにとっては最高の武器だろう。ユア、あやつにこれを届ける。援護を頼む」
「それなら、私一人で」
「気持ちは分かる。だが、ワシは見たいのだ。コイツが再び、振るわれる姿をな」
「……分かりました。援護します」
ユアはそう言うと立ちあがり、玄関の方へと歩きだす。
その姿を見て、ガテツは少し微笑んだ。
初めて会った時に比べれば、大分大人しくなったな、と。
そして同時に、やはり表情は変わらんか、とも。
そんなユアの背を追うように、しっかりと手に探し物を抱え、同じく玄関に向かう。
そして、玄関の戸を開いた瞬間、囲まれた。
その犯人は勿論、先程からしつこく迫ってきていた男だ。
「おいおい、どこに行こうと言うんだい?」
「……お前こそ、これは何の真似じゃ?」
「なにって、交渉だよ。こ・う・しょ・う」
「交渉?この気に及んでまだそんな事を言っておるのか!」
「なに慌ててんだよ。邪魔者は居ない。ゆっくり話し合おうじゃないか」
「お前なんぞと話す事など無い!」
ガテツは強く叫ぶ。
その姿に、男は小さく舌打ちをする。
だが、ガテツが抱えている物を見て、すぐに笑みを浮かべる。
「んー?なんだよ、それ、武器じゃないか。僕の為に持ってきて来たんだな」
「そんなわけあるか!コイツはあやつの為に探しだした物じゃ!」
「あやつ……?あぁ、たかがゴブリンごときにビビって駆け出した臆病者の事か?はっはっは!冗談が過ぎるな!」
「お前、あれがどういうモンスターなのか分かってるのか!」
「はぁ?体が変異しただけの、普通のゴブリンだろ?見てわかるじゃないか」
男は飽きれたようにそう言った。
実際、ゴブリンキングはゴブリンの最上位種なので、あながち間違ってはいない。
だが、男はケインと違い、その凶悪性を理解していなかった。
だからこそ、ゴブリンキングに対して「たかが」などと言えるのだ。
その事は、ガテツにとっては哀れとしか言い表せない事だった。
「……もう一度言う。お前に作る武器も、渡す武器も無い!分かったらさっさとそこを退け!」
「はぁ……物分かりの悪い主人だ。……やれ」
「「「「はっ!」」」」
「……っ、ユア!」
「分かっています」
男の指示の元、甲冑達が襲いかかる。
だが、その攻撃がガテツに届く事は無かった。
当たるかどうかの瀬戸際で、ユアがガテツを背負い、甲冑達を踏み台にして包囲網を抜け出したからだ。
ユアはガテツを下ろすと、腰につけた鞘から短剣を抜いた。
ガテツ様を、ケイン様の元へ届ける。
その邪魔をさせないために。




