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73 英雄を名乗る者

 俺達が工房の入り口に着いたとき、その場にはガテツとユア、そしてガテツ達を取り囲む形で数十もの男達がいた。

 ガテツは扉の前で目の前の人物を睨み、ユアはすぐに戦えるよう腰を低く構えている。


 対する男達は、ほぼ全員が甲冑を纏った傭兵の格好をしている。

 腰に剣を下げ、必要とあらば斬りかかる気のようだ。

 そんな者達の中に一人だけ、甲冑を着ていない者がいた。

 見るからに高そうな服を着た、かなり顔の整った男だ。

 その男は、偉そうにガテツに話しかけている。



「なぜ分かってくれないのかな?僕と言う未来の英雄が、僕の……僕たちの為に武器を作ってくれと言っているのに……何が不満なんだい?」

「その態度を含めた全部じゃ!何度も言わせるでない!」

「はぁ……やはり、僕のこの申し出がどれ程名誉ある事なのか、理解できていないようだね……」



 男が呆れたように目を閉じ、顔を横に振る。

 ……というか、自分で自分の事を英雄って言うやつに出会ったの二人目なんだが……

 等と思っていると、ユアが俺達の存在に気づいた。

 ユアが気づいた事で、ガテツも俺達に気づき、その視線を辿った甲冑姿の男達、そして、英雄を名乗る男も俺達に気づいたようだ。

 自称:英雄は、俺達を見て訝しげな顔をする。



「……なんだい君たちは。今僕は、ここの工房主と有意義な契約を結ぶためのお話をしている最中なんだが?」

「誰がお前などと契約するか!そやつらはワシの客じゃ!」

「……は?客?」



 男がギロリとこちらを睨む。

 イブが一瞬ビクッと跳ねたが、すぐに落ち着きを取り戻す。

 その様子、そしてメリア達を見た男の顔が、俺達が幾度となく見た顔をする。

 気持ち悪い、下心丸出しの笑顔だ。


 その笑顔を見せたまま、男がこちらに向かって歩いてくる。

 その行為を見たナヴィ達が臨戦態勢を取る。

 だが、そんな事には目もくれず、男は俺の前まで歩みを進め、俺の肩を掴み、横薙ぎに投げ飛ばした。

 力はそこそこ強かったが、多少体勢を崩すだけだった。

 だが、男は俺が遠くまで投げ飛ばされたものだと思い込んでいるようだ。

 そして、そのままメリア達に話しかける。



「やぁ、君たちも武器がお目当てなのかな?だったら僕の元に来いよ。そうすれば、最高の武器を君たち「〝空気弾(エアーバレット)〟」にぃっ!?」



 わざとらしく格好つける男が言い終わるよりも先に、ナヴィが空気弾(エアーバレット)を叩き込む。

 防御する暇もなく腹部に直撃し、そのまま甲冑達の元まで吹き飛ばされる。

 吹き飛ばされた男と甲冑達は、何がどうなったのかまだ理解できていないようだ。

 男の状態を見るに、ナヴィが非殺傷の空気弾(エアーバレット)を手加減無しで撃ち込んだのは明確だ。

 そうでなきゃ、今頃大惨事である。

 そんな考察をしながら、わざとらしく体勢を立て直す素振りをして、再びメリア達の前に立つ。

 俺がなんでもないように現れた事で、男も甲冑達も、なにが起きたのか把握したようだ。


 自称:英雄は、ナンパした女に相手にされなかった挙げ句、重い一撃を喰らって吹き飛んだ、と。


 その事実が、男を憤怒させた。

 その男の様子を見ていたガテツは、目に分かるくらいにニヤニヤしていた。

 ユアは無表情を貫いている。

 そんな態度も、男は気にくわないようだ。



「なんだよお前ら!英雄である僕にこんなことをしてタダで済むと思っているのか!」

「英雄……?ホラ吹き、の、間違い、じゃ……?」

「なっ」

「そうねぇ……私の一撃で吹っ飛ぶような男だもの。相当貧弱なのかしらねぇ?」

「キ、キサマァ……!」



 メリアとナヴィから散々な言われようをされる男。

 再びこちらを睨むが、俺達は平然としている。

 その態度が、男をさらにイラつかせる。



「おいお前ら!アイツらを叩き潰せ!」

「了解ですぜ坊ちゃん。女はどうします?」

「女は引っ捕らえろ!男は殺せ!」

「そう言うと思ってましたぜ!行くぞオメェら!」

「「「「はっ!」」」」



 リーダーらしき人物の指示のもと、甲冑達が俺達に向かってくる。

 そこまで距離は離れていなかった事もあり、すぐに囲まれてしまう。



「悪く思うな。坊ちゃんの指示なんでね。なに、大人しくしていれば、苦しむ事はない」

「あ?数いりゃ勝ったと思ってるのか?」

「当然だ。我々はカフトリー様に仕える騎士。強くて当たり前だ」

「ふーん。……だそうだが?」

「全然強そうに見えませんわ」

「むしろ弱いから集まってるって感じだね~」

「上がよわいと、下もよわそうです」


 俺達はあえて甲冑達を煽る。

 その効果は、すぐに目に見えた。


「キサマら、好き勝手言いやがって……!かかれぇ!」

「「「「おおおおおおお!!!!」」」」



 四方八方、逃げ道を無くすように甲冑達が突撃してくる。

 冒険者目線で見ても、かなり連携の取れた動きだ。

 彼らが相当な訓練を積んできたのが良く分かる。

 普通の冒険者やモンスターでは、逃げられずにやられてしまうだろう。

 現に、すでにかなりの速度で突っ込んできている。


 だが、俺達とは相性が悪すぎる。



「今だ!」

「まっかせろぃ!」

「っ!?と、止まれぇぇぇぇぇぇ!?」



 甲冑達をギリギリまで引きつけたところで、俺の掛け声に合わせてレイラが念力(サイコキネシス)を使い、俺達を空に離脱させる。

 獲物を失い、かなりの速度で突っ込んできた甲冑達は、咄嗟の叫びも虚しく互いにぶつかりあい、一塊になる。

 そのスキを、逃さないのが俺達だ。



「イブ!」

「はい!〝牢獄(プリズン)〟!」



 イブの持つ三つ目のスキル、牢獄(プリズン)が発動し、甲冑達を捕らえる。

 この牢獄(プリズン)は対象となるものを、魔力のドームで捕らえるスキル。つまり、捕縛スキルだ。

 捕らえられた場合、上手く立てない程の重力がのしかかったり、じわじわと魔力を吸いとられたりと、常に体力や気力を奪われていく。

 また、スキルの熟練度に伴い、捕縛対象の増加や範囲の拡張が自由に扱えるようになる。


 イブの場合、スキルの熟練度はそこまで高くないが、かわりにイブの持つ膨大な魔力によって、常人より広範囲で展開することができる。

 だか、複数展開することはできないので、敵を固まらせる必要があった。

 その為にわざわざ煽り、判断力を多少なりとも奪っておいたのだ。


 地上に降り、甲冑達を見つめる。



「クソッ!なんだこれは!」

「身動きが取れねぇ!」

「お、おい!いつまでも俺に乗っかってるんじゃねぇ!」

「んなこと言われても動けねぇんだよ!」



 人数が人数なので、かなりギリギリまで狭めて捕らえた結果、中がえらい事になっている。

 甲冑を着ている分、余計に狭そうだ。



「ケイン、さま……!あまり、長いと……!」

「分かってる!ナヴィ、ウィル!」

「「了解ですわ!」」


 俺が剣を抜くと同時、ナヴィとウィルが横に並ぶ。


「知ってるか?牢獄(プリズン)のスキルは、内部からの攻撃は通らない。内部からの、はな」

「な、何を……まさかっ!?」

「そのまさかさ!〝波斬(スラッシュ)〟!」

「〝空気弾(エアーバレット)〟!」

「〝飛水(スプラッシュ)〟!」



 俺とナヴィ、ウィルが同時にスキルを発動する。

 その攻撃は牢獄(プリズン)をすり抜け、甲冑達に被弾する。

 と、タイミングを合わせたかのように牢獄(プリズン)が解除され、甲冑達が男の前や後ろに倒れこむ。

 一応、レイラにガテツとユア、工房の方に甲冑達が飛んでいった時の備えとして、先回りしておいてもらったのだが、杞憂だったようだ。


 だが、俺は少し難しい顔のまま剣を見つめていた。

 ここに来るまでの道中と言い、やはり剣が一切手に馴染まない。

 それに、放った攻撃も波斬(スラッシュ)であり、火炎波斬(バーンスラッシュ)ではない。

 剣が火炎波斬(バーンスラッシュ)の威力に耐えられないのだ。

 そんな俺を、ガテツはじっと見つめていた。



「っ、ケイン!」

「おわっ!?いきなりどうし……!?」



 突然、メリアが俺の名を呼び、手を引いてきた。

 その顔は、確実に何かを感じ取った顔だった。

 メリアが反応したということは、危険が迫っている何かが近くで起きた、ということだ。

 俺は気持ちを切り替える。



「……なにがあった?」

「あっち、から、嫌な気配、する……!」



 メリアが指したのは、俺達の背後にある森林。

 俺がそちらの方を向くと、丁度数体のゴブリンが草木から飛び出してきた。

 だが、その動きは襲いかかってきた、と言うよりは、何かから逃げてきたようだった。



「何をやっている!さっさと行け!お前もだ!どこ見ていやがる!」



 後ろで男が叫んでいるが、そんな事気にしている余裕は無かった。

 なぜなら、異常の元凶が目視できていたからだ。


 進むのに邪魔だと言わんばかりに、樹木を凪ぎ払う。

 逃げ惑うゴブリンに、頭上からゴブリンの頭程のナニかを振り下ろし、グチャリと音を立ててその命を積む。

 そして、自ら生み出した屍を踏みながら、その歩を進める。



「最悪だ……!ユア!ガテツを安全なところに連れていってくれ!」

「?なぜ……っ!?あれは……!」



 唐突に俺に名を呼ばれ、少し困惑したのかしてないのか良くわからない声を向けたユアが、ようやくその存在に気づいた。


 ゴブリンを遥かに凌ぐ巨体を持ち、巨大な棍棒を振り回し、目の前の物全てを凪ぎ払う。

 こんな里近くにいるはずのない存在が、その姿を現した。



「グォボァァァァァァァァァァァ!!!!」



 その正体はゴブリンの最上位種、ゴブリンキング

 そのランクは、C

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