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72 剣の魂

「さぁ、好きな所にかけてくれ」

「はい。失礼します」

「……あー、堅苦しい言葉を使わんでも良いぞ。気を楽にしたらえぇ」

「分かり……いや、分かった」

「うむ。その方がお前さんらしい」



 ユアに連れられ、俺達は居間らしき部屋へと連れてこられた。

 椅子は全員が座れる数が無かったので、当事者である俺とイブ、それとナヴィの三人が座ることにした。

 反対側にはガテツが席につき、ユアは立っている。

 ……相変わらず、無表情である。



「……さて、お前さんの剣、見せて貰えるか?」

「……あぁ」

「っ、コイツは……!?」



 俺は魔法鞄から剣を取り出す。

 それは勿論、呪い人形(カースドール)との戦闘で半分が粉々になってしまった俺の愛剣である。

 普通の冒険者ならば、そうなった武器は廃棄する者が多いのだが、俺はそうはしなかった。

 やはり、冒険者となった日から、ずっと使ってきた剣なのだ。手放すのは名残惜しかったのである。

 ガテツは、その剣を手に取る。

 剣に触れ、何かを確かめるようにその刃を撫でる。

 暫しの静寂の後、ガテツが口を開く。

 その顔は、少し綻んでいるように見える。



「……お前さん。コイツの事、大切にしていたんだな」

「……分かるのか?」

「分かるさ。大切にしてきたかどうかは、コイツが教えてくれる」


 そう言って、ガテツは再び剣に触れる。


「本来コイツはそう長く扱える程の物ではなかった。なまくらとは言わないが、一年も持つかどうかってところだったハズだ。普通なら、壊れた時点で廃棄するような、な。

 だが、お前さんは違った。コイツに魂を与えていた」

「魂を……?」

「本当に宿っている訳じゃ無いぞ?だが、お前さんはコイツを何度も何度も修理に出して、その度に自分に合うように調整して貰っていた……違うか?」

「っ、そこまで分かるのか……!」

「ワシを甘く見でない。これでもいくつもの武器を作って来たのだぞ?」



 ガテツの言っていた事は間違いではない。

 俺は剣を修理に出す際、少しずつ要望を言っていたのだ。

 それを何度も繰り返し、自分に合う調整をし続けていたのだ。



「それだけ大切にしていたんだ。コイツから嬉しい、楽しい……そんな言葉が聞こえるようじゃわい。それに、ありがとう、ともな」

「そうか……」



 俺は顔を上げた。

 ガテツが本当にその剣の言葉を聞いているのかは分からない。

 だが、少なくともその言葉に嘘はない。

 だからこそ、俺は悔しかった。

 俺が気づいていれば、もっと一緒にいられたのでは……と。

 その思いに気づいたのか、ガテツはニヤリとする。



「そう嘆くな。コイツはお前さんを守ったのだぞ?」

「……守った?」

「言っただろう。元々コイツは長く生きられる剣では無かったと。だが、お前さんの優しさに触れ、お前さんからの愛を受け、先日まで耐え続けた。お前さんを生かす為に。

 ……いつか来る最後の日まで、お前さんを守る為に」



 その言葉を聞き、俺は少し涙を浮かべた。

 我慢していたものが、堪えきれずに出てしまったように。

 俺が涙を拭うと、ガテツが笑みを浮かべる。



「コイツの為に、お前さんは泣けるんだな」

「……ずっと一緒だったからな」

「フッ……そうじゃなきゃ、ワシの武器の使い手として相応しくない」

「……?それは、どういう……」

「お前さんの為に、武器を作ってやる。そう言ったのじゃ」

「っ!本当か……!」

「あぁ。お前さんの為なら、喜んで作ってやろう」



 笑顔でそう言ったガテツを見て、俺は歓喜した。

 だが、同時に少しだけ顔を暗くした。

 新しい武器を得ると言うことは、前の武器―相棒を手放すと言うことなのだから。

 だが、そんな戸惑いはすぐに無くなった。



「フッ、そんな顔をするな。コイツの魂は、まだ生きているぞ?」

「……!?」

「確かに、コイツを修理する事はできん。だが、作り変える事はできる。お前さんがそれを望むなら、な」


 その答えは、言うまでもない。


「勿論だ。一緒にいられるなら、断る理由なんて無い」

「あぁ。任せておけ」



 ガテツが差し出した手を俺はしっかりと握り返す。

 メリア達も、少し微笑んでいる。

 対するユアは……やはり無表情だ。



 *



「それでは明日の朝、ここに来てくれ」

「あぁ。何から何まですまないな」

「良いもんが見られた礼じゃ。構わんよ」



 あの後、今日はもう遅いということで、武器の制作は明日になった。

 宿をどうするか相談していたところ、ガテツがユアを経由して、里の宿を取ってくれた。

 せっかくの好意を無下にする訳にもいかないので、ありがたく受けとることにした。

 ちなみに、かなりの速度で行き来したハズなのに、息切れどころか表情が変わらないユアに少し戦慄したのは言うまでもない。



「それじゃあ、また」

「あぁ。ユア、頼めるか」

「はい。宿まで案内します」



 ユアとは宿まで案内をしてもらい、その場で別れた。

 最後まで、無表情だったのは凄く印象に残っていた。


 そして翌日の朝、俺達が工房に向かっている途中、それは見えた。

 夜だった事もあり、あまり見えてなかった事もあるが、明らかに昨日まで無かった物が工房の前にあった。

 近づくにつれ、その姿はハッキリと見えてくる。


 その正体は、巨大な馬車だ。

 よくあるシンプルな造りの物ではない。

 貴族が使うような、豪華なものだ。

 なぜ、そんなものがこんな場所に……そう思っていると、工房の方から声が聞こえた。



「しつこいぞ!何度言われようとワシはお前なんぞに武器は作らん!」



 ガテツの、少し離れていたにも関わらず聞こえたその声。

 異変を感じた俺達は、すぐに駆け出した。

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