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71 夕暮れの出会い

「この場で、殺す」



 その一言に、メリア達がビクッと体を震わせた。

 その言葉に含めた殺気を感じ取ったからである。

 俺は、逆に殺気を浴びせられたお陰で、冷静になることができた。



「……俺達は山向こうのデッドラインから、ブライビアの紹介でガテツという鍛治職人に会いに来た」

「……それを証明するものはあるのか?」

「あぁ、持っている。だが、それを取り出すには俺が動く必要がある」

「……良いだろう」



 そう言うと、犯人は俺の拘束を緩めた。

 ただ、いつでも首を飛ばせる位置に短剣を制止させる辺り、かなり警戒心が強い者なのだろう。

 俺は、魔法鞄に手を入れる。

 鞄の中で眠っているコダマを見られないよう注意して、中から手紙を取り出す。

 見られたら、何をされるか分かったもんじゃない。



「これが証拠だ」

「……見せてもらう」



 犯人が短剣を首元に突きつけたまま、器用に手紙を受け取る。

 そして、数秒の沈黙の後、俺の首元から短剣が消え、それと同時に俺から犯人が離れた。

 とりあえずは納得してくれた……と思う。



「どうやらこちらの早とちりのようでした。申し訳ない」



 振り向いた俺に、犯人はそう告げた。

 警戒が薄れたのか、先程よりは少し砕けた口調だ。


 その犯人とは、エルフの女性だった。

 まぁ、女性という点は押し付けられたモノから薄々感づいてはいたが、エルフだとは思わなかった。


 エルフは亜人の一種である。

 種としての特長は、全員が金髪もしくは銀髪であること、耳が細長く尖っていること、全員が美男美女であること、亜人の中で最も長命な種であること等が上げられる。

 主に森に集落を作って生活しているが、中には町に出て生活している者もいる。


 改めて見ると、彼女も例に漏れず髪は金色で瞳は緑色、耳も細長く尖っている。

 上半身はビキニタイプの服に、腰辺りで枝分かれした、膝まで届きそうな前が開いた服を纏い、下半身はショートパンツとガーターベルトに少し厚底のブーツに似た靴を履いている。

 

 ちなみに押し付けられていたモノは、ウィルと同等か少し小さいくらいだ。凶器か。



「ん?どうした?」

「あぁいや、エルフだとは思わなくてな。……誤解が解けたのなら良かった」

「一応言っておきますが、まだ私は貴方方を信用した訳ではありません。ですが、客である者を連れていかない訳にはいきません。と言うわけで、貴方方をガテツ様の元へ案内します」

「ど、どうするの?信用されてないようだけど……」

「まぁ、ここで断る方が逆に怪しまれる。ここは素直に従おう。……と言うわけで、案内を頼む」

「分かりました。では、ついてきてください」



 そう言って、エルフが里の方へと歩いていく。

 俺達もその後へついていく。



「……ねぇ、思ったこと、言って、いい?」

「……なんだ?」

「あの人、なんで、ずっと同じ、顔なの?」

「確かに、どうしてだろうな……」



 俺達と話している時から、今歩いている時まで、彼女の顔は全く変化が無かった。

 まるで、感情という物が存在していないような……



「ケイン、メリア。見えてきたわ」

「……ここが、」

「えぇ、キラヒです」



 すでに日が落ちているというのに、以外にも里は明るかった。

 だが、それはあくまで目視できる建物のみ。

 少し奥の方にある牧場のような場所はあまり明るくない。

 恐らく、この辺りが里の人達の集落なのだろう。


 だが、彼女は集落を無視して通りすぎる。

 どうやら、ここではないらしい。

 彼女についていくと、集落から少し離れた所にある、工房らしき建物へと連れていかれた。

 掛けられている看板には、堂々と「ガテツ工房」と書かれている。



「ガテツ様、ただ今戻りました」



 彼女が先行して扉を開く。

 俺達の目に飛び込んできたのは、まさに鍛治場、といった部屋だった。

 だが、一瞬そう見えるだけで、実際には普通の玄関のような部屋だ。

 少しして、奥の方からこちらに向かってくる気配を感じた。



「戻ったか、ユア」

「はい。それと、ガテツ様へ会いに来たという者達を連れてきました」

「ワシに、か?」



 そう言って、ガテツと呼ばれた男は俺達に視線を向ける。

 背は低く、少し小太りで立派な髭を蓄えたその姿は、まさしくドワーフの特長だ。

 ドワーフは人種と似たような寿命の亜人なので、声や髪、髭の状態からして、かなり年長な人なのだと伺える。

 視線を向けられたので、俺が一歩歩み出る。



「お前さん達が、ワシに会いたいとか言うやつか?」

「はじめまして。俺はケインと言います。ブライビアの紹介でお伺いしました」

「ブライビアの……?なにか、証明する物は?」

「それならブライビアからの手紙があります。今は、彼女が持っているハズです」

「読ませてもらおう。ユア、手紙は?」

「はい。こちらに」



 ガテツが彼女―ユアから手紙を受けとり読み始める。

 暫くして、ガテツの口から「ほほぅ」と関心のような言葉が聞こえた。

 そして、俺の元へ歩み寄ってくる。



「読ませてもらった。確かにブライビアの字で書かれているし、押されている印も間違いない。

 お前さん、かなりアイツに気に入られたらしいな。そうでなきゃ、わざわざワシに手紙を書いたりせんよ」


 ガテツは、目線を俺の後ろにいるイブに向ける。


「お前さんがイブ、だね」

「は、はい。はじめまして、ガテツさま」

「そうかしこまらんでもいい。……いい顔だ。初めて会った時よりずっと幸せそうだ」

「はい!」


 まるで、叔父と孫のような関係だ。

 イブも、笑顔で答える。


「……さて、ケイン。お前さんは武器を失ってしまったらしいな」

「……はい」

「どれ、見てやろう。あがりなさい。ユア、案内を」

「はい。皆様、こちらへどうぞ」



 ユアに催促され、俺達はガテツの家へ足を踏み入れた。

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