70 キラヒの里を目指して
「イブ!2体そっちに言ったぞ!」
「わかった!〝炎〟!」
「グギャァァァ!?」
イブが放った炎は見事な起動を描き、襲ってきたゴブリンを焼き尽くす。
その炎を見て、一部のゴブリン達が逃げていった。
残ったゴブリン達は、必死に攻撃するも、俺とナヴィの前に、なすすべもなく倒された。
俺達がデッドラインを出発して三時間。
キラヒの里に向かっている最中に、先のゴブリンの群れに襲われた。
ハイゴブリンなどの上位種無しで群れを作っていたゴブリン達。
当然連携などあるわけもなく、あっさりと撃退することができた。
ちなみに、今俺が使っている剣はデッドラインで購入した物。
質はとても良いのだが、ブライビアの言う通り、俺には合っていないようだ。
やはり、ガテツという人物を訪ねるべきなのだろう。
暫くして、ゴブリンの死体が魔石へと変化していく。
その光景に、イブが「ほへぇ……」と声を出す。
イブは黒を主とした赤いフリル付きのワンピース、ボレロ、ヘッドドレスを身に付けた、いわゆるゴスロリと呼ばれる服装をしている。
ヘッドドレスからは可愛らしい角が見えており、アクセントとして成り立っている。
また、背の方も開けており、しっかりと翼が出せるデザインになっている。
なんでも、これが一番お気に入りの服装らしく、〝自動修復〟と〝適正伸縮〟の二つをガテツに付与してもらった特別製とのことだ。
手に持っている杖は、シンプルな形でありながらも、先端の宝玉しかり、イブの格好にとてもよく合うものになっている。
この杖もガテツが作成しており、魔力制御が困難なイブでも、制御できるようになっているそうだ。
ただ、イブ自身はガテツに会ったことが無いため、直接会うのはこれからが初めてだそうだ。
「……にしても、すごい威力だな……」
「そうね……ゴブリンとはいえ、一瞬で消し去ったんだもの。相当な魔力があるのは間違いないわ」
「素材取れなかったの、ちょっとだけ、勿体無い……?」
「うーん……まぁ、しょうがないっちゃしょうがないけどなぁ……」
イブが見ていたゴブリンの死体は、俺達が討伐した個体である。
イブは杖を使ってもまだ威力の調整が出来ていないらしく、先のように一撃で跡形もなく消し飛ばしてしまうのだ。
何度か経験を重ねれば、おのずと加減できるようになるだろう。
だが、それまでは……
「……まぁ、今は我慢しよう」
「そうね」
「うん、それがいい」
俺達は無言で頷いた。
*
「うーん……しょっ……とっとっと……」
「むむむ……歩きづらい、ですわねっ」
「大丈夫かー?」
「んっ、大丈夫、です!」
「ちょっと、辛い、ですわっ」
ゴブリンとの戦いからさらに二時間。
俺達は目印にしていた山を少し登った場所にいた。
山には岩や木の根で溢れており、凹凸が激しく、まともに立てる場所が少ない。
そのため、身体能力の高いメリアや、宙に浮けるナヴィとレイラは問題なく動けるのだが、ウィルとイブはこういった場所に慣れていないらしく、上手く前に進めないようだ。
と、ここで先行していたレイラから、救いの手が差し伸べられる。
「おーい!開けた場所があったよー!」
「おっ、丁度いい。そこに向かおう。案内を頼む。……あと、ウィルを念力で運んでくれ」
「オッケー任せて!」
「えっ、ちょっ!?」
俺の指示の元、レイラが念力でウィルを持ち上げる。
突然の事で困惑したウィルだが、暴れたりはしなかった。
そして、そのままレイラの案内で、開けた場所へと向かう。
「あのー、なんで私は持ち上げられているんですの?」
「さっきから先行した三人に追い付こうと無理に歩いていただろ?それのせいで、少し足を痛めた……違うか?」
「っ、気づいていましたのね……」
「ウィル、無理に急がなくてもいい。自分のペースで歩いてくれ。誰も置いていったりしないからさ」
「わ、分かりましたわ……」
やがて、レイラの言う開けた場所に到着した。
そこは丘のような場所となっており、すでにメリアとナヴィが居た。安全を確保しておいてくれたようだ。
「あ、ケイン」
「やっと来たわね」
「待たせたようですまない。それとメリア、ついて早々悪いが、ウィルの足を見てくれないか?」
「ん。わかった」
レイラが丁度平らになっている場所にウィルを下ろす。
そして、駆けてきたメリアが、ウィルの足の様子を調べ始めた。
ウィルは、メリアに任せれば問題ないだろう。
「……さて、場所も良いし、ここらで飯を食べておこう。ナヴィ、頼む」
「えぇ」
そう言って、ナヴィが〝収納〟スキルを発動。
中から、テーブルや調理台、調理器具などを出していく。
その光景を見て、驚いた者が三人。
「えええ!?」
「テーブルやお皿が、空から……!?」
「ナヴィ!いったいどこから出したんですの!?」
「あ、言ってなかったっけ?」
そう言えば、テドラに入ってから一度も自炊してなかったなぁ……と思いつつ、三人に説明する。
三人とも終始驚いていたが、すぐに納得してくれた。
ちなみに、テーブルや野営用のテント等は全てナヴィの〝収納〟の中にある。
俺とメリアの魔法鞄には入らないからである。
「さて、久々に作るわけだが……どっちが作る?」
「そうねぇ……最後に作ったのが大体一週間前くらいだし、今日は手分けして作るのはどうかしら」
「んじゃあ、そうするか」
二人で作る事に決まったので、準備に入る俺達に、イブが質問をしてくる。
「あの、ケインさまとナヴィさまが作るのですか?」
「あぁ。俺とナヴィは料理が出来るからな。メリアは……昔は出来たらしいぞ。うん」
メリアが少し落ち込んだのが遠目に見えたので、少しフォローしておく。
……まぁ、事実メリアの作った料理は料理とは呼べないので、無駄でしかないのだが。
「じゃあ、イブも手伝っていい?」
「んー……どうする?」
「良いんじゃない?危ないことは私たちがやれば良いわけだし」
「じゃあ、お願いしよう」
「やったぁ!」
その後、回復したウィルも手伝いに入ろうとしたものの、「料理ができるのか、ですの?なんとかなりますわ!」の一言で却下されたのはまた別のお話。
*
「さて、地図によると、そろそろ見えてくる頃だ」
「もうなの?以外と近かったわね」
「もう少しで日が落ちそうだけど、ね」
昼食後、弧を描く形で山の反対側まで来た俺達は、ようやく目的地であるキラヒの里付近までやって来た。
道中何度かモンスターに襲われたが、その全てが低ランクモンスターだったので、イブのスキルの練習相手になってもらった。
もれなく全員消炭になったのだが……
そんなわけで、殆どの戦闘をイブに任せた結果、辿り着く頃には日が傾いていた、というわけである。
「そう言えば、キラヒについたらどうするんですの?」
「あぁ。まずは宿探し、それからガテツの所「動くな」へ……っ!」
突然、何者かが冷たい声と共に俺の背後に現れ、俺を押さえつけてきた。
首には短剣が突きつけられ、下手に動けば首が切れてしまうだろう。
「……!?ケイ」
「動くな。動けば……」
「っ……」
メリア達が助けようとするが、俺に突きつけた剣を見せつけられ、動けなくなる。
俺は、少しパニックを起こしていた。
理由は二つ。
まず、五感の強いメリアに一切気取られずに俺を捕らえ、首に剣を突きつけた事。
そして、俺が捕まった時。それは、「ガテツ」の名をだした時だということ。
つまり、この者はガテツに関わる人物だということ。
なぜこんなことをされているのかは分からないが、それは確定と見て間違いないだろう。
ちなみに、パニックになっている理由はもう一つあるのだが、それは考えないでおこう……
俺に剣を突きつけた人物が、口を開いた。
「お前達、雇い主になんの用だ?もし奴の手の者だと言うならば……」
何者かは、さらに声を低くして言い放つ。
「この場で、殺す」
新章「キラヒの里編」開幕です。
ここ最近は少し忙しくて更新が遅くなってますが、少しずつ書いていきますのでよろしくお願いします。




