表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
67/414

66 呪い人形 その1

 ―一年前、ギルド内資料室にて―



「……人の持つ負の感情を食らい、その力を増す性質を持つ、ねぇ……」



 一人しかいないその部屋に、ケインの声が響く。

 ケインは今、今後のための知識を蓄えている最中であった。



「生息場所、及び発現条件は不明。ただし、人の負の感情が強い場所ほど多く発見されているため、人の感情こそが発現条件と考えられている……」



 いつか対面するかもしれない。

 その一心で、ひたすらに読んでいく。



「負の感情をあまり取り込めていない個体は普通の人形に化け、人の負の感情を食らう事がある。負の感情を取り込めば取り込む程その個体は大きくなり、強大な力を得るモンスター……」




 ***




呪い人形(カースドール)……クソッ、こんな時に出会うとは……」



 俺は、頭をフル回転させて、敵の情報を引き出した。


 ―呪い人形(カースドール)

 負の感情を取り込む程に力が増し、巨大化していくモンスター。

 人形に擬態し、負の感情を食らう事から名付けられたそのモンスター……そのランクは、驚異のB。

 生態から発現条件、強さまでもが予測不可能な事から、Bランクという位置付けにされている。


 そんな凶悪なモンスターが、今目の前で立ち塞がっている。

 運が悪いにも程がある。

 恐らく、この屋敷に残っていた負の感情か、子供達の不安や恐怖に反応して現れたのだろう。

 いずれにせよ、最悪な事態であることには変わりがない。



「はぁ……はぁ……や、やっと……追い付き、ましたわ……!」

「ケーイーンー?いきなり走るだなんて聞いてな……って、なんじゃコイツはぁぁぁぁぁぁ!?」

「ふぇっ!?で、でっかい人形さん!?」

「ど、どど、どーゆう状況ですの!?説明を求めますわ!?」



 後ろの方から、追い付いてきたウィル達の驚きの声が響く。

 だが、振り向いたり返事を返している暇はない。

 すでに敵は、こちらを叩き潰す気なのだから。

 ゴウッ、という音と共に、呪い人形(カースドール)の腕が迫ってくる。

 俺とナヴィは左右に別れ回避する。

 人形とは思えないその一撃は、獲物を失い床に叩きつけられる。

 その一撃だけで屋敷全体が揺れ、一瞬全ての物体が浮いた。

 それはウィルや防壁(バリア)の中にいたメリア達も例外ではなく、ウィルに至ってはバランスを崩して尻もちをついてしまった。


 それでも、敵の勢いは止まらない。

 狙いを手負いのナヴィに定めると、グリンッと向きを変え、連続で殴りかかる。

 ナヴィも必死でかわすが、ケインが来るまでに受けたダメージと疲労感で、だんだんと追い詰められていく。



「はぁ!」



 俺は狙いをこちらに向けるべく、呪い人形(カースドール)の背後から切りつける。

 呪い人形(カースドール)は一瞬だけ体を仰け反らせたものの、すぐに体勢を持ち直し、ナヴィを狙おうとする。

 だが、ナヴィは仰け反った一瞬で、腕がすぐに届かない場所まで移動していたため、俺の思惑通り、俺に狙いを定めてきた。

 俺が回避に専念している間に、ナヴィがメリアの元に辿り着く。



 *



 メリアとナヴィが呪い人形(カースドール)と対面したのは、丁度エントランスに子供達とやって来た時である。

 階段を下り、進もうとした矢先に、扉を壊して入り込んできたのだ。


 呪い人形(カースドール)はメリア達を見つけると、一切の迷い無く襲いかかってきた。

 だが、メリアが防壁(バリア)を張り、初撃を防いだ事で、勢いよく飛びかかった呪い人形(カースドール)は、反動で体勢を崩した。

 そこにナヴィが飛び込み、影の槍(シャドウランス)の一撃を叩き込む。

 ナヴィもメリアも、それで倒せると思っていたのだが……ソイツは倒れなかった。


 メリアに子供達を任せ、ナヴィは何度も攻撃を仕掛けていった。

 だが、何度撃ち込んでも呪い人形(カースドール)が倒れる気配は無く、むしろ少しずつではあるが、確実に攻撃を入れてくる。

 最初こそ圧していたナヴィだったが、だんだんと追い詰められていく。


 いつしか、ナヴィは一切の攻撃もできない程追い詰められていた。

 致命傷は避けているが、すでに何十発と入れられている。そのため、飛んでいるのもやっとなほどだった。

 そして、ついに叩き落とされた。


 やられる!


 ナヴィはそう感じ、心の中で彼を呼んだ。

 して、その思いは―



 *



「はぁ……はぁ……いっ!?」

「ナヴィ、しっかり……!」

「だ、大丈夫……それより、お願いできる?」

「で、でも、休んだ方、が……」

「ケインが換わってくれたから休む、なんてできないわ……私もすぐに加勢しなきゃ、っ……!」

「だ、ダメ……!暫く動か、ないで……!」

「で、でも……!」



 ずっと一人で相手をしていた為、ナヴィの怪我は大きく、メリアが回復(ヒール)を使ったとしても、すぐに動けるようになる訳ではない。

 だが、ナヴィはまだ戦おうとしている。

 なので、メリアは切り札を口にした。



「……ナヴィ、ケインが言ってた。「ナヴィを戦わせないでほしい」って」

「……!?」

「それと、こうも言ってた。「これ以上戦ったら、ナヴィが壊れてしまうかもしれない。それは、俺達が望んでいる事じゃない」って」

「……」

「ナヴィ、ここは任せよ?私も、ナヴィにこれ以上戦わせたくない」

「……分かったわ……」



 真剣な表情を見せているうえに、仲間のみの場所でないと見せない、本来の喋り方になっているメリアの言葉を聞き、諦めたようにナヴィは頷いた。


 本当はまだ戦いたい。ケインと、皆と共に戦いたい。でも、これ以上怪我をした体で戦っても困るのはケイン達であると、自分に言い聞かせた。

 それでも、悔しい気持ちが無いわけではなかった。



(もっと……もっと強くなりたい……!)



 ナヴィは、心の中でそう願った。

 だが、その願いの根本に、彼への思いが含まれていることには、まだ気づいていない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ