64 イブのおうじさま
イブがうまれたのは、10ねんまえ。
かっこいいパパと、やさしいママにかこまれて、イブはそだてられました。
かまってほしくて、よくないていたそうです。
イブが1さいになったとき、はじめてブライビアおじさんとであいました。
パパとおじさんはだいのなかよしなのですが、とうじのイブはなんのことかさっぱりでした。
それからおじさんは、ちょくちょくおうちにきては、イブとあそんでくれました。
なんどもあそぶうちに、どんどんなかよくなっていました。
*
ある日、こんどはイブがおじさんのおうちへいくことになりました。
なんでも、「おしごと」でいくとかなんとか。
そのときのイブにはよくわかんなかったけれど、たいせつなことだとおしえられました。
おじさんのおうちは、とても大きかったです。
イブのおうちが、なんこもはいりそうなくらい大きかった。
イブが目をぱちくりしていると、めのまえにおじさんじゃないおじさんがたっていました。
「しつじ」っていってたけど、イブにはなにがなんだか……
「ん?この作物、今年はやけに少ないな?」
「なんでも、大嵐で畑の大半がやられたそうです。自分達の分をギリギリまで減らしても、これが限界だそうです」
「ふむ……ならば仕方ない。今年は値を上げて売るとしよう。なに、納めてくれた作物は全て商品として申し分ない」
パパがおじさんとあうやいなや、むずかしいことばではなしはじめました。
あれが「おしごと」だといわれましたが、やっぱりイブにはよくわからなかったです。
パパがおしごとをしているあいだ、さっきのしつじさんがあそんでくれました。
しつじさんがもってきてくれたものは、イブがみたことのないものばかりで、目をキラキラさせていたらしいです。
しばらくして、パパとおじさんがへやからでてきました。
おそとはすでにまっくらで、「遊ぶ時間を作れなくてすまない」といわれたけど、たいせつなことだといわれていたので、わらって「だいじょうぶ」といいました。
おじさんはおわびといって、一さつのほんをくれました。
タイトルは、「クリスティア伝記」。
おうちにかえって、そのほんをよんでもらいました。
ママは「イブにはまだ早そうな本ね……」とすこしこまったかおをしましたが、イブがジッとみつめていたら、「しょうがないか」といって、よんでくれました。
はじめてきいたときはママのいうとおり、イブにはよくわからなかったです。
でも、なんどもきいているうちに、どんどんすきになっていきました。
どんなにくるしくても、どんなにつらくても、ぜつぼうからすくってくれるおうじさまが、とてもかっこよかったです。
そのころからイブは、いつかイブのおうじさまがむかえに来てくれる、というゆめをみるようになりました。
やさしくて、かっこよくて、みんなに好かれている。そんなおうじさまが、イブをたすけてくれる。
そんなゆめを。
それは、いつかかなうものだとおもっていました。
でも、しあわせなせいかつは、とつぜんおわってしまいました。
おじさんの家からのかえり、パパとママの体から、ぎんいろの何かがとびだしてきました。
それがおさまると、パパもママも、たおれてピクリともうごかなくなりました。
わたしは、パパをおこそうとして、近よりました。
そして、パパにふれたとき、その手にとても冷たいものがたくさんつきました。
それは、パパの血でした。
そのあとのことは、なにも覚えていません。
*
イブが目を覚ましたのは、それから一ヶ月後だったそうです。
イブは、目覚めてすぐにパパとママをよびました。
でも、返事はかえってきません。
パパもママも、すでに亡くなっているからです。
本当はわかっているのに、もう会うことはできないのに、イブは何度もよびつづけました。
それでもやっぱり、返事はかえってきませんでした。
その日からイブは、色々なものを失いました。
笑うことも、泣くことも、怒ることも、しゃべることもしませんでした。
心にぽっかりと空いた穴が、イブを苦しめました。
おじさんの家にひきとられても、それはかわりませんでした。
でも、一つだけ無くしていなかったものがありました。
それは、イブの夢でした。
それは、おじさんが読み聞かせてくれた本が思いださせてくれました。
その本はもちろん、「クリスティア伝記」でした。
そのお話を聞いたとき、イブの心のすみから、イブの夢が顔をのぞかせました。
その日からまた、おうじさまがむかえにきてくれる夢を見るようになりました。
きっと、つらい今だからこそ、そんな夢を見るようになったんだと思います。
それからしばらくして、お外にでてみようと思いました。
おじさんについていって、あの町を見てみようと思いました。
町は、すごく元気がよかったです。
前とまったく変わらない、にぎやかな町でした。
それでも何も思うものがないのは、パパとママがいないからだと思います。
それから何度かお外にでるようになって、いろんなものを見ていました。
それでも、イブには色あせて見えました。
きっと、がんばったものなんだろうけど、イブにはどれも同じものにしか見えませんでした。
*
そして昨日、おじさんにお客さんが来ました。
それは、おじさんの親友さんの子供、ビードお兄さん達でした。
でも、イブの目がひきよせられたのは、ビードお兄さん達ではありませんでした。
その後ろから、男の人と、何人かの女の人がやってきました。
とくに何かあるわけでもないのに、イブはその人達から目がはなせませんでした。
そのひとたちをジッとみていると、男の人と目が会ってしまいました。
イブは思わずかくれてしまいました。
なんでかくれたのか、イブにも分りませんでした。
それからしばらくして、へやの近くでおじさんと何人かの声がしました。
イブがこっそり顔をのぞかせてみると、さっきの男の人と、ふたたび目が会ってしまいました。
けれど、近くにいた緑の髪の女の人にも見つめられて、思わずとびらをとじてしまいました。
本当に、なんだったのでしょうか。
その人達は、しばらくおじさんの家にいることになりました。
それは、イブにはかんけいないことのはずなのに、なぜか心がざわざわとしていました。
*
そして今日、イブが一人で部屋にいると、とつぜん窓がわれて、おっきなおおかみさんがあらわれました。
そのおおかみさんは、イブにいきなりたいあたりをしてきました。
イブは、あの日ぶりに、気を失ってしまいました。
イブが少し目をさましたとき、イブはお客さんやお兄さん達ではない、まったく知らないだれかにおひめさまだっこされていました。
それがとても気持ち悪くて、逃げだそうとしましたが、体が動きません。
まだ体が、自由に動かせるまで回復できていないのでしょう。
イブには、どうすることもできませんでした。
ベットに寝かされたイブは、そのまま意識を再び闇の中へ落としてしまいました。
*
どれくらい経ったのでしょうか。
おぼろげな意識の中で、必死にイブの名を呼ぶ声が聞こえてきました。
どこかで聞いたことのあるその声は、イブのすぐ近くで鮮明に聞こえていました。
意識を取り戻したイブは、その目を少しずつ開いていきました。
そこには、知らない誰かではなく、昨日やって来た男の人がいました。
イブが目を覚ました事に安堵したのか、男の人は一言「良かった……」と言って笑ってくれました。
イブの胸の奥が、トクンッと脈打ちました。
昨日初めて見ただけなのに、会話もしていないのに。
イブの心が、とても暖かくなっていきます。
そして、イブは思いました。
この人が、イブのおうじさまなんだ、って。
優しくて、かっこよくて、誰にでも好かれている、そんなイブの理想のおうじさま。
目の前にいる人こそ、イブが会いたいと願い続けてきたおうじさまだと。
「おうじ、さま……!」
そう気づいた瞬間、イブは思わずそう叫んで飛び付いていました。
おうじさまが、驚いて動かなくなってしまったことなんて知りません。
後ろにいた、二人のお姉さん達が顔を赤くしてワナワナしているのも知りません。
イブは涙を流しながら、おうじさまに必死にしがみついて放しませんでした。
パパ。ママ。
イブは、ようやくみつけました。
イブのおうじさまを。こころゆるせるひとを。
イブのおうじさまは、きっとイブだけのおうじさまではないとおもいます。
でも、それでもいいのです。
イブは、このひとといっしょにいたい。
そう、おもえたから。
今回のお話はイブ視点のものになります。
イブの年齢にあわせて漢字をつけるのに苦労しました(作者、心の叫び)




