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61 隠れた刃

「フハハハハ!俺をヘンタイ呼ばわりした罰だ!」



 男が憎たらしい笑みを浮かべて笑う。

 そんな男を気にしつつも、ウィルを捕らえたものの正体を見やる。


 それは、触手だった。

 ウネウネと動き、それとなくゼリー状になっており、ウィルを完全に押さえつけていた。

 ウィルも正体が触手だと知った途端、顔を青ざめた。

 その理由は、推して知るべし。


 余程嫌だったのか、ウィルはすぐにスキルを使って脱出しようとする。

 が、発動するどころか、むしろ魔力が霧散していく感触を覚えた。

 思わず驚きの声をあげたウィルに、男が得意気に語り出す。



「ハッハッハ!ソイツは俺が作った特殊な生命体でなぁ?日光が無い場所、かつ魔方陣を介さないと呼び出せないかわりに、捕らえた相手の魔力を乱れさせて、魔力系のスキルの使用を阻害することができるのさ!」

「なんっ、ですっ、て!?」



 先程から何度もスキルを使おうとしていたウィルが辛そうに叫ぶ。

 どうやら体の中の魔力まで乱されているらしく、心身共に辛そうな表情をしている。

 ウィルの辛そうな声を聞き、男が高笑いをする。


 それが、我慢ならなかった。


 俺は、ウィルを助けるべく動きだす。

 ウィルが叩きつけられた場所は、俺と男が立っている場所の、丁度半分あたりの位置だ。

 罠があると知りながら突っ込んできた俺を見て、男が少し動揺するが、すぐにニヤリと笑みを浮かべる。



「はっ、バカめ!ソイツの二の舞になりに来たか!やれ!」



 男の号令で、俺の近くの罠からウィルを捕らえている触手が現れ、俺に向かってくる。

 中には俺の死角から襲ってくるものもいた。


 だが、見えていればどうってことはない。

 俺は、事前に魔力眼で罠の位置を全て把握していた。

 触手の軌道こそ読めないが、ウィルを捕らえている触手から魔力の流れがあることを確認していた俺は、魔力眼の反応のままに剣を振るう。

 振るった剣は、襲ってくる触手を次々と切り伏せていく。


 嘲笑うかのように立っていた男も、全く動じずに切り伏せていく俺を見て唖然となった。

 このままでは不味いと判断した男は、自分の近くに張っておいた罠を起動させる。

 少しずつ前進していた俺だが、触手の追撃の処理に手間をとられ、あと少しというところで足止めさせられてしまった。



「くっ、このぉ!」



 声を荒げ、襲いかかってくる触手を切り伏せる。

 だが、いくら倒しても男が次から次へと触手を呼び出すため、中々進めない。

 そこで再び男が笑みを浮かべる。



「ハッハッハ!どうしたどうしたぁ!助けるんじゃないのかぁ!?」

「くっ、」



 男が俺を煽り、俺のミスを誘ってくる。

 それはそうだろう。

 男からすれば、地下に侵入した()()の内一人はすでに捕らえている。

 もう一人の俺さえ押さえれば、もう邪魔者はいなくなる―そう、考えているのだろう。


 だから、意表をつけるというものだ。

 俺は魔法鞄から短剣を取り出すと、触手の隙間から男に向かって投擲する。

 勿論、その短剣は触手によって弾かれ、男に届くことはない。



「はっ、無駄な足掻きを……!?」



 男が言葉を詰まらせる。

 なにせ、弾かれたはずの短剣が、()()()()()()()()()()()()()蠢き、罠を直接攻撃してきたからだ。

 短剣による攻撃で、形を保てなくなった罠が消え、そこから伸びていた触手も同時に消える。

 短剣は、一つの罠に留まらず、次々に罠を攻撃し、解除していく。

 数が少なくなった為、俺を足止めできるまでの勢いがなくなり、俺は再び前へと進んでいく。


 男が慌てて罠を増やそうとするも、ガクッと片膝を地につける。

 魔力不足だ。

 普通、魔力を使った罠は一発限りの威力重視の物が一般的なため、設置時の魔力消費だけで済む。

 しかし、今回のような罠であれば話は別だ。


 この触手達は、罠を介してこちらにやって来ている。

 罠を維持できなければ、触手も存在を保てなくなる。

 そのため、術者は罠を維持しておくために、発動後から常に魔力を消費する事となる。

 今回はウィルを捕らえておくため、そして俺の進行を抑えるためにかなりの数の罠を起動させた。

 そのため、男の魔力はすでに限界近くとなっていたのだ。


 男が倒れた隙を俺は逃さず、一気に詰め寄ると、ウィルを拘束している触手を切り裂く。

 ウィルの四肢が自由となり、胴を捕らえていた触手も、短剣が罠を切った事により消滅。

 支えを失ったウィルが、前屈みに落ちてくる。

 俺は咄嗟に剣を左手に持ちかえ、右手でウィルを受け止める。



「……ケイン、申し訳、ありませんわ……」

「いや、無事ならそれでいい」



 魔力を乱された影響でまともに立っていられないのか、もたれかかったままのウィルから謝罪の言葉が出てくる。

 ウィルが怒りに任せて突っ込んだのは確かに悪かったかもしれない。

 だが、だからといってウィルを責めることもできない。

 俺も、似たような気持ちだったからだ。

 冒険者である以上、感情に任せた行動はするべきではないと知っていても、難しいものなのだ。


 と、そこに口を挟む者が一人。

 無論、例の男だ。



「くっ、なんなんだよお前らぁ!」

「なんなんだって、ただの冒険者だが?」

「あり得るかぁ!大体、なんだその短剣!一体どんな仕掛けをすりゃそんな正確な動きができるんだよ!?」



 男が、俺の側で浮遊する短剣を指さす。

 どうやら男は、この浮遊する短剣は魔道具か何かだと勘違いしているようだ。



「これはただの短剣だ。仕掛けなんて1つもない」

「馬鹿言え!そんなはずは「そうそう、タネも仕掛けもありませーん!」……!?」



 男の言葉を遮るように、()()()()()()()()()()()が声をあげる。

 そして、気配を戻して自らその正体を現し、その正体を見た男が「なっ!?」と声をあげる。


 その正体とは、隠蔽(インビシブル)で姿を消していたレイラのことだ。

 俺達が男と対峙したとき、レイラは姿を消していた。

 そのため、男が確認できた侵入者は二人。つまり、()()()()()()()()()()()

 ならば、それを利用すればいい。


 レイラには、男が悠々と語っている間に部屋の様子を見てもらっていた。

 レイラの隠蔽(インビシブル)は、本気になれば気配すら完全に消し去る事ができる。

 そのため、男が張っていた罠にも関知されることはなく、部屋へと侵入することができた。

 レイラから聞いた話によれば、イブは意識はあるものの目覚めておらず、先程の触手ではないが、別の物に体を縛られており、助け出す事はできなかったようだ。


 そして、戻ってきたレイラの次の役目が、先程の短剣操作。

 レイラは未だ視認されておらず、また、ゴーストであるため触手の攻撃を受けない。

 まさに意表をつくには持ってこいだった。



「な、なんじゃそりゃあ!?」



 イブの事は言わず、短剣の事について軽く説明してやると、男が怒りを含めたような声を出す。

 なにせ、自分を欺くために、初めから戦力を隠されていたのだ。

 それは、俺達を追い詰めるために煽ったり罵倒したりしていた男が言えた義理では無いのだが……どうやら、そこが沸点では無いようだ。

 男は、その原因を口にした。


 だが、そこで男はミスを犯した。

 怒りによって、そして何よりも、()()()()()()()()()()という事実が、男の判断力と観察力を鈍らせた。


 ―普通のゴーストに、ハッキリとした意識と意志は、あるはずが無いというのに。



「クソが……!どうして俺が、そんな()()()()()()()()()()()()()()()()()に翻弄されなきゃいけないんだ……!」

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