表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/413

55 誘拐事件 その1

「グルアァァァァァ!!」



 俺達の目の前に現れたガビューウルフは、まっすぐウィルの方へと飛びかかった。

 ウィルも咄嗟の事で反応が遅れたが、(ウォーター)を発動した。

 だが、発動が遅れたため、水球の形になりきらない。

 そうしている間にも、ガビューウルフはウィルに噛みつかんとしている。


 だが、俺の存在を忘れてもらっては困る。


 俺はガビューウルフがウィルに狙いを定めるや否や、体の向きを変えてガビューウルフの横から攻撃できる体勢を取る。

 そして、ガビューウルフの頭と、俺の剣の軌道が重なった瞬間、俺は切り上げる形で剣を引き抜いた。


「はぁっ!」

「グルォ!?」


 剣は確かに首に届いたものの、踏み込みが浅かったため、首を切り落とすことはできなかった。

 だが、今俺の剣は、ガビューウルフの喉元に突き刺さっている。

 その一瞬を、ウィルは逃さない。

 気持ちを切り替え、一瞬で水球を形どると、ガビューウルフの口めがけて(ウォーター)を放つ。

 放たれた(ウォーター)は、ガビューウルフの口の中に入り、爆発を起こした。

 その爆発によってガビューウルフの頭は潰れ、その命を絶った。


 辺りに少量ながら血が飛び散る。

 その血は、近くにいた俺達に少しこびりつく。

 俺はあまり気にしなかったが、ウィル「いやぁぁぁぁぁぁ!?」はこういう様子だ。

 俺は刺さったままの剣を引き抜き、付いた血を振り払い、そのまま鞘にしまう。



「うぅ…油断しましたわ…」

「まぁ、しょうがない。俺だって驚いたからな」

「そのわりには、冷静だったではありませんの?」

「まぁ、冒険者だし、こういったことはよく起きてたからね」

「その「冒険者だから」って言い訳、便利そうですわね…」

「言い訳のつもりは無いんだが…」



 そんなことを言い合っていると、不意にそれは目の前に現れた。



「あれ…ケイン?」

「メリア?ナヴィ?」



 俺達の目の前に現れたのは、胴を掴まれた状態で宙に浮くメリアだった。

 メリアを掴んでいるのは、勿論ナヴィだ。



「丁度良いわ!二人も来て!」

「早く…!」

「ちょっ、待てって!」

「説明!説明を求めますわー!」



 メリアに手を掴まれ、半ば強引に連れていこうとする二人に、ウィルが説明を求める。

 とりあえずついていく事を承諾し、手を放してもらい、そのまま走りながら事のいきさつを聞くことにした。



「いてて…で?一体どうしたんだ?」

「誘拐よ。何人か子供が誘拐されたの。その中には、イブも含まれているわ」



 ナヴィは手短に、簡潔に話始める。

 時間はおよそ10分ほど前。

 ケインとウィルが、森に入っている頃まで遡る。




 ***




「ふむ…これも良いですね」

「だねぇ…」

「…うぅ…」



 ナヴィとレイラの目の前にいるのは、紛れもない美少女だった。

 幾度とないほどの着せ替えをさせられ、現在は白を主としたワンピースを着せられ、羞恥心に身悶えている美少女。

 そう、メリアだ。


 今メリア達は、デッドラインにあるブティックにいた。

 ケインと別れた後、三人は各々町を見て回っていたのだが、偶然このブティックの前で鉢合わせたのだった。

 そして、レイラの「せっかくだし見ていく?」の一言で入店した。

 そして、暫くは何事もなく服を見ていたのだが…

 メリアの事情をまだ聞かされていないレイラが、メリアの服を選んで持ってきた事で、状況が変わった。


 レイラが持ってきたのは、メリアがいつも着ている少しブカブカとした服ではなく、袖が短くて可愛らしい服だった。

 それに、スカートも普段のものより断然短い。

 メリアにとっては、露出の高すぎる服装であった。


 勿論、メリアは断ったのだが、レイラは即座に念力(サイコキネシス)でメリアを捕まえると、試着室に放り込んだ。

 メリアが言い返そうとレイラを見ると、それはもう期待しまくって目を輝かせているレイラが映った。

 これには思わず「うっ」となってしまうメリアだった。



「さぁさぁ!着てみてよ!」

「いや…でも…」

「はぁ…一度着てみたら?そしたら満足すると思うけど?」

「!?」


 メリアが近づいてきたナヴィを見る。

 「裏切られた!?」と言わんばかりの顔をしているメリアだが、ナヴィは淡々と告げる。


「周りには他の客は居ないし、今は店員も近くに居ない。私が見張っておくから、メリアはそれ、着てあげなさい」

「でも…」

「分かってる。でも、レイラも仲間なんだから、知ってもらう必要はあるでしょ?」

「それは…そう、だけど…」

「まぁ、私も着飾ったメリアが見たいってのが本音だけど」

「!?」



 再び驚愕の顔になるメリアを差し置いて、今か今かと待ちわびている。

 メリアは少し周りを見渡すと、小さくため息を吐いたのち、試着室のカーテンを閉めた。


 そろそろ着替え終わった頃だろうと思ったレイラが、メリアに声をかける。



「おーい?着替えたー?」

「…」

「おーい?」

「…無理…」

「え?」

「これ…恥ず、かし…無、っ」

「そんなこと言わずに見せてよ~」

「やっ…もう、着替えっ」

「ええぃ!見せなさーい!」

「!?」



 見せるのを渋り、一行にカーテンを開けようとしない所か、見せずに元の服に戻ろうとするメリアにしびれを切らしたレイラが念力(サイコキネシス)でカーテンを素早く開ける。

 いきなり開けられたことに、メリアは思わずビクッと少し跳ねた。

 そして、そのメリアを見たレイラの一言目はというと



「なんやこの美少女」



 だった。


 襟と袖の部分に淡い青のフリルがあしらわれた、白ベースのシャツ。

 空色をベースに、白のラインが施されたプリーツタイプのミニスカート。

 それに加え、ナヴィが持ってきていた、青いリボンが装飾された白いベレー帽を被っている。


 まさに絵に描いたような、美少女がいた。



「「おぉ…」」

「っ~!」



 後ろを向いたまま、羞恥心でうずくまるメリア。

 その腕は「見られたくない!」と言わんばかりに隠しているつもりのようだが、先ほど開けた際にバッチリ見られていた。

 勿論レイラに追求されたのだが、ナヴィの


「この場で言うことはできないから、後で必ず説明するわ」


 の一言でとりあえず追求は止まった。

 そして、完全では無いものの、秘密を知られた以上は隠す必要も無くなったメリアが、着替えるために渋々立ち上がった。


 が、そこからがメリアにとっての地獄だった。

 なにせ、レイラが「これも似合うんじゃない?」「こっちもいいと思うんだけど!」と次々に洋服やスカートを持ってくるのだ。

 これにはさすがのナヴィも止めようとしたのだが、そのチョイスがまた最高だった。

 そのため、ナヴィも強く止めようとはせず、結局メリアは着せ替え人形のように次々と洋服を着させられたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ