54 ウィルの力
「うんまぁ…これ…」
「はぐ…むぐ…」
「お口に合ったようで何よりです」
「すみません。わざわざ作って頂いて…」
「いえいえ、お気になさらず」
現在、夜の晩餐中。
目の前には、見るからに豪華な料理がずらりと並んでいた。
ただし、俺の部屋で。
というのも、最初は普通に食堂で食べるつもりだったのだ。
ただ、ひとつ問題が起きてしまった。
ウィルが少し疲労で倒れてしまったのだ。
思えば、話を聞いている間も、ウィルだけ少し顔色が悪かった。
そんなわけで、すぐに部屋に連れ込み、ウィルを横にしてメリアに回復をかけてもらった。
暫くして、ウィルは元気になったのだが、すでに時刻は深夜間近。
当然、食事の時間など当に過ぎていた。
そこで、自前の軽食で済ませようと思ったのだが、そこに待ったをかけたのがサグリヴァだった。
彼は厨房から今夜のテーブルで出た料理を持ってきてくれたのだ。
勿論、ウィルの事も考えて、胃にやさしめなものをチョイスして持ってきている。
「ふぅ…ごちそうさまでした。えっと…」
「あぁ、こちらで片付けておきますので」
「しかし…」
「ここでは貴殿方はお客様です。ならば、我々にはきちんと接待する義務がございますので」
「…わかりました」
食器の片付けをサグリヴァとメイド数人に任せ、俺はウィルを隣の部屋に連れていく。
ちなみに、メリアやナヴィ、レイラがいるのになぜ俺が連れていったのかというと、ウィルが俺を指名したからだ。
何故?と思ったが、深く考えるのも悪いと思ったので、背負って連れていくことにした。
背負った際、柔らかいものを押し付けられた気がしたが、それも気にしないことにした。
…気になって仕方がなかったのは男の性だろう。
*
翌朝、ブライビアに大丈夫だったかと聞かれ、元気そうなウィルを見てホッとされたり、例の部屋の前を通ったときに、また覗かれているような視線を感じつつ、俺達は港へと向かった。
用件は、ビード達の見送りだ。
ビード達は、俺達と違って今日デッドラインを発つ事になっていた。
「おっ、ようやく来たか」
「ウィルさん、元気になられたようですね。良かった…」
ビード達は、すでに荷物を船に乗せ終えており、ここで俺達を待っていてくれたようだ。
「悪い。少し家主に捕まってな」
「まぁ、それだけ心配してくれたってことだろ?気にするな」
「あぁ、そうだな」
すぐそばで、メリア達はセーラと話し合っている。
セーラの方は、少し別れが惜しいようだ。
だが、いつまでもここにいるわけにはいかない。
「…さて、そろそろ行くよ」
「あぁ。…試験、頑張れよ」
「勿論だ!」
俺とビードは握手をし、ビードとセーラは船に乗り込んでいく。
乗り込んだとほぼ同時に、デッキにギルが現れる。
そして、こちらを見つけるや否や、手を降ってくる。
俺達も降り返すと、ニカッと笑った後、奥の方へと姿を消した。
そして数分後、汽笛と共に、ビード達を乗せた船は、テドラへと向かっていった。
俺達はその船を暫く見た後、その場を後にした。
また、彼らに会うときが心底楽しみで仕方がない。
*
「さてと、これからどうするの?」
「確かに、何も決めてませんわよね…」
「せっかくここまで来たんだから、何かここでしかできない事をしたいよねー」
「同、感…」
「じゃあ、今日は自由行動にするか。…あぁ、でもその前に、ウィル」
「なんですの?」
「ちょっと付き合って欲しいことがある」
メリア達はそれぞれ自由行動にさせ、俺とウィルは町から少し離れた森に来ていた。
ここなら、誰にも邪魔されないだろう。
「それで、私を連れてきた理由はなんですの?」
「まぁ、単純な話、スキルを見せてもらいたい。俺達の旅についてくる以上、戦闘がどれくらいできるのか、それとどんなスキルがあるのかは知っておきたいからな」
これは、大事な事だ。
もし仮にウィルが戦闘が苦手だった場合、メリアと同じように身を守るスキルを渡したりしておきたい。
俺の中では、無理に戦って命を落とすより、逃げてでも生き延びる方が賢明だと思っている。
生きていればやり直しが効くが、死んだらそこまでだからな。
「つまり、私が戦力として使えるかどうかを知りたい、というわけですの?」
「言い方はあれだが…そうだな」
「ふっ、その点は問題ないですわ。私、人魚ですのよ?」
そう言って、ウィルは手のひらに水を産み出す。
それは徐々に球の形を作り上げ、ある程度大きくなった時、ウィルが近くの木に向かって水球を投げつけた。
水球は木に向かって一直線に飛んでいき、木に触れると同時に水球が爆発を起こした。
小さめだったので、木をなぎ倒すとまではいかなくても、木の一部を抉ることはできている。
「おぉ…今のは「水」か」
「元々人魚は、水の中で生活することが殆どですし、自然と使えるようになりますわ。それに…」
ウィルがにやりとしながら、
「私が使えるのは、水だけではないですのよ!」
ウィルは先程とは打って変わって、右手を左肩の近くに持っていく。
すると、右手の軌道に沿うように、先程より小さな水球が出現する。
そして、水球を弾くように勢いよく手を振り払う。
弾かれた水球は、まるで刃のような形となり、的である木に向かって飛んでいく。
そして、そのまま木を切りつけた。
「どうですの?これが私オリジナル〝水刃〟ですわ!」
ウィルが自慢気に胸を張る。
俺は、その威力を見て思った。
ウィルが、どれだけ努力をしたのかを。
確かに水は、高密度で圧縮すれば、刃物のように物を切りつける事ができる。
だが、それはあくまで道具を使った場合。
スキルそのものでやろうとしても、全くできないのだ。
その点、ウィルの水刃はどうだろう。
水刃に寄って切りつけられた木は倒され、その断面はまっ平ら。つまり、一切のズレも無いのだ。
たったそれだけでも、ウィルの努力の賜物だと分かった。
「あぁ、スゴい。それも、想像以上だ」
「っ!ほ、褒めたってなにもでませんわよ?」
「うん?」
「なんでもないですわ!」
よく分かんないが、褒められて嬉しそうにしてるのは分かった。
そこで、ふと思ったことを聞いてみる。
「なぁウィル。その水刃って、一度にどのくらい打てるんだ?」
「少し前にようやく3つ同時に打てるようになりましたわ。ただし、分散させる分、水刃一つひとつの切れ味は落ちてしまいますわね」
「なるほど…魔力の消費量的に連発はできそうなのか?」
「その点も抜かり無いですわ。私の魔力量なら、最大の切れ味の水刃を連続で5回は打ち出せますわ」
「分散しない場合と分散させる場合を考えて、5から15の水刃を連続で打てる。って考えればいいのか…」
「そういうことですわね」
これは、かなり良い戦力だ。
水は込めた魔力や掛けた時間に応じて威力が変わる。
先程のたいして魔力も時間もかけていない水であれだけの威力をだせるなら、魔力も時間もかけたらどうなるのだろうか…
それに、水刃も魅力的だ。
これまでスキルでは不可能とまで言われていた、水で物を切るという芸当をウィルはやってのけた。
しかも、威力と数を状況に応じて少しではあるが変化させられる。
他の誰でもない、ウィルだけの強みだ。
「他には?どんなスキルが使えるんだ?」
「あとは水の派生スキルの飛沫だけですわね。」
「飛沫か…見せてくれないか?」
「勿論ですわ。はあっ!」
飛沫は、威力低めの水の弾丸を飛ばすスキルだ。
ウィルが、別の木に向けて飛沫を放つ。
その瞬間、木の後ろを通るように謎の影が現れ…
「ギャウゥゥゥ!?」
「「なっ!?」」
木から逸れた飛沫が、その影の一つに直撃した。
「ちっ…やれ!」
直撃したすぐ後、その影より先行していた影から、命令するかのような叫びが聞こえる。
その声に答えるように、影の主が俺達に襲いかかってきた。
それは、一体のモンスター。それも、前に対峙した事もあるガビューウルフだった。




