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51 ついてきた者

五章、始まります。

「足りないってどういうこと……!?」

「いや、確かに提示された金額は出したぞ」



 パライル島で新たな仲間、ウィルを加えた俺達は、船に乗る前に足止めを食らっていた。メリア達が聞いてきた情報から、予めウィルを乗せるための金額は用意していた。

 だが、船員は「これでは足りない」と言うのだ。いったいなぜ…



「確かに、この金額であればそこの方を乗せることはできます。ですが、()()()の分が足りていません」

「……ペット?」

「……もしかして、()()()()はペットでは無いのですか?」



 船員が俺の足元を見る。それにつられて俺達も足元を見る。


 …いた。



「お前、もしかしてあの時の?」

「くぅ!」



 ようやく気づいてくれた!と言わんばかりに俺の足に飛び付いてくる子狐。

 その反応を見て確信した。


 あの時、レイラが見つけた傷だらけのエレメンタルフォックスだ。

 だけど、あの路地裏で別れたはずでは…



「その、子、ケイン、の匂い、覚えて、た……とか?」

「あり得るわね。ケイン、その子を撫でてたし」

「えっと、なに?どういうことなの?」



 メリア達が次々と意見を言う。実際、あり得そうな話だ。

 それに、あの時は気づかなかったが、この子には()()()()()

 つまり、誰かに飼われているのではなく、野生のモンスターなのだ。だが、親の元へ帰っていないと言うことは……



「もしかして、親がいない……とか?」

「くぅ……」



 当たりのようだ。

 恐らく、何処かの船に紛れ込んでしまったのだろう。それも、相当前の。でなければ、あんな状態にはならない。

 だから、俺は聞いてみた。



「なぁ、もしよかったら俺達と来るか?お前を、親の元へ連れていく手伝いをしてやる」

「くぅ!」



 よほど嬉しかったのか、尻尾を振りながら俺に飛び付いてくる。



「……ケイン様」

「あぁ、分かっている。いくらだ?」

「こちらでございます」

「……そこそこするな」

「時々異を唱える者もおりますので、それらを考慮させていただくための金額です。勿論、それらが必要ないとおっしゃるのであれば、値引きはさせていただきますが」

「いや、問題ない」



 俺は、追加で子狐の分の料金を支払う。

 これでようやく、中に入れる。



「確認いたしました。どうぞ、中へお入りください」

「あぁ」



 中に入り、俺達の部屋にウィルの荷物を置いた後、俺とウィルはデッキへと向かった。

 ついてすぐ、ウィルは波止場が見える方へとかけていった。

 俺も同じく移動する。



「ビーシャーヌー!」



 ウィルが、大声で友の名を呼ぶ。

 ビシャヌもそれに気づき、去ろうとしていた足を止め、こちらを向く。

 どちらも何も言わず、ただみつめあう。

 だが、お互いに考えていることは同じなようだ。

 お互いに口元に笑みを浮かべ、



「「また会える日まで!」」



 同じことを、同時に叫んだ。

 本当に、いい友達なんだな。

 そんなことを俺は思った。




 *




 部屋に戻ると、メリアとナヴィが子狐をモフッていた。



「おかえりー。お別れは言えた?」

「えぇ。問題ないですわ」

「……少し、寂しい?」

「寂しくない……とはいえないですわ。でも、私が決めたことですので」

「そっか」



 子狐の頭を撫でながら、メリアが話す。

 ナヴィは自重しているようだ。触りたそうだけど。レイラは実体がないことを悔やむがごとく羨ましそうに見つめている。

 まぁ、レイラ曰く、念力(サイコキネシス)は「見えない架空の手で持っているような感触がある」とのことなので、一応触れないこともないらしい。



「それで、ケイン」

「ん?」

「この子の名前、どうするの?」

「……名前?」

「名前」



 な、難題すぎる……

 確かに、この子はこれまで「エレメンタルフォックス」や「子狐」と呼んでいた。だが、俺達が親元へ連れていくと決まった以上、仮だとしても名前はつけておくべきだ。

 なのだが……



「……う、浮かばない……」

「そうね……全然浮かばないわ……」

「以外と難しいねこれ」

「そうですわね……悩ましいですわ」



 全員、こんな感じだった。

 なんとも言えない空気の中、一人思い浮かんだような顔をした者がいた。


 メリアだ。



「……コダマ」

「コダマ?」

「うん。私が、この子を最初に見たとき。毛玉だって思った。だけど、そのまま呼ぶのはかわいそうだから、少しだけ変えて、コダマ。どう?」



 暫しその場に静寂の時が流れる。俺は、子狐を見た。

 今しがた自分を撫でてくれていた手が不意に止まったこと。そして、全員固まっていることに少し戸惑っている感じだ。

 その様子を見ながら、俺は頭の中で連呼してみる。


 コダマ……コダマ……

 うん。アリだな。


 俺は、子狐の前でしゃがみこんだ。

 子狐も、「なに?」と言わんばかりに俺を見てくる。



「なぁ、お前の事、コダマって呼んでもいいか?」

「くぅ?」

「もしダメだったら無理せず言って「くぅ!」くぅお!?」



 話の途中で子狐が俺に飛び付き頬をすりつける。どうやら、喜んでいるようだ。

 その様子を見て、皆も納得した。


 思いついたメリアに、感謝だな。



「よし!今日からよろしくな!コダマ!」

「くぅ!」



 成り行きではあるが、新しい仲間、エレメンタルフォックスのコダマが加わる事となった。


 夜、ビード達と再会したとき、ウィルを見て「また新しい女作ったのか?」と俺が弄られたり、セーラが「もふもふ……かわいい……」とコダマに癒されたりしていた。


 そんなこんなで二日を向かえた時、ついに目的地であるデッドラインが見えてきた。

 さて、どんな旅になるのか楽しみだ。



 ちなみに俺達は、絶賛可愛がっているコダマの秘密を知らない。

 俺達がそれを知るのは、まだまだ先のお話。

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