05 ブルトン洞窟その2
俺の前に現れた蛇。
毒々しい紫の皮膚、長く鋭い二本の牙、暗闇でも光を放つ瞳。
間違いない。この蛇、アシッドバイパーこそが目撃されたDランクモンスターだ。
確かに、このダンジョンに居るモンスターや、ここに来る冒険者の事を考えると、脅威的な存在であることは違いないだろう。
アシッドバイパーは大きい個体でも4メートル程の長さしかないモンスターだ。
また、体内で毒を生成し、牙に溜め込む能力を持っており、毒の牙を使って襲いかかってくる厄介なモンスターである。
ただし、アシッドバイパーの毒はかなり弱く、たとえ人が毒を受けたとしても、初級ポーションでも簡単に抜ける程度の毒である。
さらに、攻撃力自体もそこまであるわけではないので、Dランクモンスターとして扱われている。
…というのが常識だ。
だが、待って欲しい。
確かに、アシッドバイパーは初心者達には荷が重すぎるモンスターだ。
それでも、Dランクの冒険者ならソロでも戦える程度のモンスターだ。
俺も、この程度の相手なら余裕で勝てる。
だが、いくらなんでも…
「なんだ…この数と大きさは…!」
俺の目の前に居るのは推定10メートルはありそうな個体。それが10体以上は居る。
こんなもの、異常としか言えない。
俺は異常性を確かめるべく、孤立していた一体のアシッドバイパーに斬りかかった。
剣はアシッドバイパーの胴を切り裂き、その個体はすぐさま絶命する
…はずだった。
剣は確かにアシッドバイパーをとらえた。
が、完全に切り落とすには至らず、少し深めの傷を負わせた程度に留まってしまった。
決して舐めていた訳ではない。
ただ、普通のアシッドバイパーと比べても異様なまでに硬い筋肉と、異様なまでに柔らかい皮膚によって、斬撃の威力を吸収されてしまった。
このままではこの個体は愚か、他のアシッドバイパー相手にかなりの時間を使ってしまう事になりかねない。
「…仕方ない。こんな所で使う予定ではなかったが、やるしかないか。」
俺は剣に魔力を流し込む。
剣に流れ込んだ魔力は、やがて剣の刃を赤い光で包んでいく。
奥の方に居たアシッドバイパー達も、俺の剣が放つ光を見て危険と察知したらしく、集団で襲いかかってくる。
―むしろ都合がいい!
「食らえ!『火炎波斬!』」
―剣に溜まった魔力を斬撃として放つ技『火炎波斬』。
元にしたのはただ斬撃を飛ばすだけの技『波斬』。
だが、俺が鍛練を重ねた結果、高熱を持たせて飛ばすことが出来るようになった。
まぁ、名前は完成した時に居合わせた冒険者が勝手に付けてたけどな。
俺が放った斬撃は、アシッドバイパー達の胴を次々と切り裂いた。
いくら普通のアシッドバイパーとは違うといえど、高熱の斬撃は防げないみたいだな。
胴が切れ、次々と魔石へと変化していくアシッドバイパー達を見ながら、俺はさらに奥へ足を踏み出した。
これまでは第三者視点を中心にしていましたが、今後はケイン視点を中心にして話を進めます。
なお、視点が切り替わる場合も御座います。