45 再会と旅立ち
「久しぶりだな。元気にしてたか?」
「おうよ。そっちは……なんか大変なことに巻き込まれたようだな」
「あはは……」
「凄かったぜさっきの試合!とくに、斧使いの攻撃に対してのカウンター攻撃!」
どうやら、正午前に帰ってきたらしく、さっきの決闘を見ていたらしい。
なんというか、恥ずかしい。
「ねぇナヴィ、この人達は?」
「あぁ、レイラは知らないよね」
「はじめまして。セーラと申します。ビードとギル、二人と一緒に冒険者をしているの」
「私はレイラ。ゴーストだよー」
「ゴースト……?あ、ほんとだ」
ナヴィとレイラは、セーラと話し始めた。
ちなみにメリアは俺の回復のために隣にいる。
こちらが言うより先に本人がそうしたいと言ったので、あえてなにも言っていない。
それぞれ少し談笑した後、俺の回復に合わせて、改めて向き合った。
「それじゃあ、改めてお礼を言わせてもらうよ。この度は息子、そしてその仲間達を救ってくれたこと、誠に感謝する」
「いや、まぁ……当然の事をしたまでですし……それに、助けられたのはメリアとナヴィがいたからですし」
「私除け者!?」
「いや、貴方まだ居なかったでしょ……」
やっぱり、少しむず痒い。
でも、気持ちはちゃんと伝えた。
それに、レイラのお陰で変な緊張感はなくなった。
「親父、コイツらは堅苦しいの苦手なんだぜ?もうちょっとラフな感じでもいいんじゃねぇか?」
「それは彼を見れば分かるよ。だが、感謝を述べるのに砕けた言い方をするのは失礼だろう?」
「あはは……そんなの気にしないで良いですよ」
「むっ、そうか……」
モーゼさんも砕けた感じになったところで、俺達はビード達と別れたあとの事を聞いた。
俺達と別れモーゼさんに俺達の事を話したあと、自分達の実力不足を感じたビード達は、討伐依頼を中心にいくつもの依頼をこなしていた。
そのかいあって、もう少しでCランクへの昇格試験を受けることができるところまできたようだ。
「それで、実際にはあといくつ達成すればいいんだ?」
「あと一つ達成すれば受けられるようになるぜ。ただ、最近無茶して依頼をこなしてたからな……」
「体とか結構痛くてね……だから、最後の依頼は軽めのやつにしようと思ってるの」
「まぁ、試験の前に怪我して受けられなくなるのもキツいからな。妥当な判断だとおもうぞ」
ただ、問題はどの依頼を受けるかだ。一言に軽めと言っても、実際には色々ある。
それに、簡単な内容であればあるほど達成時のポイントも減ってしまう。なので、高ランク冒険者になるほど無縁となっていくのだ。
かくいう俺も、途中から討伐依頼しか受けていなかった。
「それなら、私からの依頼があるぞ」
「本当か!親父!」
「……いいのか?ギルド長自らが依頼を紹介するのって」
「なぁに、元々普通に依頼するつもりだったものだ。構わないだろう?」
「うーん……」
「それで?その依頼ってのは?」
「あぁ、デッドラインに居る私の友人に手紙を届けて欲しいんだよ」
「デッドライン?」
「ケイン君達は知らないよね。このテドラが他の大陸と交易をしているのは知っているよね?その中の一つに魔族が多く暮らしている大陸があるんだ。そこの港町の名がデッドライン、というわけさ」
なるほど、別の大陸にいる友人に手紙を届ける依頼か。ということは昨日見た客船で行く、ということになる。
確かに行き来するだけだし、体を休めるにはちょうど良い。彼らにはピッタリの依頼だろう。
それにしても、別の大陸か…
「興味があるかい?」
「え?……まぁ、はい」
「なら、君達も行ってみるといい。……そうだ、船代は私がだそう」
「いいんですか?」
「もちろん。それに、息子達を助けてくれたお礼でもあるんだ。それくらいはさせてほしい」
俺は、隣にいたメリア達を見た。
皆、行く気満々だった。
「決まりだね。お前達も、それでいいか?」
「あぁ、問題ない」
「むしろそっちの方がいいぜ!」
「そうね、もっとお話したいもの」
ビード達もその気になっていた。
……こりゃ、断る方が失礼だな。断るつもりもなかったけど。
「それじゃあ、頼んでもいいですか?」
「あぁ、任せてくれ。すぐに用意しよう」
「分かりました。それじゃあ、少しの間だが、よろしく頼む」
「こっちこそ!」
俺とビードは握手を交わした。
その日はそのまま別れ、夜になってから「二日後に出港する船に乗る」と伝えられた。
―そして二日後。俺達は港に来ていた。
「うわぁ……」
「これ、すっごい豪華じゃない?」
「というか、絶対高いよね!?」
俺達が乗る船。
それは、普段停泊しているような普通の客船ではなく、貴族なんかが使うような客船だった。
乗り込んでるのも、身なりの良い人達ばかり。場違いにもほどがある。
「あの……ほんとにこれに乗るんですか……?」
「あぁ」
「普通の客船でも良かったんですよ?」
「それだと、君達への感謝としては足りないだろう?」
「でも、ビード達もこれに乗るんですよね?かなり値がはると思うんですが?」
「その点は心配ない。私が少し工面したから、彼らも普段の客船の値段で乗れるようにしておいた」
「抜かりなかった……」
うん。諦めよう。
どのみちタダで乗れるなら、豪華でも良いじゃないか。そう思うことにした。
俺達は銀獣の三人と合流し、船に乗り込んだ。そのままデッキに上がり、海の方を見る。
どこまでも、どこまでも青く広がる海。
この先に、別の大陸があるなんて想像もつかない。
そんな海の向こうに、これから向かうのだ。
程無くして、汽笛が鳴り響く。出港の合図だ。
船はゆっくりと前に進み始める。
「ケイン、こっちー」
ふと、後方にいたメリアに呼ばれる。そこには、ナヴィとレイラもいた。
俺はメリア達の元へ向かい、港を見やる。港には、出港を見送りに来た人がいた。
そこには、モーゼさんの姿もあった。
「ありがとうございました!また、この町に帰って来ます!」
俺は、聞こえるかは分からないが、大きな声で叫んだ。
声は無事モーゼさんに届いたらしく、モーゼさんは大きく手を降って送ってくれた。
これから向かうは今だ先が見えない海の向こうの港町、デッドライン。
そこでの旅が、どんなものになるのか…
俺は、楽しみで仕方がなかった。
「そういやケイン。決闘の報酬って貰わなくて良かったの?」
「……あ」
……まぁ、いっか。
これにて三章「渚の奔放幽霊」編は終わりです。
次回より、第四章となります。




