42 ケインvs迅雷の孤豹 その1
「おいキサマ!あの子達はどうした!この決闘ではパーティー全員参加だと決めたじゃないか!」
「だから、これで全員だ」
「……もしかして、あの二人とはパーティーを組んでない……とか?」
「はぁ!?そんなわけ「そうだ」あるかぁぁぁぁぁぁ!?」
「言っただろ?二人は旅の仲間だって。だからパーティーは組んでないし……そもそも、二人とも冒険者じゃない」
「冒険者じゃ……ない、だと……?」
なんかよく分かんないけど、ロロヤが膝から崩れ落ちた。
まぁ、あれだけ啖呵切っといて「実は冒険者じゃありませんでした」なんて言われたらそうなるよね。
……まぁ、これで勝ちにはならないんだけどさー
『あのー、そちらの方うなだれてますけど大丈夫なんですかー?』
闘技場で目立つ位置にある実況席から、女性の声が聞こえた。
「あ、大丈夫です。すぐ治りますんで進めちゃってください」
「試合が始まったら嫌でも立ち上がるからなぁ!」
『分かりましたぁ!それではこれより、ケイン・アズワードVS迅雷の孤豹による決闘を開始いたしまぁす!』
実況席から元気の良い声が聞こえる。
というか、アイツら迅雷の孤豹なんてパーティー名だったのか。
昨日パーティー名教えてくれなかったなぁ……
『勝敗は至ってシンプル!どちらかの選手全員が戦闘不能とみなされるか、ギブアップをするまで!それでは、準備の方はよろしいですか!?』
そう言われ、俺は剣を構える。
向こうもロロヤがふらりと立ち上がったのち、エイザが後ろに引き、ロロヤとユートが前にでる。
あれが彼らの戦闘スタイルなのだろう。
『準備はできたようですね!それでは……初めっ!』
戦いのゴングが鳴り響き、決闘が始まった。
*
最初に仕掛けてきたのはロロヤだった。
「食らいやがれぇぇぇぇぇぇ!!!」
自慢の大剣を振りかざし、俺に突撃してくる。
決闘で使う武器にはあらかじめ非殺傷の加護のようなものがかけられているのだが、そんなのお構い無し、むしろ殺すつもりで襲ってくる。
俺はその攻撃を右にずれてかわす。
「今です!〝炎〟!」
そこに、俺が右に避けるのを読んでいたかのようにエイザの繰り出した炎が襲ってくる。
だが、俺も易々と食らうわけにもいかない。
なので、俺はレイラから受け取ったスキルのうちの一つ、「魔力眼」を発動した。
魔力眼は魔力の流れを見抜き、次にどの方向に流れるのかを知ることができるスキルだ。
一見ただ流れを見破るだけのスキルのように思えるが、攻撃の回避や次の行動の予測など、使い方次第では最強クラスのスキルとなりうるスキルである。
俺は魔力眼を駆使し、飛んでくる炎を次々とかわしていく。
だが、敵はエイザだけではない。
エイザが炎を撃ち終えたタイミングで、ロロヤとユートの連携攻撃が襲いかかってくる。
こちらはスキルではなく単純な攻撃なので、魔力眼を使わずに回避していく。
(なるほど。術者が撃てない時は二人が近距離で攻め、術者を狙わせない立ち回りする。撃てる時は二人が術者の邪魔にならない、かつすぐに攻撃できる立ち回りをする。
確かにCランクに上がれる、と意気込むだけの実力はあるようだ)
少しして、再びエイザがスキルによる遠距離攻撃を仕掛けてくる。
俺は再び魔力眼を発動して回避しつつ、今度はエイザを観察する。
どうやらエイザは威力とコントロールを両立させるために、一度の発動で全ての魔力を使いきるが故に、撃ち終えたあとはしばらくスキルを発動できないようだ。
魔力眼で見れば、エイザから魔力が放出されているだけで、充填されている様子がない。
だからこそ撃ち終えた直後、自然回復を待っている時を狙いたいのだが、そこに二人がカバーに入ってくるため狙えない。
だから、俺はひたすら回避した。
ロロヤの大剣も、エイザの炎も、ユートの斧も。
一回の反撃もせず、ただひたすらに回避し続けた。
「おらおらどぉしたぁ!回避してばっかじゃ勝てねぇぞぉ!」
ロロヤの挑発するような発言は、俺の攻撃を誘うようなものだったが、それでも回避に専念した。
そうして回避し続けていくうちに、相手―ロロヤが苛立ちはじめる。
苛立ちが行動に現れており、攻撃がだんだんと大振りになっていく。
それは、エイザとユートも同じだった。
淡々と回避し続ける俺に対して、冷静な二人も少しずつ焦りを含んだ攻撃になっていく。
時間にして5分足らず、すでにロロヤ達は術中にはまっていた。
「クソ……!避けてばっかで攻撃してくる気配がねぇ!」
「どうするリーダー。このままだと俺達の体力が底をつくぞ…」
「んなもん決まってるだろっ!一発デカイのぶち込むんだよ!」
ロロヤがこれまでの連携が嘘のように、一人で飛び出してくる。
だが、ロロヤは吐き出した言葉とは裏腹に、ただの大振りで攻めてくる。
なので、俺は普通に横にずれて回避する。
「今だユート!」
「おうよ!食らいやがれ!〝大地割り〟!」
俺が回避したところめがけて、ユートがスキル〝大地割り〟を使ってくる。
なるほど、これが狙いかっ!
俺は回避したばかりですぐに動けず、そのまま大地の割りを食らう。
すさまじい轟音と共に、ステージで爆発か起きた。
「よっしゃあぁぁぁぁ!ユートの大地割り、たとえ誰であろうと立ち上がれはしな……っ!?」
そこまで言って、ロロヤの目が開く。
遠くにいたエイザも、観客達も声が出なくなっていた。
それはそうだろう。
なにせ煙が晴れ、彼らの目に映ったのは…
戦闘不能になって倒れているユートと、無傷で立つ俺だったからだ。




